小説を読んで、その映像化を夢想する時、僕には映画作品として考えてしまう癖がある。  
 桐野夏生の「OUT」を読んだのはずいぶん前になるが、読みながらこれは映画になると思った。  
 弁当工場の深夜パートとして働くヒロインが、ひょんなことから死体をバラバラに解体処理するはめになって、成功したことから、とんでもない道へ入り込んでしまう話は映画の題材にぴったりだと思った。  
 フジテレビで飯島直子主演でドラマ化された。ストーリー、設定がTV用に大幅に改変され見るも無残な内容になっていた。2回め以降はチャンネルを合わせることもなかった。  
 同じ時期だったか、ベストセラー「永遠の仔」が日本テレビでドラマ化された。これは映画にするのはむずかしいだろうと思っていたが、連続ドラマになるとは予想もしていなかった。  
 考えてみれば2時間前後で完結してしまう映画より、ワンクール十三回(実際は十一回くらいか)のTVドラマの方が、特に長編の場合など、人間関係や心理の襞を深く濃密に描けるのは確かである。  
 『リング』の成功例もあるが、この何年かの映画化作品を見て、小説のヒット→安易な映画化というのはやめた方がいいと思わずにはいられない。出版社にしてみれば、作品の出来不出来にかかわらず、映画化されることで、本がまた売れるというメリットがあるのだろうが、映画ファン、邦画ファンはたまったもんではない。  
 「OUT」はTVドラマ化されて、もうそれ以上の進展はないと思った。まさか平山秀之監督のメガホンで映画化されるなんて。キャストも発表されて期待はいっそう高まった。原田美枝子、室井滋、西田尚美、倍賞美津子。原作のイメージ云々ではなく、この女優陣ならぜったい映画『OUT』は面白くなる! そんな予感がした。  
 弁当工場の深夜勤務のパートをしている4人の女性たち。他の3人に金を貸す原田美枝子は一戸建ての自宅に住み夫と一人息子がいる。一見幸せそうだが、すっかり夫婦仲が冷え切っていた。夫はリストラされ今は無職。ほとんど無気力状態。部屋に閉じこもる一人息子とも会話がない。未亡人の倍賞美津子は寝たきりとなった義母を一人で面倒みている。二人が住む古い長屋風の一軒家は建て替えのため大家から立ち退きを迫られている。生活に余裕がなく引っ越す金もない。ブランド狂の室井滋はサラ金の借金の返済で四苦八苦。身重の西田尚美は夫の賭博と暴力に手を焼いていた。  
 ある日、西田が夫を発作的に殺してしまった。処置に困った西田は原田に協力を求める。拒否する原田。だが、ちょっと情けをみせて自分の車のトランクに死体を隠したことから、自分で処理せざるをえなくなってしまった。死体をバラバラにして、それをいくつものゴミ袋に入れ、少しずつ生ゴミの日に出してしまおう。そう考えた原田はいやがる倍賞を金でつり、たまたまやってきた室井も誘って計画を実行する。  
 西田の夫が賭博による借金で行方不明になった。本当ならそれで一件落着のはずだったが、捨て場所に困った室井が墓地のゴミ箱に〈生ゴミ〉をいっぺんに捨てたことから、翌日に殺人事件は発覚、事態は意外な方向にころがりはじめる。
 死体の身元がわかり警察が動きだした。夫がバカラに熱中していたことから犯人は賭博場関係者ではないかと執拗な取り調べを開始する。
 自分たちの身は安全だとホッとしたのもつかのま、バラバラ殺人事件と原田たち主婦グループの関係に気づいたサラ金会社の男(香川照之)が接近してくる。何と死体処理のビジネスを持ちかけてきた。そしてもう一人、バラバラ殺人の容疑者として警察に疑われた賭博場の用心棒やくざ(間寛平)も。厳しい取り調べの末解放されたやくざは復讐のため4人を狙う……  
 映画を生かすも殺すも台詞なんだと思い知らされた。『GO』もそうだったが、この『OUT』も会話の面白さが際立っていた。正視に堪えない死体解体作業のシーンなんて笑いの連続だった(全裸で風呂場に横たわる西田の夫を見てつぶやく倍賞美津子の一言に大爆笑!)。省略ギャグも随所にいかされている。事件の発生から何とか死体を処理するまで、笑いに包んで心地よいテンポで進めていく(脚本・鄭嘉信)。  
 4人のリーダー的存在の主婦、原田はその普通っぽい容姿が魅力(黄色いワンピースの水着姿にゾクゾクした)、下ネタ好きな少々疲れ気味の倍賞とのコンビに、金遣いの荒いわがままな室井、亭主に暴力をふるわれ一見悲劇のヒロイン、実は何事も中途半端な怠惰な主婦・西田がからんでくる構図もおもしろい。それぞれのキャラクターが生きている。  
 仰天キャスティングのやくざ役、間寛平のキレ方に思わず目をつぶった。    
 中盤まで原作どおりに進行する映画は、やくざが4人を追いかけるくだりになって独自の展開になる。これが正解だった。
 原作ではやくざと原田の一騎打ちになるのだが、映画はやくざから逃れた原田、室井、西田の逃避行を描く。  
 実をいうと小説を読んだ時、やくざと主婦の一騎打ちになるや、そのスリルに富んだ面白さに夢中でページを繰ったものの、いくらなんでも普通の主婦がやくざ相手に互角に闘えるわけがないじゃないか、とそれまでのリアルな緊迫感が少々揺らぐ思いがしたのだ。
 伏線もさりげなく挿入されている。
 映画は現実的な展開でヒロインの現状からの脱出(OUT)を描いた。閉塞しきった現実をただ惰性で生きているヒロインにロマンスと実現可能な夢を与えて、北へと向かわせる。(惜しむらくはやくざを復讐にかきたたせる警察の取り調べの苛酷さ、執拗さが原作ほど描ききれていなかったことだが、まあいいか。)
 怖がらせ笑わせながら、ラストになるとすがすがしい気持ちになれる。この感覚、どこかで味わったような気がすると思ったら、『顔』のラスト、殺人を犯して指名手配になっているヒロインが警察の追求を逃れて海を泳いで逃げていく爽快感と同じだった。




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Author:kei
新井啓介
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まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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