〈小説と映画のあいだに〉ラストです。

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 『ローレライ』『戦国自衛隊1549』に続く福井晴敏原作の映画化作品。巷では福井晴敏三部作のトリを飾る作品と呼ばれている。
 小説を読んでからというもの映画化を熱望していたはずなのに、いざ発表されるや先の2本に比べてそれほどの高揚感はなかった。
 単行本は二段組654ページ。その膨大な情報量を2時間強にまとめられるわけがない。ビジュアルも原作を忠実に再現するとなるといくらCG技術が発達したとはいえ、生半可な予算では出来は知れている。そのくらい小説「亡国のイージス」は衝撃的、破天荒で骨太なドラマが展開されのである。

 荒唐無稽な展開をいかにリアルに見せるか。
 たとえば、北朝鮮の女工作員チェ・ジョンヒは海外逃亡を企み旅客機をハイジャックする。機内で防衛庁情報局員に行く手を阻まれ絶体絶命になるや、飛行中の旅客機を爆破、自ら太平洋に落ちてミサイル護衛艦〈いそかぜ〉に救助されるなんていうくだりがある。〈いそかぜ〉内でも人間兵器ぶりを発揮して超人的なアクションを展開させるのだ。並みの映像(演技とカメラワーク)なら失笑されるに決まっている。

 予告編が上映されるにいたって、その思いはいっそう強くなった。原作のイメージとは隔たりはあるもののキャスティングはなかなかいい(ともに二世俳優の中井貴一と佐藤浩市が共演する映画・ドラマにハズレがないとは友人某の言葉)。
ところが、映像に迫力がない。海上自衛隊の全面協力がウリで、確かに本物の戦艦や戦闘機が映し出されてはいるが、単にフィルムに収めているだけのような印象。心を躍らせる何かが足りない。
 にもかかわらず、公開されてからの反応は3作の中で一番いい。『ローレライ』『戦国自衛隊1549』ともにドラマ的には期待はずれだったので(ヒットしたのはうれしいが)、やはりこれは『KT』の阪本順治監督の演出に見るべきものがあるのではないかと、一気に興味がわいてきた。

 有楽町の劇場は1回めの上映にもかかわらず、客席はかなり埋まっていた。それも年齢層が高い。なるほどヒットの報は嘘じゃなさそうだ。
 海上自衛隊が誇るイージス艦〈いそかぜ〉が北の某国工作員ヨンファ(中井貴一)一味に占拠された。副艦長の宮津(寺尾聡)の手引きで、東京湾沖で訓練航海中の出来事だった。宮津の薫陶を受けている部下たちも仲間である。
 宮津は敵対する乗員をすべて下船させ、艦の全ミサイルの標準を首都圏に合わせた。ヨンファはアメリカが秘匿していた特殊兵器を盗み出していた。この化学兵器は1リットルで東京を壊滅させることができる。ミサイルの弾頭にこの化学兵器が搭載されるのである。
 東京を救うにはある事実を世界に公表せよとの要求。しかしそれは絶対に受け入れられるものではなかった。
 そんな中、ヨンファたちにたった一人で立ち向かう青年、如月一等海士(勝地涼)がいた。如月の上司、誰よりも〈いそかぜ〉を愛し、その構造を知り尽くしている先任伍長・仙石(真田広之)も引き返してきた。
 テロリストに対する二人の徹底抗戦が始まるが、通信機器が破壊された〈いそかぜ〉から外部に連絡する手段はない。
 苦渋の決断の末、政府は特殊爆弾で〈いそかぜ〉を排除する方針を決定した。
 刻々とタイムリミットが迫る。
 果たして二人はミサイル攻撃を阻止することができるのか? 宮津の裏切りに隠された真相とは? 如月の本当の任務とは? 闇に消された〈亡国のイージス〉とは何か?

 あの膨大な原作をよくぞここまで刈り込んだものだ。それが率直な感想。
 だいたいベストセラー小説の映画化作品は、それが長編の場合、ストーリーの要約に汲々としてキャラクターの掘り下げまでに至らず、また原作を知らない者にとって意味がわからないエピソードも挿入されて、失敗するケースが見受けられる。
 そういう意味ではこの映画は小説の核の部分をしっかり把握し、うまく抽出していた。最後までダレルことなく観ていられるアクション映画に仕上がっている。

 ただし絶賛というわけにはいかない。日本映画にしては、福井三部作の中では、といった条件付きになってしまうのだ。
前半のカメラワークがなんともしょぼい。スマートさ、かっこよさに欠けるのだ。いい意味でのケレン味がない。
 原作の季節がいつだったかもう忘れてしまったが、〈いそかぜ〉乗員の制服が夏服というのも、絵的にどうにも軽すぎる。冬服の重厚さが必要だったのではないか。
 映画化にあたって北朝鮮の名称が使えないのはわからなくはないが(確か「宣戦布告」も別の国名に変更されていた)、劇中、朝鮮語が交わされないというのも不自然だ。『KT』の実績から、韓国人俳優、日本人俳優の共演を期待していたのだけれど。

 わからないエピソードといえば、女工作員の扱いはいったい何だったのだろうか。原作ではヨンファの片腕として前述のようにとんでもない活躍をする人物なのだが、映画では登場する意味がまったくない。「いったい何者なんだ、こいつ?」という感じ。敵対する如月と海中で戦っていて、なぜくちづけを交わすのか(原作にあったのだろうか?)。ヨンファの妹だということも明示されないのだから、スクリューに巻き込まれて死亡、その衣服の破きれを渡されたヨンファの悲しみ、絶望なんていうのは観客に伝わってこないだろう。

 ハリウッドが得意とするアクション映画に、時間に間に合うかどうかというサスペンスをクライマックスにもってくるものがある。不思議なことによく出来たこの手の映画は何度見ても同じシークエンスでハラハラしてしまうのだ。
 映画『亡国のイージス』はこの緊迫感が物足りなかった。〈いそかぜ〉が爆撃される前に化学兵器を奪取できるか否かのクライマックス。人物関係やストーリーが多少わかりづらくとも、その攻防戦に拳を握り締めたり、喉をゴクリと鳴らせたら、もうそれだけで十分なのに。
 自衛隊員のプロフェッショナルな行動を描く(たとえば情報局員如月の動きとか)という点もおざなりだった気がする。
 『交渉人 真下正義』のスタッフ(監督・本広克行)が撮れば、もっとサマになったのではないか。

 福井晴敏は週刊文春に新作「OP・ローズ」を連載していた。若い自衛隊情報局員と中年刑事のコンビが活躍する相変わらずの福井節なのだが、何とクライマックス前に突然連載が終了してしまった。後は単行本でとは読者をバカにするにもほどがある。まあそれはともかく、この小説の前半でお台場を舞台にアクションが炸裂する。当然フジテレビも登場するのだ。
 単行本がでたらたぶん映画化が発表されるだろう。
フジテレビが絡むことは十分予想できる。そうなったらぜひとも本広監督にメガホンをとってもらいたいなんて思っている。




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Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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