今年は市川崑監督の生誕100年。それを記念して出版された「市川崑と『犬神家に一族』」(春日太一/新潮新書)を先月読んだ。
 感想は後日11月の読書にまとめるが、ついこの間、発作的に「完本 市川崑の映画たち」(市川崑・森遊机/洋泉社)を購入したこともあり、同じ著者が和田誠と市川崑映画の魅力について語った「光と嘘、真実と影 市川崑監督作品を語る」の感想を転載したい。
 市川崑映画に対する自分の想いが時系列に記されているので。

 「火の鳥」は市川崑監督の失敗作の一つであるが、最近観たくてたまらない。DVD(BD)になっていないのだから、名画座での上映を望むしかないのだが。ビデオにはなっていたのだろうか? ミシェル・ルグランの音楽がネックになっているのかと思ったりしたりして。
 しかし、神保町@ワンダーの映画コーナーでパンフレットを見つけた。あるところにはあるんだな。

 2Fのブックカフェ二十世紀では、19日(日)にまた橋本一郎さんのトークショーが開催される。22日(火)は「年忘れ二十世紀パーティー」なるものが開催される。ゲストは立川キウイ師匠。それにしても、キウイさん、「編集よもやま話 第4回」のゲストのときも、今回もなぜ自身のブログやツイッターで宣伝しないのだろう。個人的には噂の志ん相の常連たちが来ないかなあと期待している……

 今週の古書街散策成果。
「リヴィエラを撃て(上・下)」(高村薫/新潮文庫)
「決定版 ルポライター事始」(竹中労/ちくま文庫)

          ◇

2001/11/27

 「光と嘘、真実と影 市川崑監督作品を語る」(和田誠・森遊机/河出書房新社)  

 映画監督・市川崑の名を知ったのは、小6の時「木枯し紋次郎」を毎週観るようになってからだ。それまでは時代劇なんて年寄りが見るものと馬鹿にしていた。勧善懲悪の予定調和的ドラマ、かつらとひとめでわかる髷、着物も破れない嘘っぽい殺陣……。
 ところが「木枯し紋次郎」は違った。まず現代感覚あふれる主題歌(和田夏十作詞・小室等作曲・上條恒彦歌)が耳をとらえた。タイトルバックの演出が斬新だった。内容がとにかくリアル(様式美を無視した殺陣は今でも語り草になっている)。時代劇特有の嘘っぽさが感じられなかった。ほとんど悲劇でラストをむかえ、観終ってけっして爽快になるようなことはなかったものの、主人公(中村敦夫)の姿形、言動のかっこよさとともに、あくまでも時代の説明だけに徹するナレーション(芥川隆行)、荒涼とした自然や町を切り取るカメラワーク、こちらの生理に合致したカット割りや編集(カッティング)に夢中になった。

 思えばこの時期、いわゆる子ども番組から大人ものへ興味の対象が移ってきた多感な頃でもあり、「木枯し紋次郎」は将来映画監督を目指して8㎜映画を撮っていた僕にとって、構図だとか編集だとかの極意を学ぶ絶好のテキストになった。(その他のお手本として恩地日出夫、斎藤耕一、海外ではフランコ・ゼフレッリがいた。)    

 高校時代には「犬神家の一族」が公開され、華麗な映像美とテクニックに魅了された。神業みたいなカッティングに驚愕した。以後5作まで製作された石坂浩二主演の金田一シリーズの公開は邦画劣勢の時代の中で大いなる楽しみとなった。  
 僕の映画監督市川崑崇拝は頂点に達した。とにかく過去の市川作品を鑑賞したくてしようがなかった。が、そういう機会はない。せめて市川監督の研究本でもあればとも思ったが、これもまったくないのである。
 黒澤明や溝口健二 、小津安二郎についての本は見かけるものの、同じく巨匠の部類に入る市川崑の研究本がない。これはいったいどうしてなのか。キネマ旬報社からもその手の本が出版されていなかったことがまったくもって不思議だった。  

 そんな市川崑ファンである僕の渇を癒してくれたのが「市川崑の映画たち」(ワイズ出版)だった。森遊机という新進の映画評論家が市川監督のデビュー作から最新作までの膨大な作品について監督本人と語り合うインタビュー集である。ちょっと高価すぎて購入できなくて図書館で借りて読んだのだけれど(今古書店で探索中)、映画史ではカットされてしまうような作品をも網羅しており、なおかつ市川崑自身の作品についての感想が聞けるのである。これはうれしかった。

 この本が契機になったかは知らないけれど、次に「黒い十人の女たち」がレイトショーされ、世の市川崑ファンが名乗りをあげてきた。おいおい、あなたたち今まで何していたのよ、と言いたくなるくらい。「どら平太」公開にあわせて映画紹介を含んだ市川崑研究のムックも発売されるなんてもう天にも昇る気分。わが世の春ってな感じだった。  

 さて、森遊机の市川崑監督に関する書籍がまた店頭に並んだ。今度は和田誠との対談で市川映画の魅力を思う存分語る趣旨。
 市川ファンのゲストも豊富だ。塚本晋也、井上ひさし、小西康陽、橋本治、椎名誠、宮部みゆき。
 塚本監督は「野火」をリメイクしたいと熱く語る。井上ひさしは「おとうと」を観て市川監督が大好きな監督の一人になった。小西康陽は当然自身がレイトショーをプロデュースした「黒い十人の女たち」。橋本治は誰も市川崑について書かなければ自分が書こうと考えていたところ、「市川崑の映画たち」がでて「もういいや」とやめたのだとか。椎名誠が「股旅」を語るのがうれしかった。宮部みゆきは「四十七人の刺客」。

 冒頭で、市川崑演出によるホワイトライオンのCFの話がでてくる。加賀まりこの出演したもので、「黒い十人の女たち」のレイトショーの時、同時上映された。オクラ入りしたCFと言われていたのだが、和田誠によるとその後オンエアされたらしい。このCFでさすが「市川崑!」と思ったのは、加賀まりこが実際に歯磨き粉をつけて歯を磨いてるところだった。その昔、歯磨き粉のCFといったら、皆歯ブラシだけ口に入れて磨くのが当たり前だった。子どもの頃、歯磨き粉のCMで実際に歯磨き粉を使わないのか不思議でならなかった。業界にそういうルールがあったのかもしれない。市川監督は見事そのタブーをやぶったのである。たぶんそのタブー破りがNGになった要因だろうと考えた。やはりそうみたいだ。若き加賀まりこはキュートで、口の中歯磨き粉だらけでもちっともいやらしくないのに。  

 なぜ市川崑研究本が出ないのか? あまりに多い作品、さまざまなジャンルに渡る作品が原因なのか100本以上の作品、確かに多い。そんな作品群を包括して評価できる映画評論家がいなかったのだろうと、二人は語る。
 80歳を過ぎた今でも市川監督は精力的に新作を発表しているが、昔は年に6本もの作品を撮ったこともあったという。現在の三池崇史みたいな存在だったと言われたときに新鋭監督、若い市川崑の姿を思い浮かべることができた。
 市川作品は大きく3つに分けることができると森はいう。
 「ビルマの竪琴」「炎上」「おとうと」などの文芸作品。「東京オリンピック」「黒い十人の女」などのモダニズムが貴重なスタイリッシュな作品。金田一シリーズ、「火の鳥」「鹿鳴館」「どら平太」みたいなコマーシャルな大作。
 僕はというと大作より小品が好きだ。「股旅」はこの上もなく大好きだし、80年代に公開され、今でもビデオになっていない「幸福」も忘れがたい。「おはん」も評判がいい。これは文芸ものになるのだろうが、文芸大作「細雪」の次に続く佳作というイメージがある。僕は主題歌を五木ひろしがうたっていて、いまだにビデオも観ていないのだけれど。
 金田一シリーズの中では「悪魔の手毬唄」が傑作だと常々思っていて、対談の中で筒井康隆がミステリ映画の3本に入ると言っていたと語っていて我意を得たりの心境。  

 市川映画のグラフィカルな部分を評価する人は多いという話から、同じ傾向の監督に実相寺昭雄、篠田正浩、増村保造の名を挙げているところに、自分の好みを指摘された気分。皆、好きな監督なのだ。

 森遊机は「犬神家の一族」で市川映画にめざめ、大学時代、名画座やフィルムセンターで過去の市川作品を観まくり、市川映画についての小冊子を作って、市川監督と知遇を得たと知った。「細雪」にはフォースの助監督で参加しているのだとか。何ともうらやましい。
 同世代なのだから僕だってこまめに名画座の市川崑特集を探し出して足しげく通うことだってできたはずなのだ。自分の怠慢さを棚に上げてちょっと嫉妬してしまう。
 そんな森遊机がトヨエツ主演の「八ツ墓村」を評価し、もう1作トヨエツで観たかったと語るのが信じられない。
 宮部みゆきとの対談で「四十七人の刺客」がベストテンに入る出来と言うのも「え?」だ。この作品は僕を「忠臣蔵」の世界に興味を抱かせてくれた、記念碑的作品ではあるけれど、ベストテン云々のものではない。ただしラストシーンはとてもいいし、僕自身好きな作品である。だから同じ年、映画評論家の大絶賛を浴び、ベストテンの上位を獲得、数々の映画賞を受賞した深作欣ニ監督の「忠臣蔵外伝・四谷怪談」は観ようとも思わない。市川監督に操をたてているのだ!

 以前に比べて市川監督の昔の作品がビデオになり、目につくものは可能な限り鑑賞しているが、この対談集を読むと、まだまだたくさん面白い映画があることがわかる。読んでいてじれったくなってしまう。
 とにかく「幸福」はぜひともビデオ化、DVD化してもらいたい。

hikaritokage
「光と影、真実と影 市川崑監督作品を語る」 


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No title
ご無沙汰してます~ このあたりのお話には入り込めないので毎回眺めているだけなのですが・・・ 昨日「赤い鳥」で検索してましたらバードコーポレイションを立ち上げて間もない頃のメンバーの声を聞く事が出来ました!「こんにちは
赤い鳥で~す」という物。もうkeiさんの事だからチェックされているとはおもいますが、コメントばかりの15分でした。自分たちの作品を出していこうとしていた頃ですね。オモシロイないようでした~
ジンギスカン さん
こちらではお久しぶりです。

このコメント、私、知りませ~ん!
YouTubeですか?
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プロフィール

kei

Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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