本日、9時に北浦和駅でかみサン(元)と待ち合わせ、浦和年金事務所へ行き、分割の手続きをとる。女性の担当者が処理をしてくれたのだが、こちらに対する呼び方が「旦那さん」「奥さん」なので、言われるたびに「元ね」と訂正していた。
 終わってから駅前の喫茶店でモーニングセットを食べて別れる。
 かみサンは歩いて浦和駅へ、僕はさいたま新都心へ。もちろん歩いて。
 MOVIXさいたまで「スポットライト 世紀のスクープ」を鑑賞。ラストの字幕で仰天すること間違いなし。
 その後浦和駅まで歩く。本当は西川口まで歩こうと思っていたのだが、雨が降ってきたのであきらめた。焼鳥日高で一杯。

 かみサンにはいろいろ苦労をかけた。
 すべて自分のせいで別れることになってしまって申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

     ◇

2002/03/20

 「ビューティフル マインド」(よみうりホール 試写会)  

 他人事とは思えない映画だった。  
 数学大嫌いな僕が、この映画の主人公であるジョン・F・ナッシュという天才数学者が実際に存在していることや彼が1994年にノーベル賞を受賞したことなど知るわけもない。試写会に誘ってくれた友人から事前に主人公の精神障害云々の物語であることを聞いていた。にもかかわらず、映画が始まった時にはすっかり忘れていた。  
 他人事と思えなかったのはその精神障害のこと、そのことでかみサンに多大な迷惑をかけたことなのだ。
 
 冷戦下の時代、主人公のジョン・ナッシュ(ラッセル・クロウ)がプリンストン大学に入学したところから映画は始まる。出身地ウェストバージニアで〈数学の天才〉と謳われたナッシュはライバルのハンセン(ジョシュ・ルーカス)が続けざまに論文を発表する中、独自の理論を発見するため、授業に出席することもなく、目にすることすべてに数学的考察を重ね、窓ガラスに方程式を書き連ねる毎日を送る。人とつきあうことが極端に苦手で研究に没頭し、クラスメートから変人扱いされる彼の唯一の友はルームメートのチャールズ(ポール・ベタニー)。  
 ある日、ナッシュは大学のバーに入ってきた絶世の美人の女子大生に声をかけてごらんとのクラスメートの言葉からこれまでの理論を覆す新理論を発見した。この功績によって卒業後憧れのウィーラー研究所に配属されることになる。  
 意気揚揚と研究に励むナッシュ。そこへ国防省の諜報員(エド・ハリス)が現れた。ソ連で極秘に開発している小型原子爆弾が秘密裏に合衆国に運ばれる。そのルートを示す暗号が新聞、雑誌の紙(誌)面に載るので、それを見つけだし、解読せよ。  
 同じ頃、担当する講義の聴講生(ジェニファー・コネリー)と知り合い、結婚する。  
 結婚後も黙々と雑誌の記事から暗号を選び出し、解読した書類を夜な夜なある邸宅の郵便ポストに投函する作業を繰り返す。 
 かつてのルームメイトのチャールズがかわいい姪っ子を連れて遊びにきたりする。気の置けないチャールズにも任務のことは打ち明けることはできない。
 ナッシュにとってつらい毎日が続く。  
 ソ連の小型原子爆弾の話や諜報員から特殊任務を請け負う際の左腕に暗号を記したチップを埋め込む作業など、まゆつば的な展開になって、おいおいこの映画、実話ではなかったのか、と狐につままれた気分になるのだが、ナッシュの、仕事部屋に錯乱した雑誌類の切り抜き、手当たり次第に書き込みしたメモの異様さを目の当たりにして「もしかして?」と思い直したら、案の定、すべて彼の妄想だった。  

 似たようなことを僕も十数年前に経験している。いわゆる躁病になってある妄想にとらわれた僕は郷里に連れ戻された。自宅謹慎になっても妄想はますますひろがっていって、毎日とんでもない行動をとっていたのだ。  
 僕の場合、ある団体が僕を中心にした巨大プロジェクトを計画し、会社の人間、家族、友人たちも裏で協力して僕をそのプロジェクトに巻き込もうとしている、その右往左往する様を記録し、最後にあっと驚く発表をする、という妄想だった。僕はその計画に気づいているのだが、その団体との間には、気づかないふりをして毎日をすごさなければならないという暗黙の了解がある。とにかくあわただしく心休まる日がなかった。TVをつければ、番組の出演者は暗に僕のことを話題にするし、新聞や雑誌を読めば、まるで僕に読まれることを意識した内容の記事がそこにある。  
 ナッシュが雑誌を漁り、暗号を見つけ出すくだりでは、まさに当時の新聞や雑誌を読んではニヤニヤしていた僕自身の姿がダブってくるのだ。  
 街を歩いていると行き交う人がすべて自分に注目している。こいつらも一味なのか? だったらこちらも演技してやれ。まるでどっきりカメラのノリで対応してしまう。今、どこからカメラが自分を狙っているのだろうなんて考えながら。  
 今思い出しても冷や汗がでる。怖い。
 
 妻に隠れて危険な諜報活動を行っている(と自分では思っている)ナッシュはやがて見た目にも憔悴しきって、救いの手を差し伸べる精神科医が登場する。ナッシュは自分がおかしいなんてまったく思わないから激しく抵抗する。それこそソ連の陰謀だろうと疑心暗鬼にみまわれる。
 
 僕も当時まったく同じだった。「病気だ」と言われても信じられるわけがない。心配し、いろいろと訊いてくる家族や友人と対話しながら、これもシナリオのうちなのか、裏でプロジェクトチームの責任者と打合せをすませているのだろうと僕はたかをくくっている。で、あまりにしつこいから、つい口にだしてはいけない〈プロジェクト〉のことをチラっと話すと、とたんに顔色を変える。「ああ、やっぱり」僕は安堵する。「やっぱりプロジェクトが進行している……」  
 今思うとあの時の顔色の変化はまったく違うことだったんだとわかるのだが……。精神科に連れて行かれても、医師を前にして病気じゃないと主張していたのだからざまがない。
 
 ナッシュは自分を敵に売ったのは信頼していたチャールズではないかと、チャールズの裏切りを激しく批難する。隠れて彼を見守るチャールズの申し訳ない顔が胸を刺す。ここで精神科医の言う一言が衝撃的だ。奥田英朗「最悪」(講談社)にも同じようなくだりがあったっけ。  
 ナッシュは精神分裂病と診断される。発症は学生時代からだという。その傾向が見られなかったかとの医師の問いにクラスメートは「昔から変人だったから」と答える。  
 それから妻の献身がはじまるわけだが、これも観ていてたまらなかった。  

 躁状態で結婚した僕は、躁鬱病に関する本を読み、それまでの出来事がすべて躁病の症状にはてはまることに愕然とした。自分の妄想であることがやっとわかり、一気に鬱になってしまったのだった。仕事もせずずっと部屋に閉じこもり、何もできない。またまた精神科のお世話になり、精神安定剤の薬を毎日飲む始末。薬を飲んだ直後に外出し、商店街をラリった状態で歩いていて帰宅途中のかみサンと鉢合わせするなんてことがあった。
 いつまた発病する(妄想を抱く)のではないかと、びくびくしているジェニファー・コネリーの表情、態度はあの頃のかみサンそのものだ。
   
 妻の献身的看護で治ったかのように思えたナッシュは、あることにより薬の服用をやめ、病気が再発してしまう。  
 薬を常時服用していると、男の能力を減退させてしまうことになる。夜、妻が求めてきても応えることができない。その時のジェニファーの怒りがすさまじかった。拒否されたことにより、これまでの苦しみ、寂しさ、むなしさが一気にこみあげてきて爆発したのだろう。それを見たナッシュは以来薬を飲まなくなる。
 
 ここも昔を思い出してつらかった。
 躁状態の時とうってかわって、性欲はなくなり、下半身はまったく反応しない。おまけに夜は精神安定剤のため一度寝たら朝まで起きない。
「ガアガアいびきをかいて寝ているあなたを見ていたら、涙がでてきてたまらなかった」
 ずいぶん後になってかみサンの言った言葉が耳にへばりついている。  
 もうこの辺でやめよう。きりがない。

 主演のラッセル・クロウは前作「グラデュエーター」と180度違う役柄に挑戦し、見事成功している。
 役者には役を自分に近づける者と自分を役の方に近づける者と2つのタイプがあるが、彼はまさしく後者の方だ(本当はこれに大根役者が加わって3タイプになるのだが。)映画のたびに印象が違うのだから恐れ入る。
 ただしガタイの良さだけはいかんともしがたかった。
 実際のナッシュがどういう人か知らないけれど、映画に登場するようなキャラクターならば、見るからに華奢で少々病的なタイプではないかと思う。ところが半そで姿のラッセル・クロウの二の腕や胸板の太いこと、厚いこと。ぜったいスポーツやっている優良児のそれだもの。でも、まあ、許しましょう。  
 エド・ハリスがかっこいい。まるで昔の手塚治虫のマンガに登場してきそうな諜報員だ。禿げでも魅力を感じる男。ショーン・コネリーと双璧をなす。
 メーキャップの巧さが特筆もの。1940年代から90年代まで、主演の二人は見事に年齢を重ねていく。確かに登場したての頃は本当に当時の大学生っぽさ、初々しさがあるし、晩年の恰幅のいい老人(マーロン・ブランドと見間違えるほど)にも不自然さはない。ま、アメリカ映画は伝統的に老いていくさまのメーキャップが巧いのだが。(「ひかる源氏物語」のメーキャップアーティストの方、見習ってくださいよね)  
 この映画に関しては映画を映画として楽しめない自分がいた。感動的な物語という賞賛、実話とかけ離れた描写があるという批判なんてどうでもいい。  
 ロードショーされたら、かみサンともう一度観ようかな、と思った。
「この夫婦はいいわよ。さんざ苦労したって夫のノーベル賞受賞で報われるんだから。あたしはどうなるの? あなたの夢の実現を信じて、結婚して、新婚生活を躁鬱病でめちゃくちゃにされ、その後も……(以下略)」  
 ぜったい夫婦喧嘩になるな。やめておこう。




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Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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