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 昨日はシネマDEりんりんのイベントがブックカフェ二十世紀の開催された。
 元ぴあ編集長の坂口英明さんをゲストに「ぴあ的映画生活のいま、むかし」と銘打ってのトークショー&懇親会。
 大盛況だった。

bcnijusseiki160319

     * * *

 シナリオライター・横谷昌宏の名前を覚えたのは、昨年の夏、金子修介監督『クロスファイア』のエンディングロールだった。
 原作(宮部みゆき「燔祭」&「クロスファイア」)のストーリーを要領よくまとめ、冒頭からスピーディな展開で観客を映画世界へ引き込み、なおかつクライマックスでは映画本来の魅力である特撮を駆使してスペクタクルな要素を全面に押し出したオリジナルな展開で映像の威力を存分に見せつけてくれた。
 細部に不満は残るものの、素直にヒロインに感情移入できて、観終わったあと、心に響くものがあった。最近のエンタテインメント小説の映画化では成功した部類に入るのではないか。脚色の上手さを感じた。
 そんな横谷昌宏の脚色の腕前を再認識する映画に出会った。2月に公開された堤幸彦監督『溺れる魚』である。
 中谷美紀と渡部篤郎のコンビのおかしさと斬新な映像で話題を呼んだTVドラマ『ケイゾク』が映画化されたときには、コミカルな演技に笑いながらリアルな謎解きを展開する、同時に凝ったカメラワークも堪能できる新趣向のミステリ映画が誕生するのではないかと大いに期待したものである。
 ところが肝心のストーリーがあまりにケレン味たっぷり、おまけにトリックそのものが陳腐だった。何よりクライマックス、監督のひとりよがりの演出に辟易した。
 『溺れる魚』は『ケイゾク/映画』の系列に入る。邦画に新感覚ミステリ映画が誕生することを願ってやまない僕としては今度こその期待があった。ポスターからなにやら妖しい雰囲気が漂ってきて、シナリオも横谷昌宏だからひょっとすると、と思ったら、想像とは違っていたものの、快作に仕上がっていた。
 映画を観た時点では原作の存在を知らなかったが、映画は原作を大胆に脚色していることは容易に想像がつく。

 原作は『闇の楽園』という、新潮ミステリー倶楽部賞を受賞した戸梶圭太の同名ミステリ。
 盗金の横領と万引きという犯罪によって、警視庁特別監査室で取り調べを受けている問題刑事二人が、女監査官から罪を不問にするので、ある公安刑事の悪事を暴く調査をせよと任命されるのが発端。愉快犯〈溺れる魚〉に恐喝されている大手複合企業の幹部と公安刑事の癒着の事実が判明するが、癒着を知ったもう一人の借金まみれの公安刑事が〈溺れる魚〉になりすまして当の企業に大金を要求してきて話が大きくうねりだす。
 秘密裏に事件を解決したい特別監査室の意向で仕方なく任務を遂行する問題刑事、犯人を始末するため企業幹部から雇われた暴力団、何としても金を奪いたい公安刑事と彼のイヌに成り下がっている過激派幹部。中盤から、このとんでもない連中が入り乱れ、白昼の大都会の真ん中で金の争奪戦を繰り広げる怒涛の展開になっている。
 ミステリの要素はほとんどない。リアリティを無視した警察小説とでもいうのだろうか。落ちこぼれ刑事が主役となり、ダメ人間ばかりが登場するのが目新しい。

 映画は原作のトンデモ世界をよりグレードアップさせ、堤監督らしい遊び感覚を随所に挿入しながらドタバタハチャメチャ度を増している。それだけでも面白いと思うが、オリジナルエピソードでミステリ的味わいを加えているのがミソ。
 開巻、少年が部屋の水槽を眺めていると、異様な風体をした男が侵入してきて少年に問う。
「魚が溺れるのを見たことがあるか?」
 怖気づいた少年が階段を駆け下りると、両親と姉の惨殺死体が横たわっている……。ミステリアスな導入である。
 目を瞠ったのはタイトル後に続く一見脈略のないエピソードが続けざまに羅列される構成だ。
 まず主役である二人の刑事(椎名桔平&窪塚洋介)のダメさぶりが紹介される。検挙のために踏み込んだ現金強奪犯グループのアジトであっけなく犯人たちを射殺し、机に置かれた札束をネコババしてしまう椎名刑事。非番の火に女装でショッピングを楽しむ窪塚刑事(署内で婦人警官の制服を盗んだ微罪があると後の監察官の取調べでわかる)。
 銀座4丁目の交差点。怪しげな男たちが数人。コート姿の河原サブを囲んで何やら脅しをかけている。河原サブは落ち着かないそぶり。時間がきて、河原は意を決すると下半身真っ裸で銀座通りを雄叫びをあげながら駆け抜けた! その模様をデジタルカメラで撮影しているIZAM。
 それぞれの査問委員会で問われる椎名桔平と窪塚洋介。
 新進気鋭のデザイナーであるIZAMが経営するクラブに集う奇抜ファッションの若者たち。その中に陽気に外人たちとおしゃべりする伊武雅刀。身分(公安刑事)を隠しての捜査だが、IZAMはすべてお見通し。店内から昼間撮った銀座の写真をネットに公開してご満悦の体。
 全国でDTPチェーンを展開する某フィルムメーカーの部長会議。河原サブや一緒にいた男たちの顔が見える。彼らは同じ職場の幹部だった。愉快犯〈溺れる魚〉から次にどんな自尊心を傷つけられる要求がくるか戦々恐々としているのだ。この部長会のボスである専務は事件を警察に届けず〈溺れる魚〉メンバーの選定を個人的に伊武に依頼していた。
 また監査室。椎名と窪塚はそれぞれ女監察官・仲間由紀恵から罪を不問にする条件に特命を受けるのだ。伊武がどんな裏取引きをしているのか探りなさい。
 一見、バラバラの人物、エピソードがここで結びつき、観客に事件の全貌をわからせる仕組みとなっている。この構成にまず唸った。
 女装趣味の窪塚に対抗して、椎名を映画俳優・宍戸錠(日活アクション全盛時代のエースのジョー)に心酔するキャラクターにしたのも特筆もの。この宍戸錠フリークぶりは徹底していて、椎名桔平の怪演もあって始終笑いっぱなしだった。また原作では単なるチョイ役でしかなかった女監察官のキャラクターを膨らませてダメ刑事ふたりに絡ませたのも光る。
 とにかくこの映画、全編笑いの連続なのだ。
 『スペーストラベラーズ』もかなり笑える内容ではあった。が、ラストのまるで観客に泣きを強制させるようなベタベタな演出がどうしようもない。
 映画『溺れる魚』は前半から中盤にかけて主役二人の特異なキャラクター、〈溺れる魚〉のばかばかしい要求に右往左往する愛社精神溢れる社員の愚かな姿等々、登場人物の台詞、行動にバカ笑いし、絶体絶命の危機に瀕したクライマックスでは椎名桔平の一言にちょっとばかり胸を熱くさせてくれる。しかしそのまま涙や感動にはもっていなかない。全編ユーモアのスタンスは変わらないのだ。その姿勢がいい。
 主役二人の刑事を含む登場人物たちの造形と抜群の構成力が堤監督のスタイリッシュな映像、プロモーションビデオのようなカッティングとあいまって愉快な映画に仕上がった。リアリティの無さが逆にこの映画に弾みをつけたような気がする。
 ドラマの要となる、中盤までなかなか顔をださない監査室長の警視正(渡辺謙)のアップはなかなかの衝撃だった。大河ドラマ出演で頭を剃った渡辺謙の起用も功を奏している。中途半端に起用した『スペーストラベラーズ』との差はこんなところにも表れているというと言い過ぎか。

 さて、そんな横谷昌宏の次回作は金子監督とふたたび組む『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』。ゴジラ映画の新作だ。脚色に才能を発揮した彼がオリジナルでも魅力的なドラマを書いてくれるのかどうか。
 印象に残る人物造形、抜群の構成力で平成ゴジラの物語を紡いでもらいたい。 
 



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Comment
No title
keiさんのやりたかった事が形になってきましたね! 広告内容も同じ世代から若い人たちまでアピール出来るものだと思います。そちらだから出来る事ですよ、札幌あたりでもほとんど関心ない?かな。 正解でしたね!これからのkeiさんの活躍、忙しくはなると思いますが きっと楽しんだろうな!
仕事で遊ぶのは究極の楽しさ ですよ。
ジンギスカン さん
毎日、楽しいですよ!
収入を考えると、ウームですが、それ以外はハッピー、ハッピーです。
ところで、先日、カシオペアが廃止になりましたね。一度利用して帯広にお伺いしたかったのですが。
No title
大丈夫ですよ! 新幹線が4時間で函館まできますので、7時間かけて函館まで迎えにいきますから(笑) 5月28日から29日に大阪に行きます。空港券からホテルまで予約を入れました! でもホテルは取れませんね~ この時期に5月の予約取るのも大変でした。人が多いんだよね、きっと。
ひと晩楽しんで、次の日に帰ります。
ジンギスカン さん
そうですか。
私は、仕事があるので二日間は休めません。その夜深夜バスで帰ってそのまま仕事に出るつもりです。
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Author:kei
新井啓介
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まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)

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