今、ドラマを作らせたら秀作ぞろいのWOWOWと、かつて〈ドラマの〉と言われ、ドラマ作りに定評のあったTBSが「ダブルフェイス」に続いて共同制作した「MOZU」シリーズは毎週の楽しみだった。
 作りが映画だった。カメラワーク、ドラマ(ストーリー)も。

 「Season1〜百舌の叫ぶ夜〜」の原作となった「百舌の叫ぶ夜」はむちゃくちゃに面白いミステリだった。すっかりハマってシリーズ全作を読破した。
 原作を読んだものからすると、ドラマが原作とは違う方向に向かっていることがわかった。仕方ないのかもしれない。
 「百舌の叫ぶ夜」がそれまで映像化されなかったのは、叙述トリックだからだろう。活字だから成立する謎を映像にすると陳腐なものになってしまう。

 小説は読んでいないが、伊坂幸太郎「グラスホッパー」も叙述トリックで読者をミスリードさせる作品だと思う。予告編の〈映像化不可能〉という惹句は、つまりはそういうことかと、映画を観て思った。11日(水)のことだ。

 瀧本智行監督は「犯人に告ぐ」で注目した。

     ▽
2007/12/16

 「犯人に告ぐ」(シネマスクエアとうきゅう)

 毎週愛読している週刊文春は年末にミステリベストテンを掲載する。「犯人に告ぐ」(雫井脩介/双葉社)は2004年度国内部門第1位の栄冠に輝いた。僕が図書館で見つけたのは翌年の6月。評判どおりの面白さで、夢中でページを繰り、読了後の充実感といったらなかった。
    
 宮部みゆきの「模倣犯」は、劇場型犯罪を企む犯人を描いたものだったが、「犯人に告ぐ」は前代未聞の劇場型捜査でメディアを巻き込みながら犯人検挙に挑む刑事を主人公にしている。

 かつて児童誘拐事件の捜査ミスの責任を負わされ、左遷の憂目にあった神奈川県警の刑事が、6年後に呼び戻されて劇場型捜査の主役に抜擢される。連続児童殺人事件の捜査本部責任者として自らTVのニュース番組にレギュラー出演して犯人を挑発しながら陣頭指揮をとるのだが、これはある意味上層部の世間やマスコミに対する〈生贄〉みたいなものなのだ。犯人が逮捕できれば、過去の瑕を帳消しにして本部に戻らせるが、失敗したら切り捨てる。かつてそうだったようにすべての責任を転化させるだけ。どちらに転んでも県警の名誉は保たれる。
 上層部のお膳立てに乗り、刑事は奇想天外な捜査方法で一般市民の中に紛れ込んでいる殺人犯をあぶりだしていく。しかし事はそう簡単に進まない。捜査過程でさまざまな邪魔が入るのだ。警察署内の軋轢。視聴率に毒されたTV局のリーク合戦。葛藤と反目。さまざまな人間関係に翻弄されながら、それでも一つの信念を支えに素顔のわからない犯人に迫っていく刑事の姿が頼もしい。
 過去と現在が交錯するクライマックスの緊張感、高揚感がたまらなかった。

 主人公の巻島刑事は50代の、肩にかかるほどの長髪姿。団塊の世代が1970年代の姿のまま現代に現れたようなイメージがあった。刑事といっても、主流をはずれたアウトロー。
 ショーケン主演で映画にならないか。読了してすぐに思った。21世紀まで生きているマカロニを彷彿させる刑事になるのではないか。何かと警察と問題を起こしているショーケンだからこそ主演に意味がある、と。

 真っ先にショーケンをイメージしたのは、短髪のショーケンに飽きていたことにもよる。90年代、髪を短くしたショーケンは「課長さんの厄年」「冠婚葬祭部長」等のTVドラマに、ごくごくふつうのお父さん役で出演、コミカルな演技を見せてくれて喜んでいたのだが、その後もずっと同じヘヤスタイル。70年代から80年代にかけてショーケンは長髪、短髪、アフロ、ちょんまげ、それに髭面と、さまざまな顔を見せてくれた。いつまでも同じ印象を与えないのがショーケンらしさだと信じている僕は、たまには耳が隠れるくらい髪を伸ばしてよ、ってな気持ちがだんだん強くなっていったのだ。その方がかっこいいし。
 髪ふりみだし、ボロボロになりながら犯人逮捕に駈けずりまわるショーケンなんてまさに画になるじゃないか!
 でもまあ、ショーケン主演の「犯人に告ぐ」映画化なんて、誰も考えないだろう。実際豊川悦司の主演の映画化が発表されて「ああ、やっぱり」。

 閑話休題。
 それにしても最近トヨエツは映画に出ずっぱりだ。今年は「愛の流刑地」に始まって、「犯人に告ぐ」「サウスバウンド」「椿三十郎」。数年前までの役所広司みたいだ。まるで違うキャラクターだから役所冥利、失礼、役者冥利だろう。トヨエツはいわゆる2枚目より、エキセントリックなキャラクターの方が似合っている。ということはショーケンとダブルところがあり、「犯人に告ぐ」の巻島はお似合いということになるだろう。少々無理のある論理か。
 
 しかし、この映画、ほかの出演映画に比べて地味な印象がある。公開される映画館数が限られていた。だから観るのがこんな終了間際な時期になってしまったのだ。

 キャストもそう。巻島役の豊川悦司のほかは、妻が松田美由紀、上司で狸親爺の県警本部長に石橋凌。年上の、一番信頼できる部下は笹野高史。巻島の足を引っ張り、ライバルTV局に情報をリークするエリート刑事が小澤征悦。リークしてもらうニュースキャスターが片岡礼子。しかし、この地味さが功を奏した。リアリティがあるのだ。部下の平賀雅臣なんて重要な役どころではないものの、存在感が際立っていた。トヨエツと笹野高史の関係は、その昔の渡哲也と高品格だもの。好きな女優ではないけれど松田美由紀も上手い。煙草はちょっとという気がしたけれど。
 巻島がレギュラー出演するニュース番組の男性キャスターが崔洋一。仰天キャストだが、これもなかなかイケルのだ。
 
 読書からもう2年経っていて、原作の詳細を忘れていることもあるかもしれないが、ストーリーにまずのめり込めた。だからこそ言えるのだが、構成に破綻がない。小説世界を、きちんと破綻なく映像化していた。映画化にあたって変更点は感じるものの、違和感はなかった。しいて言えば、最初の誘拐事件で本庁の刑事に見せた巻島の心情と、その後の捜査指揮を執る連続殺人事件のそれが乖離していること、誘拐事件の容疑者と思われる青年をその後も関監視している状況の説明不足か。前者は、主人公の置かれた状況の変化、後者は観ていれば容易に想像できる範囲とそれほどのものではない。

 クライマックス、巻島の台詞に熱くなれたのもうれしい。
 日本にも「殺人の追憶」「ゾディアック」に匹敵する映画が誕生したということか。少々甘いかもしれないが、推理することを前面に押し出してストーリーを構築するということだ。ベストセラーミステリをきちんと映画化したということでも、最近の日本映画でも稀有なことなのだから、強調しておきたい。
 瀧本智行はまったく知らない監督だが、脚本の福田靖は「海猿」を担当している。「HERO」もそうなのか。メジャーの本田克広、十川誠志の向こうを張るコンビになるか? 次作も期待したい。
 
 わざと色を抜いたようなセピアカラーが冬の風景をより寒々とさせていた。それぞれの人物の心情も反映させていたのかもしれない。
 銀残しの撮影だと思っていたら、エンディングロールでHD撮影だとわかって驚いた。HDだと、フィルム同様に実際の撮影時に何か細工するのだろうか。それとも編集時ボタン一つでどうにでもなるものなのか。

 【追記】

 個人的には、町田(政則)さんが記者役(冒頭で、巻島をキレさせてしまう)出演していたのがうれしかった。
 同じ事務所の永倉大輔さんがおいしい役で台詞はないもののかなりスクリーンに登場していた。
     △

 「犯人に告ぐ」はWOWOWの制作だった。
 「脳男」も先に小説を読んでいたが、映画はかなりの面白さだった。シナリオが良いということもあるのだろうが、瀧本監督の力量を思い知らされた。原作に夢中になった者を映画化作品が裏切らないというのは、稀有なことなのだ。

 というわけで、「グラスホッパー」にも期待していたわけだが……うーむ、つまらなくはない。でもなぁ、読んでいなくても小説の方が面白いだろうとは予測できる。
 最後の謎解きのシーンなんて、逆に興ざめしてしまったほど。

 同じ叙述トリックでも、「アヒルと鴨のコインロッカー」の映画は、小説の面白さをきちんと映像化していたような気がする。

 役者陣はいい。適材適所という感じ。
 山田涼介の殺し屋(蝉)、良いではないか!
 鯨(浅野忠信)のエージェントであるポルノショップの女主人が特異な風貌で「誰だ、この女優は!」。エンディングロールで山崎ハコだとわかり、膝を打った。すげぇメイクアップ。
 吉岡秀隆が演じた押し屋の名前、〈槿〉って何て読むんだ? あさがおだって。読める人いますか?
 奈々緒って悪女が定番になってしまうのかな。

 撮影(撮影監督)が阪本善尚。




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Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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