困ったときの「mixi失格。」
 なことは絶対ない!
 ――ないと思う。
 たぶん……

 いえ、少しあるかな。

     ◇

●市川崑監督逝く…… 2008/02/14

 昨日、定時で仕事を切り上げ新宿へ。「まぐま」16号に執筆予定のT氏と原稿内容について打ち合わせするため。
 T氏は塚本晋也監督の映画に出演したことをきっかけに映画製作に目覚め、デビュー作をいきなり劇場公開に持込み話題をさらった若手監督。俳優でもあり、今年2本の主演映画が公開されるという。
 居酒屋で呑んでいるところに30分遅れてK氏がやってきた。最近映画製作に力を入れているので急遽誘ったのだ。
 着席するなりK氏が言った。
「市川崑監督、亡くなりましたね」
「えっ‼ い、いつ?」
「夕方のニュースで伝えていましたよ。ネットで見たんですが」
 叫んでしまったけれど、動揺はなかった。ついにそのときが来たかという気持ち。ああ、和田夏十さんと再会できるんだな。シナリオライターとして崑監督の名パートナーだった奥さんと。久しぶりに会えるんで喜んでいるんじゃないだろうか。
 冷静に事実を受け止めた。

 一番好きな監督である。もう何度も書いているが出会いはTVだった。小学6年の正月。土曜日の夜10時30分、自分の部屋にいると、茶の間から聞こえてくる歌が耳を捉えた。新番組「木枯し紋次郎」の主題歌だった。この主題歌が気になって、翌週、同じ時間、父の隣にいた。タイトルバックが斬新だった。最初はこのタイトルバック観たさに夜更かししていたようなものだ。そのうちドラマそのものに興味を持つ。「市川崑劇場」と銘打っていても、実際本人が演出しているのは数本しかないのだが、それでも市川崑の時代劇として、毎週土曜日の楽しみとなった。
 続いて中村敦夫が新聞記者に扮した現代劇「追跡」。フジテレビから日本テレビに移行して「丹下左膳」。
 その間にTVで放映されたATG映画「股旅」に衝撃を受けた。初めて観た崑監督の劇映画。この映画の制作費を捻出するため「木枯し紋次郎」を作ったのだから、その意気込みは半端じゃなかったはずだ。
 シャープな映像、リアリティあふれる演出、演技。神技のようなカッティング(編集)。随所に挿入されるユーモア感覚。当時の8ミリ映画にいそしんでいた中学生は完全に崑ワールドの虜になった。その影響ははかりしれない。
「股旅」が初めての映画だと思っていたが、後年間違いに気がついた。幼少時、祖父と叔母に連れられて隣町の映画館で「東京オリンピック」を観ていたのだ。芸術か記録かの物議を呼んだ映画。当時はそんなことまったく知らなかったけれど。
 市川崑の名前がインプットされてからは、作品を観たくて仕方ない。浅岡ルリ子とルノー・ベルレーが共演した「愛ふたたび」はすでに公開が終わっていた。「吾輩は猫である」は地元の映画館にやってきたのかどうか。ミュンヘンオリンピックの記録映画「時よ止まれ、君は美しい」で担当した「男子100メートル競技」はどんな出来なのだろうか?
 そして、高校2年の秋。「犬神家の一族」のロードショー。その前からキネマ旬報の記事を追いかけていて、期待は最高潮に達していた。友人と弟の3人で東京まで出かけるほど。映画を観る前のワクワク感は相当なものだった。
 プロデューサーの角川春樹は崑監督にオファーするにあたってこう言ったという。
「雪之丞変化」のような映画を撮ってください。「吾輩は猫である」では困るんです。
 現在、旧「犬神家の一族」は名作として喧伝されているが、公開時はかなり批判もあったのである。メディアでは洋高邦低が伝えられ、将来映画界で働きたいと思っていた高校生は、「犬神家の一族」の大ヒットに喜びながら重箱の隅をつつくような批判を目にするたびに胸を痛めていた。
 フットワークの軽さも魅力だった。音楽に若さを感じた。本人は「自分が音楽がわからないから」と謙遜していたけれど。
「犬神家の一族」以降はできるだけ追いかけた。それでわかったのだが、崑監督は小品に威力を発揮するタイプなのだと。
 金田一シリーズ第二弾「悪魔の手毬唄」は今思うと「犬神家の一族」よりだいぶ小ぶりになっていた。水谷豊主演の「幸福」。主題歌を五木ひろしがうたうというのでパスしてしまった「おはん」。岸恵子主演の「かあちゃん」。  
 企画段階で立ち消えになるものもあった。
 もし、半村良の「妖星伝」を映画化していたらどうだったのだろうか? 山口百恵の引退映画が「古都」でなく「牢獄の花嫁」だったら?
「犬神家の一族」のセルフリメイクではなく「本陣殺人事件」だったら?
……。
 
 享年92。大往生。そう信じたい。
 合掌。


●「この人この道」&「赤西蛎太」 2008/02/25

 各局で放送されている市川崑監督の追悼番組。BS、CSは観られないが、地上波は知る限りチャンネルを合わせている。

 まず17日(日)にNHK教育で「映像美の巨匠 市川崑」。これは「どら平太」公開に合わせて作られたドキュメンタリー。崑監督及び関係者へのインタビューが貴重だった。本放送時録画して宝物になっているのだが、デジタル放送だとまた格別の味わいがある(昨年、我が家はやっとデジタル対応の液晶TVを購入したのだ)。
 翌18日(月)はTBSがリメイクの「犬神家の一族」。どうせなら旧作の方がうれしいのだが仕方ない。劇場ではそれほど意識していなかった音楽(晩年の崑映画を一手に引き受けていた谷川賢作)がけっこう耳に残った。

 テレビ東京は22日(木)午後に「赤西蠣太」を放送した。伊丹万作の傑作時代劇をビデオでリメイクしたものだ。しっかり録画しておいた。テレビ東京にはもうひとつ役所広司主演で「刑事追う!」という連続ドラマがあった。オープニング&エンディング映像を崑監督が手がけ、豪華な監督陣が話題になった。もちろん最終回は崑監督。最終回だけ観たような気がする。
 監督と関係が深いフジテレビはというと15日(土)の昼間に「ビルマの竪琴」を放映したらしい。全然知らなかった。
  
 昨日24日(日)は「NHKアーカイブ」で「婦人の時間・この人この道 市川崑」と金曜時代劇「逃亡」の第一話「女と影」の2本が放送された。「婦人の時間」は1964年5月の番組。この時代のVTRが残っていることが驚愕ものだ。「東京オリンピック」準備中の崑監督。48歳。ひゃ~、今の自分と同年齢ではないか。
 時期が時期だけに、当然インタビュアーの尾崎宏次(演劇評論家)の質問も「東京オリンピック」になる。制作費2億5000万(今なら25億円か)、200名のスタッフ体制。さまざまなジャンルに挑戦するのは、一定の色がつくことを嫌った結果。
 最初はインタビュアーと崑監督の二人。崑監督、ほとんど口から煙草を離さない。話す際の手の動きが「映像美の巨匠 市川崑」のときとほぼ同じ。途中で池部良と淀川長治が加わって鼎談になるのだが、このときの4人の位置関係が面白い。4人が向かい合う、通常なら当たり前の構図だが、TVカメラを考えると信じられない位置関係なのだ。そして、このカメラが4人を廻りながら録っていく。当時としてかなり凝ったカメラワークだったのではないだろうか。

 キネマ旬報で、シナリオライターの桂千穂が金田一シリーズの撮影現場をルポしたことがある。このとき、崑監督のファッションを褒めて、自分も真似したいと書いていたのだが、桂千穂を女性だと信じていた僕は大いに驚いたものだった。たとえ、ファッションが決まっているとして、女性が、はるか年長の男性のファッションを真似るものなのかと。このあとだった、桂千穂が男性であることに気がつくのは。しかし、あのときの桂千穂の気持ちが、スーツ姿の48歳の崑監督を見るととてもよくわかった。

 「東京オリンピック」は、大映時代の文芸もので数々の傑作、佳作をものにした崑監督の集大成映画だったのだ、と今にして思う。たぶん、ここで監督人生の「第一部完」。次作から「第二部」になるのだろう。で、この第二部の集大成が「細雪」……。

 「逃亡」は2002年に放送されたもの。崑監督は、1、2話の演出を担当していた。

 「赤西蛎太」。本放送時、市川崑監督らしい陰影のある映像が、まるでビデオを意識させないと瞠目したのだが、実際のところ全編を観たわけではない。
 本放送はいつだったのだろう? 何年前かもう忘れた。確か正月。2日に帰省して、夕方から恒例の高校ラグビー部同期の新年会に出席、友人の家に一泊した。その翌日友人宅で観たのだから3日の放送か。特に映像に惹かれて夢中になっていたが、帰宅の時間になってしまい途中で切り上げた。たぶんビデオになると予想して切り上げたわけだが、結局その後レンタル店で目にしたことがなかった。
 そんなわけで今回の放送はとてもうれしかった。
 ビデオ、DVDで映画ソフトが手軽に楽しめる今、「ビルマの竪琴」や「犬神家の一族」を放映するよりこういう作品の方がありがたい。フジテレビだったら「木枯し紋次郎」や「追跡」をやってほしい。深夜枠でいいからさ。まったく個人的な要望かもしれないけれど。
 さて、「赤西蠣太」。調べてみると1999年の作品だった。オリジナルは1936年、片岡知恵蔵のプロダクションによって製作されている。脚本・監督が伊丹万作。主演は当然片岡知恵蔵だ。
 伊達騒動を扱った物語なのだが、冒頭のクレジット〈原作・志賀直哉〉に驚いた。志賀直哉ってこういう時代小説も書く作家だったのか。
 タイトルの赤西蠣太とは、江戸の伊達屋敷を牛耳っている伊達兵部と原田甲斐の悪巧みの実態を調べるため、国元(仙台の伊達藩)から派遣された間者(スパイ)の名前。お人よしの醜男で将棋好き。胃腸の具合が悪い。この役を北大路欣也が演じている。日頃得意としているヒーローとは正反対の役柄だが、これがなかなか味がある。面白いのは、敵役の原田甲斐も演じていることだ。こちらは歌舞伎から抜け出たような白塗りの二枚目。この二役にどんな意味があるのかと思ったが、オリジナルでも片岡知恵蔵の二役なのだった。ストーリー的なことより、スターが演じる二役の落差を楽しむといった趣旨なのだろう。
 主要な登場人物の名が海の魚に由来する。まるで「サザエさん」のよう。実にノホホンとしたユーモラスな時代劇であるから、そのつもりで観ていると、赤西蠣太と親しくしている盲目の按摩(小松政夫)が、重大機密を知ってしまったことで、もう一人の間者にあっさり殺されてしまうなんて非情なシーンがある。この間者を演じているのが宅間伸。こちらには「逃亡」の悪役イメージがあって、いつか赤西を裏切るのではと思っていたから、ドキドキしてしまった。クライマックスに向けての二人の対決を予想したのだ。あっさり裏切られた。
 すべてを調べ上げて、国に帰るため赤西蠣太は暇をもらおうとする。しかし、今帰ると敵に正体を見破られる恐れがあると、宅間伸の間者からある策をもらう。美人の腰元(鈴木京香)に付文(恋文)を書け。赤西の容姿ではぜったいにふられるから、皆の笑いものになって、それを口実に夜逃げしてしまえ。これなら怪しまれない。腰元の名(小波=さざなみ)を考えたのは赤西で、密かな想いもあった。それはまずいと反論するものの、彼女へのラブレターだから意味があると聞く耳をもたない。書いては破りの繰り返し。やっと書き上げたラブレターを鈴木京香に渡す。
「お返事は差し上げるものでしょうか?」
「はあ……」
 ところが何日経っても返事がない。宅間伸の要請でもういちど付文を書き誰の目にもふれる場所に落としておく。これが腰元元締の目に。もちろんシナリオどおりなのだが、幸か不幸か、同時に鈴木京香から「はい」の返事を聞いてしまうのだ。なんと絶世の美人が醜男のプロポーズを受け入れてしまったのだ。
 逃げる口実はできた。しかし、逃げれば意中の女性を裏切ることになる。
 赤西蠣太、さあどうする?

 冒頭の崑監督得意の俯瞰ショット。丸い番傘が並んで右から左へ移動する。あるいはガランとした部屋で、夜、赤西蠣太が行灯を相手に将棋をさしているショット。その陰影。もうそれだけで幸せな気分だ。ラストカットも余韻があった。

 はるか昔、オリジナルの「赤西蠣太」を観ている。観せられた、というべきか。
 就職浪人中に半年間通ったシナリオ講座の講義で、講師の安藤日出夫氏がこの映画、特にシナリオをベタ誉めし、ある日映画鑑賞になったのだ。
 今日記をあたったら、1983年の6月27日にこう書いている。

  (略)安藤日出男先生は、この映画の主人公の性格描写が素晴らしいと 絶賛していたが、画像が荒かったせいか役者たちの区別がつかず、またセリフが聞きとりにくくてストーリーがよくわからなかった。

 一緒のクラスだったかみサンにも確認してみた。一言「つまらなかった!」





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Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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