福田和子の事件は、かつて大竹しのぶ主演でスペシャルドラマ化されていた。観たのだろうか? 記憶にない。事件の再現特集とかドキュメンタリーは覚えているのだけれど。

 今回のドラマ化では、現在の若い女性記者(松岡菜優)が上司(安田顕)の命令で福田和子事件を取材することになって事件を振り返るという構成になっている。
 数年前草なぎ剛が手塚治虫に扮したスペシャルドラマがあったが、これも現在の女性編集者が過去にタイムスリップするという体裁になっていた。
 若い女性が語り部というところがミソで、ワンパターンになっている。
 ただ、ラスト、福田和子が自分の面や声が世間に知れ渡っているにもかかわらず、なぜおでん屋に毎日のように顔をだしていたのか、その推理に膝を打った。

 それにしても、福田和子の殺人にはまるで同情の余地がない。あまりに勝手すぎる。なぜ逃げるのか、については、新事実(?)を提示するが、にしても納得できない。
 人好きのする、とても頑張り屋なのは理解するけれど。

 かつてこの事件にインスパイアされた映画が公開された。

     ◇

2000/10/11

  「顔」(テアトル新宿)

 映画館には毎月〈映画サービスデー〉というのがある。入場料が1,000円になるのでけっこう重宝している。これで映画を観る回数が増えたほどだ。なかにはレディースサービスデーなるものもあって、どうして女性ばかり優遇するのか、男性向けのサービスも少しは考慮してくれてもいいではないかと思うこのごろなのである。
 が、テアトル新宿(ちなみにここ、テアトル東京系の映画館は毎週水曜日がサービスデーとなっている)に「顔」を観に行って、女性たちが優遇されるのも無理ないかなと思い知った。
 ヒットの噂を聞き、おまけに水曜サービスデーでもあるのでかなりの混雑を予想して、最終上映1時間前に入場した。後から続々やってくるお客さんはほとんど女性ばかり。それも若い人から年配までという幅の広さだ。
 女性の面白いものに対する敏感さ、俊敏さを改めて認識した次第。まったくもって恐れ入ります。口コミを狙うのだったらやはり女性だろう。映画館が女性にサービスするのは当然の行為かもしれない。

 同僚のホステス殺しで指名手配され、全国を逃亡、時効寸前で逮捕された福田某の事件を下敷きにしたと思われるこの映画、とはいえ、ヒロインのキャラクターはオリジナルだし、ストーリーもフィクションである。
 母親が急死し、その通夜に日頃仲の悪い美人の妹を殺してしまったヒロインが逃亡生活の中で人と触れ合い、だんだんと心を開き、きれいになっていく様子が描かれる。
 このヒロイン・正子のキャラクターがユニークだ。裁縫の技術だけに長けたどん臭い引きこもりの年増女性という設定で藤山直美が扮している。
 冒頭、正子は舌打ちしたくなるようなイヤな女として登場する。
 口論の末、たぶん発作的に妹(牧瀬里穂)を殺したあと、放心状態の正子は風呂に入りながらナイフを手首にあて自殺を図ろうとするができない。それは転生を信じる正子のうちにある「たとえ生れ変わったとしても何も変わらないから」という絶望感による。理由を知って急に正子が愛しく見えてきた。それに妹を殺したことに対する罪の意識を常に持っていて、逃亡中も妹の幻影にさいなまれているところも彼女にたいする思い入れを強くしてしまう。
 逃亡を図った早朝、商店街の一角で睡眠をとろうとして阪神大震災に遭遇し「バチがあたった!」と何度も叫ぶ姿がおかしい。

 主演の藤山直美がいい。自転車に乗れない。泳げない。この見るからにどん臭い女の正子を外から内から見事に演じている。特に巧いなあと思ったのは正子が大分に逃げてからスナックで働き出し、客とカラオケに興じるシーン。タンバリンを叩けばリズムをはずす、唄をうたえば英語の歌詞がメロディに半テンポ遅れる。ちょっとしたしぐさでどん臭さを体言していた。

 共演者が豪華だ。
 正子に道を教えるそぶりでトラックに連れ込み、犯してしまう酔っ払いに中村勘九郎。ほとんど信じられない役柄だ。
 最初に正子が働くラブホテルのオーナーに岸辺一徳。いつも同じ演技なのに不思議とその役になりきってしまう。
 正子が恋する憧れの男性に佐藤浩一。特急「にちりん」でのふたりの会話は抱腹絶倒。台詞と間の取り方に藤山直美が寛美の娘であることを再認識できる。
 正子が世話になるスナックのママに大楠道代。見るからにちょっと疲れた気のいい田舎のママさんだった。良い。
 彼女の弟のちんけなやくざが豊川悦史。トヨエツってこういうエキセントリックな〈普通じゃない〉役が似合う。スナックの客で正子に恋する男は國村隼。
 派手さがなく、演技々していない芝居をする役者たちが脇を固めている。

 倫理的にはけっして正しくはないけれど、ラストに見せる正子の生きていくことへのずぶとさが実に爽快である。




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新井啓介
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まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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