『模倣犯』 ~小説と映画のあいだに から続く

 映画レビューの参考のためにUPする。
 「小説と映画のあいだに」を「まぐま」に連載する際、ルールにしたのは、小説、映画化どちらも(自分にとって)面白かったものについて検証する、というものだった。
 これがなかなかやっかいだった。
 小説が面白くても、映画化作品はそれほどでもない、というのがほとんどなのだから。映画を先に観て、原作をあたる方がよい場合が多い。活字を先に読むと自分なりの世界、映像が構築されてしまうからだろう。

 ベストセラーの小説を、内容(映像に適しているとか)関係なく映画化するところに問題がある、と思っている。映像化不可能といわれる小説をついに映画化、などという惹句を目にするが、そんなことにどれだけの意味のあるのか。自慢でもなんでもない。
 本がどれだけ売れたか(映画化すればそれだけ原作ファンが劇場に来るという皮算用なのだろう)より映像化に適した小説をもっと発掘して面白い映画を作ること、映画に惹かれて劇場にお客さんが足を運ぶことが肝心なのだ。
 そういう作品はたくさんある。が、人気がない、売れていない、という理由で企画に乗せられないのだろう。それこそこそ出版社と協力しあって埋もれた小説を面白い映画作品に仕上げてヒットさせ、原作本にも脚光を浴びさせるようにしたらいいのに。

 映画「模倣犯」については褒めていない。連載のルールに反しているのでは? と思われる方もいるだろう。
 実は、連載を本にまとめるとき、HP[夕景工房]に掲載したレビューからこれはというものをいくつか転載しているのである。
 ということで、読了後にHPにUPしたレビューを掲載する。

     ▽
2001/12/26

 「模倣犯(上・下)」(宮部みゆき/集英社)

 図書館にリクエストしてから手にとるまでずいぶんと時間がかかってしまった。  
 最初かみサンがリクエストして数ヶ月。やっと順番がまわってきて、僕もいっしょに読んでしまおうとしたら、上巻読了にえらくかかる。結局かみサンだけが読んで期限切れ。しかたなく地元(川口)だけでなく会社(羽田)近くの図書館にもリクエストするが、これが全く音沙汰なし。また数ヶ月、こちらが忘れた頃になってやっと連絡がきた。それもほとんど同時に、だ。
 すごい人気である。  

 会社の昼休みに読んでいたら、書名を見た同僚の女の子が「それって(SMAPの)中居くんが犯人役で主演する映画の原作ですよね?」と訊いてきた。  
 映画化の話など全然知らなかった。後で森田芳光監督作ということがわかったのだが、しかし分厚い上下二冊2段組合計1400ページもあるこのストーリーをどう映画化するというのか。失敗するのが目に見えてしまうのだが……。  
 というわけで、映画化されることを念頭にページを繰った。  

 疑惑の銃弾、M事件、サリン事件、酒鬼薔薇事件等々、80年代、90年代の犯罪、犯人像のイメージが重なる。どこまでが作者の想像で、どこからが実際の事件を参考にしたのかは知らないけれど、10年前だったら架空のお話と安心して読めただろうに、21世紀最初の年だとけっして絵空事に思えないところが怖い。  

 とある公園のゴミ箱から女性の右腕が発見されるところから物語は始まる。この事件を番組で特集したTV局に犯人から電話があり、やがて複数の女性を狙った連続殺人事件へと発展していく。犯人は被害者の家族と接触をはかり愚弄し、マスコミを挑発する。はたして犯人の目的は、狙いは何なのか?  

 小説は3部構成になっている。  
 第一部は右腕を発見した青年・塚田真一、被害者家族(有馬義男、古川真智子)、犯人を追う墨東警察署の刑事たち(武上、篠田)、事件のルポを書くことになる女性ライター(前畑滋子)を巻き込み、連続女性殺人事件の全貌および事件に翻弄される人たちを描く。
 物語は拡散し、登場人物のキャラクター、それぞれのドラマが詳細に描き込まれる。(かみサン曰く「何でもかんでも描いちゃうから行間から想像することができない」)

 第ニ部は冒頭崖から転落した乗用車のトランクから男の遺体が発見され、運転手と助手席の男二人が連続女性殺人事件の犯人だろうと断定、そこで時勢が遡り、事件を今度は犯人側から描く。
 幼なじみの高井和明と栗橋浩美。同じ商店街の蕎麦屋と薬屋の息子の過去と現在、その関係。
 小学生時代優等生だった栗橋、愚鈍だった高井。二人は仲がよかった。ところがピースとあだ名される栗橋以上に出来のいい少年が転向してきたことにより、関係が悪化する。栗橋とピースにいいように扱われいじめられる高井。
 社会人になっても高井は栗橋との関係を断てなかった。それは何故か?
 女性殺しの犯人は栗橋とピースだ。それも主導権はピースが握っている。ピースは犯人を高井に仕立て上げようと罠を仕掛ける。
 その前から栗橋が連続女性殺人事件の犯人ではないかと疑っている高井は栗橋を自首させようと罠を承知で二人に接近し、事故に巻き込まれてしまうのだった。  
 栗橋の生い立ち、母親から受けた仕打ち、そのトラウマから抜け出せず苦しみもがき女性殺しに至るまでを余すこなく描き、そんな栗橋を救えるのはかつて悩みを打ち明けてくれた自分だけだと考える高井の優しさがにじみでる感動編である。  
 二人が崖下に落ちていくくだりは涙があふれでて仕方なかった。  

 第三部は高井和明の妹・由美子の、兄の無実を証明しようと悪戦苦闘する姿が描かれる。高井と栗橋の犯人像に迫るルポルタージュを雑誌に連載し評判を呼んでいるライター前畑滋子に連絡をとり、被害者たちの会合に出没したりする。しかし共鳴する人はいない。
 いや一人だけ由美子を助ける男が現れる。それがピースなのだ! ピースは高井が犯人でないことをアピールする本を出し、たちまちマスコミの寵児となる。
 拡散していた物語が一気に収束していく手腕は鮮やか。特に塚田真一の両親と妹殺しの主犯でつかまった父の安否を気遣い、父の話を聞くよう、会ってほしいとストーカーのごとく真一につきまとう娘・めぐみと兄の無実で錯綜する由美子の姿が重なりあうところは後ろから重石をたたきつけられたような衝撃だった。

 栗橋浩美については具体的、詳細に描いて読者に感情移入させても、ピースの生い立ちの描写は必要最小限に押さえたところも巧い。ピースはあくまでも絶対的な悪であり、憎むべき敵なのである。こんな奴に感情移入してしまったら元もこもない。
 読みながらずっとくすぶり続けていた〈どこがタイトルの模倣犯に関係するのか〉という疑問もラストの前畑滋子とピースのTV番組における対談(対決)で氷解する。
 犯人は逮捕され、主役である真一や義男、滋子たちにとっては胸のつかえがとれ、ある意味大団円といえるかもしれない。
 しかし僕はどうにも腑に落ちない。何の罪もなく命を落とした高井和明、ピースに利用され自ら命を絶つ由美子。愛しい息子(それもしばらくの間息子は殺人犯の汚名を着せられていた)と娘を続けざまに失った両親の気持ちはいかなるものか。僕はそれを知りたかった。ところが二部以降主役として登場してきたこの兄妹の両親のその後はまったく触れられない。しょせん物語を語るコマでしかなかったのか。それがたまらなく残念で、不満に思えてならない。

 さて、映画化についてである。
 仲居くんが犯人役というとピースに扮するのだろうか。全然イメージが違う。キムタクの方がピースっぽい。仲居くんは栗橋がお似合いだろう。
 映画は原作と別物との考えるなら一部、二部だけで完結させる手もある。高井の容疑が後に晴れることを前提としてだけれど。この小説で一番感情移入できるのが高井であり、読みながらなぜか花田勝(元若乃花)のニコニコ顔とダブってしかたなかった
 あるいは3部だけを独立させた映画化も考えられる。前畑滋子とピースの対決を主軸にするのだ。
 はたしてどんな映画になるのか。あまり期待しないで待つことにしよう。
     △




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プロフィール

kei

Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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