承前

 劇場で何度も観た予告編から「転校生」+「時をかける少女」というような印象を受けていたのだが、「転校生」+「イルマーレ」だったとは!

 劇場用アニメ作品を観る場合、なぜアニメなのかを考える。マンガが原作でない場合は特にその傾向が強い。あくまでも個人的なことだが。
 高畑勲監督の「おもひでぽろぽろ」は実写でも十分いけるではないかと思っていたのだが(まあ、あの時代を描くのはかなりオープンセットに予算がかかるだろうが)、ラストで得心した。
 「平成狸合戦ぽんぽこ」も、主人公たちが狸という理由以外でも、祭り時のあのスペクタクル(?)描写はアニメだからこそのものだろう。
 夭折した今敏監督の作品もそうだ。「パーフェクト・ブルー」なんて、普通なら実写で企画される内容だろう。しかし、クライマックスで氷解するのだ。これは実写では映像化不可能だ、と。飛躍と跳躍にとんだアニメ独自のものなのだ、と。

  「君の名は。」もそんな「なぜアニメなのか?」という視点で観ていたところがある。
 残念ながら得心させる描写はなかった。隕石落下及び村の壊滅あたりが実写では表現不可能という意見があるかもしれないが、今のCG技術なら十分可能だろう。10年前(の日本の技術)ならいざしらず。
 となると、アニメ化の一番の要素は、巷間言われている、美しく正確に再現された街並みにあるのだろう。

 では、お前はこのジブリ作品を凌駕する大ヒットアニメを否定するのか?
 と問われれば、否と答える。
 最近、映画を観ていて何度か意識を失う(一瞬だが)ことが増えたのだが、この映画に関しては夢中でスクリーンを凝視していた。一瞬たりとも眠くならなかった。何しろ涙しましたからね。もうすぐ57歳になる男が泣いてやんの。ああ恥ずかしい。
 ただし、ほかの人たちが涙した箇所とは違うかもしれない。
 僕の琴線に触れたのは、主人公のふたりが理由もわからず涙がとどめもなくでてきて戸惑うショット。この感覚かつて経験していると思ったら、2010年に公開された実写版「時をかける少女」のラスト近くだった。

 ラストの台詞がタイトルと微妙に違うことに違和感を覚えるという人がいるが、僕は気にならなかった。思うに、映画のタイトルは後づけなのではないだろうか。最初は別のタイトルがあって、あの台詞があった。しかし、最終的に名作誉れ高い日本映画と同じものにした。まったく同じだと気が引けるので〈。〉をつけて「君の名は。」。同じ台詞は中盤にもあって、ラストはその繰り返しなので、そんなことを想像したのだが。


 「イルマーレ」は、先にハリウッドのリメイクを観た。その後ずいぶん経ってから韓国映画のオリジナルをDVDで鑑賞したのだが、やはりオリジナルの方がよかったような気がする。気がする、としたのは、レビューが見当たらないからだ。
 「イルマーレ」のほかにも同じようなモチーフの「オーロラの彼方に」を観ていた。
 参考のために両作品のレビューを掲載しておく。

     ▽
2006/10/05

 「イルマーレ」(丸の内プラゼール)

 Mさん主催の無料映画鑑賞会。10月は韓国映画のハリウッドリメイク版「イルマーレ」。オリジナルの韓国映画は観ていない。

 湖畔に建てられたガラス張りの家に住む男と以前住んでいた女が主人公。演じるのはキアヌ・リーブスとサンドラ・ブロック。「スピード」以来12年ぶりの共演だそうだ。
 キアヌ・リーブスの新作の感想では枕詞のように必ず記す。なぜ「スピード2」のオファーを蹴ったんだ! あんたが主演すれば、少しはマシな映画になったのに!!

 キアヌとサンドラは、その家の郵便受けをとおして手紙のやりとりをしているうちにやがて愛し合う仲になる。しかし、直接会うことはできない。なぜなら女は2006年の今に生き、男は2年前の2004年の住人だから……。
 2年の歳月に阻まれながら果たしてふたりは結ばれることができるのか? 

 タイムトラベルものは、必ずタイムパラドックスの矛盾にぶつかる。この映画で描かれるエピソードもそんな矛盾でいっぱいなのだ。
 だいたい、ふたりの手紙のやりとりがいまいち理解できない。湖畔の家の郵便受けが2年の歳月を結ぶ役割をしているのはわかる。しかし、2006年の女はもうその家に住んでいない。どうやって郵便受けを利用しているのだ?
 最初男が家に住み始めたときに、郵便受けに入った女の手紙を見つける。それは女が後の住人に手紙の転送願いを書いたもの。その内容が少々不可思議だったもので、男は返信するのだが、いったい手紙をどこに投函したのだろう? まさか自分の家の郵便受けに入れるわけがない。普通は街のポストを利用するだろう。
 もうひとつ。中盤になって、女から2004年には出版されてないある写真集が男に送られてくるのだが、かなりの大判でどう見ても郵便受けに入りそうもない。

 というわけで、理屈っぽい、いや理論で物事を考える人は、この映画を楽しめないのではないか、と思う。
 深いことを考えず、あくまでもファンタジーの世界なんだからと軽く流し、シカゴの街のロケーションやさまざまシーンに流れてくる音楽(既成のポップス)に身をゆだねていれば、クライマックスでかなりドキドキするはずだ。
 同じキアヌ主演の恋愛映画でも「スウィート・ノーベンバー」とは雲泥の差、ではある。

 しかしなあ。冒頭で私は男が迎える運命がわかってしまった。
 であるからして、後はその確認作業でしかなかった。この映画、「シックスセンス」と同じ間違い(撮影)をしているとしか思えない。あれではバレバレだよ。
 ポール・マッカトニーの歌をスクリーンで聴けたのはけっこう感激した。「007 死ぬのは奴らだ」以来だもの。

 ちなみに「イルマーレ」とは、ハリウッドリメイク版では人気高級レストランの名称だが、オリジナル版では湖畔の家の名前だとか。今度ビデオで確認してみよう。
     △

     ▽
2000/11/30

 「オーロラの彼方に」(東商ホール 試写会)

 〈NYでオーロラの見える日、30年前と無線がつながった。それは父が死ぬ前日。〉の惹句から、早くに父を亡くした主人公がクライマックスで無線をとおして父と再会する物語なのだと勝手に想像していた。
 映画は30年前、消防士である若き父(デニス・クエイド)の絶体絶命の状況下における救助活動から始まる。大爆発が起こる前に地下に閉じ込められた負傷者を助けだせるかどうか!?ハラハラドキドキの映画の醍醐味をしょっぱなから展開してしまうなんて、と驚くとともに、この活動で父は命を落とし、舞台は現代に飛び、息子のお話になるんだな……と思ったら、すんでのところで父は助かってしまうのだ。まさしくヒーロー的活躍。

 この父親がいつ、どんな事件で命を落としてしまうのだろうと興味深く観ていると、時代は現代に移り、30年前の少年はニューヨーク警察の刑事に成長している。当然父はこの世にいない。火災現場の救助活動中に命を落としたという。
 で、すぐに惹句のような展開となる。息子からの忠告で、死ぬはずだった父は生還することになる。30年後、家に残されていた父の死を告げた新聞記事は父の奇跡的な救助を賞賛するものに変わっていた。父は煙草の吸い過ぎによる肺ガンで10年前に亡くなったことに歴史が変更されたのだ。

 30年前から続発し、迷宮入りしそうな連続婦女暴行殺人事件の犯人を追っていた息子は父が生きていたことに喜んだのもつかのま、さっきまで生きていた母が何と殺人事件の犠牲者となって死んだことになってしまって(宮部みゆきの「蒲生邸事件」に描かれた歴史の法則を思い出した。歴史は生きている。過去を変えても歴史はその代償を別に求めるから結局は同じという考え)うろたえる。
 母を助けるには真犯人を30年前(つまり父の時代)母が殺される前につかまえなければならない。こうして時を隔てた父と息子は無線機で連絡を取り合いながら真犯人を特定していく活躍がはじまる。

 前半、父に対して息子が煙草の吸い過ぎを注意するところでラストのオチはわかってしまった。が、ストーリー展開が読めないという不思議な感覚におそわれた。後半、クライマックスにむけて物語が進行するにつれタイムパラドックスを活用したサスペンス映画だとわかる。
 これまでのタイムスリップものは主人公が過去に行き、一騒動あって現代にもどってくると一部が様変わりしていたというパターンだった。
 この映画は過去と現代が同時(並列して)に描かれ、過去を変えると瞬時に現代が変わってしまう設定が斬新であり、無謀にも思えた。「そんなバカな!」と突っ込みたくなることも度々。しかしラストには父子の情愛というものがひしひしとこちらに伝わってきた。
 名曲「私を野球に連れてって」をバックに登場人物たちが野球に熱中するエンディングが胸を熱くする。
     △




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Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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