前項の参考として。

          * * *

2002/11/08

 「亡国のイージス」(福井晴敏/講談社)  

 数年前に話題になった海洋冒険小説を今読むのには理由がある。  
 東映系でロードショーされた軍事ポリティカルサスペンス映画「宣戦布告」が話題を呼んだ。北の某国の工作員と自衛隊の攻防を描くこの映画はインターネット上の批評によると賛否両論だった。この手の物語を映像化するスタッフの意気込みは大いに買う。しかし某代議士の鶴の一声で自衛隊の協力が得られなかったというから映像的にパワーダウンしたことは容易に想像できる。結局劇場まで足を運ばなかった。  
 代わりに原作でも読もうかと図書館で探したところ見当たらない。その時目についたのが「亡国のイージス」だった。内容的にリンクするものがあると思い手にとったのだ。  

 戦闘集団の〈組織〉の描写も気になるところだ。  
 少々話は飛ぶけれど、平成ウルトラマンシリーズで個人的に注目していたのが、怪獣と闘う〈防衛隊〉の活躍だった。特に「ウルトラマンガイア」では、それまでの〈防衛隊〉に比べ、よりプロフェッショナルなチームが描かれるとあって、大いに期待しものだ。敵と戦うにあたって、どのような指令が下って、どうやって最前線の隊員が遂行するのか。
 長年サラリーマンをやっているいい年齢の大人からすると、ウルトラマンと怪獣の戦いよりも、その前哨戦における〈組織〉の指示系統、伝達方法等の描写に興味がでてきた。  
 怪獣と戦う〈防衛隊〉といえば、日本映画の伝統として自衛隊がある。東宝映画ではこれまでさまざまなメカを装備した自衛隊が登場してきた。
 そんな自衛隊の描写を一歩も二歩も前進させたのが、金子修介監督の平成ガメラ3部作である。もし、この日本に怪獣が現れたら、自衛隊はどのように戦闘を挑むのか、政府との関係も含めかなりリアルに描きこまれていた。作戦本部に自衛隊幹部が陣取り、そこから様々な指示が出される。ヘッドセットのオペレーターから現地の隊員へそのまま繰り返され、攻撃が開始される。そんなシーンに痺れた。
 そんな個人的な興味も充たしてくれるかもしれない。  

 前説が長くなった。  
 実をいうと「亡国のイージス」のストーリーがどんなものかまったく把握していなかった。海上自衛隊、某艦隊の面々が敵(北朝鮮)と戦う物語くらいの認識しかなかった。  
 分厚い本。単行本二段組654ページの大作である。  
 当初の印象とはほど遠い内容だった。人気コミック「沈黙の艦隊」に映画「ダイハード」や「エグゼクティブ・デシジョン」「スピード2」の設定を取り入れ、敵味方が入り乱れるノンストップアクションノベル。1968年生まれの若い作者らしく、マンガ、アニメの影響とおぼしき美少女、美少年キャラクターも登場する。  

 沖縄・辺野古基地に隠匿されていた米軍保有の化学兵器。原爆に次ぐ殺生力がある兵器で、これを始末するには温度6千度の火力で焼失するしか方法がないというとんでもない代物だ。だから辺野古基地は跡形もなく破壊された。  
 北朝鮮のテロリスト、ホ・ヨンファの一派がこの兵器を少量盗みだしていた。海上自衛隊のミサイル護衛艦〈いそかぜ〉を乗っ取ったヨンファは、ミサイルにこの兵器を搭載し、東京湾から首都圏を射程に定める。東京都民を人質にとったヨンファは日本政府を脅迫する。それを発表すれば全世界を混乱に陥れる無理難題を要求した――  
 ヨンファの企みを阻止しようと孤独な戦いを挑むのが、艦内に立てこもった対照的な男二人だ。片や氷の心を持つダイス(防衛庁情報局)工作員、片や部下思いで人一倍人情味のある〈いそかぜ〉先任伍長。  
 化学兵器の前になすすべもない政府および自衛隊、ダイス当局。しかし、艦内の二人と特殊ルートで連絡をとりあったダイスの局内事本部長は、最後の賭けにでた。ヨンファの裏をかく秘密作戦を決行するのだが……    

 冒頭かなりのページを使って主要人物が紹介される。  
 〈いそかぜ〉艦長宮津弘隆。父親も海上自衛隊の幹部。部下に慕われる姿を誇りに思っていた。自分も当たり前のように海の男となって今や艦長の職にある。一人息子も防衛大に入学して自分の後を追っていた。幸せな人生だと思っていた矢先、息子が交通事故で死んだ。その死がある組織によって計画されたものだと知った時の怒り、悲しみ、絶望感。  
 〈いそかぜ〉の先任伍長仙石恒史。艦の誰よりも〈いそかぜ〉を愛している。出来のいい兄に反発すかのように子どもの頃からワルだった仙石は唯一絵を書く才能にだけは恵まれていた。今も甲板で絵筆を握ることがある。妻子がいるが、1年の半分以上家をあけ、帰っても先任伍長のままの仙石に妻が疲れてきっていたことに全然気づかなかった。突然三行半を突きつけられた。まるで自分の人生を否定されたようで元気がない。  
 一等海士如月行。〈いそかぜ〉にイージスが搭載されたことにより、そのオーソリティーとして赴任してきた。母一人子一人の貧しい環境で育った如月は、幼い頃母を亡くしている。自殺だった。その後父親に引き取られるが、劣悪な環境に変わりはなかった。祖父の庇護の元で生活する父は働かず、家に女を連れ込み、何かというと息子に暴力を振るった。次第に祖父と交流するようになった如月はやがて絵画に興味を抱き始めた。如月には父殺しという暗い過去がある。遺産を狙って病死にみせかけて祖父を殺した父が許せなかったのだ。仲間にまったく心を開かないため、さまざまな軋轢が艦に発生する。  

 3人のこれまでの足跡を丹念に追い、心情が明らかにされる。はるか昔にほんの一瞬互いの人生が触れ合っていたことが読者にはわかるようになっている。もちろん本人たちはまったく知らない。  
 こうしたプロローグともいうべき人物紹介の章は必要なことである。その後のうねるような物語展開の中で彼らが何を考え、誰のために、何のために闘うのか、その感情の襞を描く際のバックボーンになるのだから。  
 わかってはいるものの、退屈だった。これから先こんな調子で進むのかと思ったら、とたんに本を投げ出したくなった。  
 しかし、ホ・ヨンファ一派の雑居ビル立てこもり事件、海外への逃亡、民間機爆破等立て続けに事件が起こり始めて、〈いそかぜ〉占拠時最初のツイストが加えられるあたりから俄然面白くなった。後は怒涛の展開である。  

 登場人物の一覧表があるのは助かった。さらにもう一歩進めて〈いそかぜ〉の見取図があればと思った。
 自衛隊組織やメカニックの説明に専門用語が頻繁にでてくるのは仕方ない。わかったふりをするしかない。ただ物語の大半の舞台となる〈いそかぜ〉の全容がわからないとお話にならない。つまり、文章で描かれる場所が艦のどこなのか、敵味方の位置関係がはっきりしないと頭に映像が浮かばないのである。冒頭に見開きの見取図でもあればそれで確認しながら物語に熱中できる。  

 クールな如月もそうだが、ホ・ヨンファの妹、女工作員チェ・ジョンヒのキャラクターなんて、まるでアニメのようだ。一見虫も殺さないような少女のようで、いざ戦闘になるや俊敏な動きで冷酷無比に相手を惨殺する人間兵器。
 物語自体、荒唐無稽なしろものだろう。自衛隊関係者や軍事マニアが読むとおかしなこともあるかのかもしれない。ただしそういう知識がない僕などは、熱いストーリー展開に完全にはまってしまった。事件解決後の長いエピローグも悪くない。読後感はすこぶる爽快だ。  

 確認したいことが一つある。ダイスの存在だ。本当に自衛隊内部にはダイスと呼ばれる情報機関があるのだろうか。




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Author:kei
新井啓介
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まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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