「洗濯機は俺にまかせろ」上映+トークショー より続く

 昔、20代のころ、CM制作会社に勤めていた時期がある。
 カメラマンの上野さんにしても篠原監督にしても大学時代自主映画を撮っていて、その流れで映画界に入ったのだと思う(シネりんや「編集よもやま話」の二次会でそこらへんのことについて何度か話している)。
 僕も同様だった。当然映画の世界で働きたかったが、どんな風に業界に入っていいかわからず、会社として社員を募集しているということ、同じ35㎜フィルムを使用しているということで、将来性を考慮しCM業界に進んだのだった。

 初めての現場は今は亡き山一證券のCM撮影だった。デビュー仕立ての、まだ新人だった安田成美がアニメのペンギンと歌って踊るシリーズの第一弾。
 この娘、芸能界でやっていけるのだろうか? 静かでまったく自己主張しない本人を前にして思ったことを覚えている。
 某おもちゃメーカーのガンダムプラモのCM現場にも参加している。とてもおしゃれな作りで音楽がとても素敵だった。後でわかるのだが、ガゼボの「I Like Chopin」のパクリ。

 ケンウッドのCMを制作することになった。確か、富田靖子さんが出演するシリーズの一つだったと思う。富田さんが二役で、ダブルの傘をさしていた。そのときの現場を撮った写真を持っている。二役のもう一人のスタンドインが同じ事務所(アミューズ)の新人さん。ずいぶん後になって写真を見たら松下由樹だった。

 今回のトークショーに当時の写真を持参しようとしたのが、肝心の写真が見つからない。諦めた。
 トークショー後に少し近づけるかもしれない要素が消えた……。

 会場には、シネりんのS氏がいた。
 この上映会に来る前に、目黒シネマで「BUSU」を観たらしい。
 トークショー終了後、少しお客さんと富田さんが話す機会があり、それも終わって、いざ帰るというとき、Sさんが富田さんにここに来る前に「BUSU」を観てきました云々伝えると、富田さんは両手でSさんの手を握った。
 隣にいた僕は何も言えなくて頭を下げただけだった。

 僕にとって、富田靖子といったら「さびしんぼう」である。

 大学時代、「転校生」のラストにしみじみした。「時をかける少女」に胸キュンした。にもかかわらず社会人になってから「さびしんぼう」の劇場鑑賞はパスしてしまったのだ、なぜか。   
 映画はビデオで観た。あのころ、ビデオレンタルは新しくレンタル料が二泊三日で1,300円もした。でも高いという気がしなかった。そういうものだと思っていたから。
 「さびしんぼう」……感激なんてもんじゃなかった。オレはどうして映画館で観なかったのだろう! 後悔することしきり。
 ある意味、究極のマザコン映画、と言えるのではないか。

 しばらくして、銀座並木座で上映されるのを知って、夕方、築地の会社(CM制作会社!)を抜け出して観た。
 大泣きした。
 残業している先輩を呼び出して、東銀座で飲んだ。大林監督作品の素晴らしさを説き、オレも映画を撮るぞ~と赤い顔で吠えた。
 タイトルは「星屑のグズ」、CM制作会社のしがないPM(プロダクションマネージャー)とキャバクラ嬢の恋物語だ。……結局シナリオ書かなかったな。

 僕はこの映画で大林映画を卒業した。

 「さびしんぼう」と同様に富田靖子の微笑と泣きにやられたのが、「ネットワーク・ベイビー」だ。90年代初期にNHKで放送された単発のドラマである。新進気鋭のシナリオライターとNHKの若手ディレクターが組んで作られたニューウェイブドラマというシリーズの1作だった。

 ショーケンが主演する「ネコノトピア・ネコノマニア」に興味を持って、このシリーズを観たのだが、放送された3本では「ネットワーク・ベイビー」に感動し、なおかつ発想のユニークさを感じた。
 最先端のオンラインゲームという世界の中で、昔ながらの母子ものを展開させるドラマ作りに。

 若くしてバツイチになった女性(富田靖子)がヒロインで、ゲーム会社に勤め始めるところからドラマは始まる。
 ヒロインは自分の不注意で幼い娘を亡くし、それが理由で離婚。ゲーム会社は新しくネットワークゲームを開発していて、ヒロインはそのモニターになった。
 仮想世界にオリジナルのキャラクターを作って仲間と交流するのだが、ヒロインは自分が作ったキャラクターに娘の名前をつける。いつしかキャラクターが娘のような存在になった。いや娘になってしまった。
 試作のネットワークゲームが終了することになった。仮想世界はいったん閉鎖される。キャラクターは消されてしまうのだ。
 ヒロインには受け入れられない事態だ。
 せめて、仮想世界がシャットダウンされてしまう前に、キャラクターが……娘がこの世から消えてしまう前に、どうしても伝えたいことがある。そのため、ゲーム世界がシャットダウンされる夜、会社に忍び込んだ。別れた亭主(蛍雪次朗)を巻き込んで……。
 クライマックスの、娘を求める富田靖子の行動に、表情に涙があふれて仕方なかった。

 脚本は一色伸幸、演出は片岡敬司。
 このときはシナリオの功績ばかり考えていたが、後年片岡敬司の演出に瞠目することになる。
 大河ドラマ「元禄繚乱」の演出家の一人として、非常に凝った映像を魅せてくれたのだ。

      ◇

 【おまけ】

1999/11/30

 「元禄繚乱 四十七士討入り」(NHK)

 録画しておいた「元禄繚乱 四十七士討入り」を観る。
 刃傷の時と同じく演出・片岡敬司を予想していたが、別の人だった。彼は光と影を多用した、必殺シリーズを彷彿させる斬新な映像と演出を見せてくれるのでちょっと残念だった。大河ドラマで初めて演出家を意識させてくれた人で今後の活躍を期待したい。

 1年間の連続ドラマを締めくくるクライマックスだし、忠臣蔵一番の見せ場だから当然スタッフ、キャストともに気合の入った見ごたえある一編だった。45分間があっというまに過ぎてしまった。  
 技術の進歩もあるだろうが、前日に降り積もった雪が、本物っぽく表現されていたのがたまらない。雪の質感もいいが、また赤穂浪士が雪の上を歩く際の音にも神経を配っていてとてもリアルだった。

 見所は2ヶ所。
 赤穂浪士が吉良家に討ち入ったことを知り、討伐に行こうとする上杉家の当主(吉良の実子)とそれを必死に止める家老・色部又四郎の押し問答。柳沢吉保の陰謀により、討伐に行けばお家断絶は間違いない。それを事前に察知していた色部の「殿が今討伐に行ったらわが藩も赤穂と同じ道をたどるのですぞ」の台詞が重くのしかかってくる。通常の忠臣蔵ものにくらべ、刃傷に至るまでの長いドラマがここでいきてくる。
 無能な江戸家老のために殿の刃傷事件を阻止することができず、お家断絶の憂き目にあって、討入りをせざるおえなかった大石と、赤穂藩の二の舞だけはおこしたくないと命をかけて殿の暴挙を阻止する色部の、二人の家老の対比が胸を打つ。

 浪士につかまった吉良が大石に尋ねる。「わしを本当に敵と思っているのか?」大石は答え ない。しかしその眼は何かを訴えているかのようだ。吉良はわずかに微笑む。吉良は大石の本心を見抜いたのだ。大石の本当の敵は幕府だということをここではっきりした。
 さて、その敵役・幕府はこの決着をどうつけるのか。「元禄繚乱」のテーマはここにある。

2000/12/12

 「元禄繚乱 忠義の士」(NHK総合)

 「元禄繚乱」が終了した。
 討ち入りの回の時に書いた感想どおり、作者・中島丈博は〝幕府が討ち入りした赤穂浪士たちに対してどんなお裁きをするか〟をクライマックスに持ってきた。
 大石は吉良に復讐するためではなく、片落ちの裁定に対する幕府(綱吉)への異議申立て、あるいは「生類憐れみの令」等の庶民の生活を省みない政治を断行する将軍に対する批判のために討ち入りしたという解釈が今回の忠臣蔵には取り入れられている。この解釈は井沢元彦の「元禄十五年の反逆」で知って、討ち入りの真相が理解できた思いだったが、原作の船橋聖一「新・忠臣蔵」も同様なのか、それとも中島丈博のオリジナルなのか。

 大石の堂々たる将軍批判を、お忍びで面会にやってきた当の本人の前でさせるという掟破りのフィクションにはまさしく驚いたが、ショーケン演じる綱吉が怒りまくる姿を見ながら、世の忠臣蔵ファン、歴史家たちの批判を浴びるには違いないけれど、この展開は正解だと思った。こうしなければ(つまり大石の意見を直接綱吉が聞かなければ)本当の意味で大石が綱吉に一矢報いることができないからだ。
 大石が将軍に対する批判を幕府の用人に口にしても決して将軍の耳には届かない。それは絶対どこかでにぎりつぶされる。自分の裁定で運命を狂わされた人たちの嘆きなどお上が知る由もない。だからこそ中島丈博としては自分への批判で地団太を踏む綱吉を描きたかったのだろう。ショーケンはそれをコミカルに演じ、大河ドラマ四度めの忠臣蔵・「元禄繚乱」の新機軸(テーマ)が鮮やかに浮かび上がった。僕はこのフィクションを断固支持する。

 シリーズ初期だけでなく、最後もやはり「元禄繚乱」はショーケンのドラマだったと言える。製作が発表された時、数年前の12時間ドラマ「豊臣秀吉」で名演技を見せた中村勘九郎がこれまで歴代の役者たちが演じた大石内蔵助とは一味も二味も違うイメージを構築すると期待していたのだが、それほどでもなかった。打ち上げ時に中島丈博が「眼が死んでいる」と言って物議をかもしたそうだが(そこまでは言い過ぎだと思うが)、わからないでもない。
 ショーケンは従来の彼独特のアドリブをきかせた演技で、エキセントリックな綱吉を好演した。ショーケンファンにとってはうれしい限りだ。彼にとっては「勝海舟」のニヒルな人斬り以蔵とともに大河ドラマの歴史に名を残すキャラクターになるだろう。




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Comment
ちっとも前に進みません
こんばんは

「まぐま」18~20号が届きました。
完治不能の活字中毒のため、中毒症状にあらがえず、18号の最初から読んで、泣いて、読んで、泣いて感慨にふけって、色々思い出して、ちっとも前に進みません。

私はマガジン派だったのですが、それでもどういうわけか「サイボーグ009」は読んでいたので、どうやって読んでいたのかが不思議です。
懐かしい漫画家の名、ヒーローものの原作、ときわ荘のこと、貴重な話ばかりでまいりました。
漫画に関しては完全に両刀使いでしたので、読む方もですが、テレビの特撮ヒーローものもローカルで流れたものは殆ど見ていました。
その原作者の方々に思いを馳せることなく生きてきちゃったんだなあ、と、同時進行で「りぼん」と「マーガレット」に読みふけって「オスカルアンドレ」「カワイイもの」に気を取られていた自分が本当に惜しい奴だと悔しいです。
女というものは何かと他に気を取られることが多いので、こんなに何か一つに打ち込めるということができにくい生き物なのかもしれませんね。

「まぐま」、もっと早く知りたかったなどど、なんだか勝手に損した気分でいます。
「つる姫じゃー」のギャグを息子に教え込んで育てた変わり者の母親なので、「ぼっち感」が、ちょっと救われました。
最初のページから何度も読み返しているので、主様のコラムにたどり着けないままのコメントで申し訳ありません。
漂着しましたら、旗振りにまいります。
「まぐま」のご紹介、ありがとうございました。
mikaidou  さん
「まぐま」ご購入ありがとうございます。
発行人が喜んでいると思います。

マガジン派というと「少年マガジン」派ということでしょうか?

少年キングの連載終了後、しばらくして少年マガジンで連載が始まったので、マガジンで009を読んでいたのではないかと。有名な002と009が流星となって地球に落ちていくのはマガジンの最終回ですから。
それともマガジン派とは違う意味なのでしょうか?

本日夜、ブックカフェ二十世紀で橋本一郎さんの2回目のトークショーがありました。面白い話が満載でしたよ~。

来年1月には「ブラック・ジャック」初代編集者をゲストに橋本さんとのトークがあります。

昨日は地元シネコンのレイトショーで「スターウォーズ フォースの覚醒」を鑑賞しました。

ではでは。

No title
こんばんは

そうです、「少年マガジン」派だったんです。
キングの連載が終わった後、マガジンで009が連載されていただなんて、全然知りませんでした。
謎がとけました。

「フォースの覚醒」ご覧になられたのですね。
先ほど拙ブログに、小林信彦言うところの「おおぞらあゆむ」の話を書いたばかりでした。
出典の本が探せず、困りました。
「フォースの覚醒」の感想、お待ちしております。

それにしても、ブックカフェといい、映画といい、主様の毎日は羨望の的です。
今日は「トキワ荘」近辺の地図をググって遊んでおりました。「まぐま」って、困った雑誌です。
Mikaidou さん
「サイボーグ009」はストーリーがハイブロウすぎて、少年キングではなかば打ち切りのような形で終了したのではなかったですか。
私、リアルタイムを知らず、あくまでもあとから本等で知ったことですが。

それを少年マガジンの編集長が助けて、連載を引き継ぎ、あのようなラストで終了したわけです。

002と009が流星となって地球に落下し、それを見ていた女性と男の子が流れ星に願いを込めるという名シーン(ブラッドベリの小説のパクリ、いえ、引用ですね)で009は終わったんです。

ところが、読者の希望で009は続いてしまう。また別の雑誌で連載が始まるんです。

後年、この処置に当時の少年マガジン編集長は遺憾の意を表明するんです。マガジンのラストで009は完結したはずだと。


「スター・ウォーズ」に関しては、これまでこんなことを書いています。

http://kei1959.blog43.fc2.com/blog-entry-498.html

http://kei1959.blog43.fc2.com/blog-entry-921.html
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まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
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神保町のブックカフェ二十世紀で働いています。さまざまなイベントを企画、開催していますので、興味あれば一度覗いてみてください。

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