昨日の朝日新聞(朝刊)、天声人語が「ウルトラセブン/ノンマルトの使者」を取り上げていた。
 どちらが正義で、どちらが悪か分からなくなる。
 の文章から始まって、上原正三氏の言葉「よーく見てごらんなさい。ウルトラマンの顔。怪獣に話しかけていますよ」で終わる。
 聖戦の名のもとでテロという蛮行が続く今がテーマだった。

 見方によって正義と悪が入れ替わることで思い出したのが、クリント・イーストウッド監督の「硫黄島からの手紙」。
 この映画についてはこの前転載した。今度は「父親たちの星条旗」を。

     ◇

2006/11/08

 「父親たちの星条旗」(丸の内ピカデリー)

 クリント・イーストウッド監督が「ミリオンダラー・ベイビー」の後、硫黄島を舞台にした戦争映画を撮るというニュースが流れても何の感慨もわかなかった。
 硫黄島の戦いをアメリカ側、日本側から描く2部作に「どうして?」という疑問がわいた。アメリカ人に日本人の心情なんてわかるものか、と。

 劇場で予告編が流れるようになっても思いは同じだった。だいたいタイトルがよくない。原題をそのままカタカナ表記するタイトルは好きじゃないけれど、「父親たちの星条旗」のタイトルはクサい。というか真面目すぎる。だから反発したくなる。〈父親の〉に戦中派の心情が滲んでいて拒否する気持ちが芽生え、〈星条旗〉で「アメリカ万歳」的雰囲気が感じられる、なんて。
 しかし、小林信彦が「週刊文春」連載の「本音を申せば」でベタ褒めしていて気が変わった。曰く「この映画に比べたら、『地獄の黙示録』の戦争は遊園地みたいなもの」。
 まあ、小林氏はイーストウッド監督作品について、いつも高く評価しているので、とりあえず押えておくか、くらいの気持ちだったが……。
 いい意味で裏切られた。まさしく秀作なのである。

 太平洋戦争末期の硫黄島。摺鉢山頂上に掲げられた星条旗。米軍の兵士によって掲げられようとする、その瞬間を捉えた一枚の写真。
 歴史の教科書等で誰もが一度は見たことがある、有名な写真に隠されたエピソードを描いた映画なのだが、戦争の悲惨さ、非情さ、愚かさが見事にスクリーンに叩きつけられていた。

 すぐに勝負をつけてみせると乗り込んだ戦場で、敵の予想外の反撃にあって右往左往するアメリカ軍。この構図、その後も何度か繰り返されている。ベトナム戦争、ソマリア内戦、そして現在のイラク統治。
 そういえばこの映画に登場する日本兵は「フルメタル・ジャケット」のベトコンのようだ。まるで異形の生き物。戦争で戦う敵とはそういう存在なのだろう。

 写真に写っていたことで、兵士3人が〈英雄〉に仕立て上げられ、政府に利用される様、マスコミに煽られ、アメリカ各地で熱狂的に迎い入れられ、忘れ去られる様は、現在でもよく見られる光景だ。
 そういう意味では、この映画は単純に戦争映画と括れない。普遍性を備えているのだ。キャメラの向こう側(こちら側?)にあるイーストウッドのシニカルな視線を強く感じる映画でもある。

 まったくそれと感じさせないVFXがすごい。
 戦艦から摺鉢山への一斉砲撃のショット。その迫力とリアルさはまさに衝撃もの、だ。
 硫黄島の海岸近くに停泊している無数の戦艦。そのほとんどがCGだと思うが、本物との区別がつかない。摺鉢山の山頂シーンではいつもバックにこの無数の戦艦が写りこむ。移動ショットでも、まるで海に本当に停泊しているかのように存在しているのに驚いてしまった。どんな風に合成しているのだろうか?
 前日だったか、S氏と飲んだ。話の流れから「エースをねらえ!」の、ファンの間で語り草になっている出崎統監督独自のショットになった。手前の人物は正面、バックが俯瞰という構図的にはおかしいにもかかわらずとても印象的なんですよ、とS氏は熱く語る。そのショットについては知らなかったし観たこともないのだが、たぶんこういうことか、と思えるショットが摺鉢山の山頂シーンでお目にかかれる。

 ラストシーンで涙があふれた。静かに、そしてささやかに。




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Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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