TV映画の名作「傷だらけの天使」のシナリオ集が上梓された。
 版元は自主出版募集の新聞広告でよくその名を拝見する新風舎。ここが文庫を発刊し、その目玉シリーズが向田邦子賞受賞作家シリーズと銘打った人気脚本家たちのシナリオ集だ。
 著者は「淋しいのはお前だけじゃない」により向田邦子賞の栄えある第一回受賞者となった。
 上巻の巻頭に掲載されている〈向田賞作家シリーズに寄せて〉によると著者は毎日新聞に〈脚本ライブラリー〉構想を発表し、新風舎が賛同してこのシリーズの発刊が決まったという。

 1983年に大和書房から出版された単行本は持っている。当時ビデオはないし、「傷だらけの天使」が観られるのは再放送だけだった(再放送時カセットテープに録音していた友だちがいたっけ)。そんな状況でのシナリオ集の発売は実にありがたかった。歓喜した。できればこれを契機に全話のシナリオがでればと願ったものだ。
 その後、ビデオデッキを購入して深夜の再放送を録画したりしていたが、90年代になるとやっとビデオソフトになって、レンタルも可能になった。数年前ついにDVD-BOXを手に入れた。DVDプレーヤーを買ったのはその1年後だったのだけれど。
 こうなるともうシナリオを読んで映像を頭に浮かべる必要もない。にもかかわらず新聞でこのシナリオ集の広告を見て胸騒ぎがした。解説が上巻下巻それぞれ加納典明と深作健太。加納典明はおかま風の殺し屋という仰天キャラクターであるエピソードに登場して視聴者を驚かせた。当時はカメラマンなんて知らず(「傷だらけの天使」にはスチールカメラマンとして参加の由)、一体何者か大いに疑問だった。深作健太は深作欣二の息子さん。映画「バトルロワイアル」でマスコミに登場したのだが、僕が注目したのはその名前だった。劇中修の台詞によく出てくるのが健太という息子で、高倉健の健に菅原文太の太をもらったともっともらしく説明されている。本当に健太が存在していたことにこれまた驚いた。
 二人が「傷だらけの天使」について何を書いているのか、心落ち着かず、書店にかけこんだ。

 「傷だらけの天使」は「太陽にほえろ!」を卒業したショーケンのために企画されたもので、日本テレビの清水欣也プロデューサー、ショーケン、著者の夜な夜な繰り広げられた酒場の雑談から生まれたという。
 ショーケンと著者は飲み友だちだった。その証拠が「帰ってきたウルトラマン」のあるエピソードに見られる。ファンの間で〈11月の傑作群〉と呼ばれる作品がある。その一つが「許されざるいのち」のサブタイトルがついた作品で、クライマックスにこの手の番組には縁遠いロックバラード風の歌が流れて非常に印象深かった。僕にとって長い間幻の名曲だったこの歌がPYGの「花・太陽・雨」だったのだ。スパイダース、タイガース、テンプターズの残党が集まって結成されたロックバンド、PYG。ジュリーとショーケンのツインヴォーカルが売りで、ロックファンから黙殺されてあっというまに解散に追い込まれた。このバンドのシングル「花・太陽・雨」が著者の口利きで作品内に使用されたと某特撮ムックに書かれていた。
 市川森一はもともと円谷プロの「快獣ブースカ」でデビューし、「ウルトラセブン」以降のシリーズにかかわり「ウルトラマンA」ではメインライターだった。なぜPYGの歌が特撮ヒーロー番組で流れたのかこれで理解できた。

 閑話休題。
 もし萩原健一の代表作を一つだけあげろと言われたら僕は「傷だらけの天使」と答える。70年代、ショーケン主演の作品はTV、映画、傑作が目白押しなのだが、中学2年の秋から放映されたこのTV映画は何から何まで画期的だった。
 ジャンル的には探偵ものに位置づけされるのだろう。しかし登場人物、世界観がこれまで見たことないようなものだった。主人公の小暮修(萩原健一)は綾部探偵事務所の調査員。といえば聞こえはいいが、要は下働き、街のチンピラなのだ。弟分の亨(水谷豊)とともに仕事があれば綾部(岸田今日子)や綾部の部下辰巳(岸田森)に呼び出される。仕事といってもかなりヤバイものばかりで、時には警察に追われ、ヤクザ相手に大立ち回りを繰り広げる。都会の底辺をさまよう二人はけっしてかっこいいものではなかった。そのかっこ悪いところがかっこよかったのだけれど。

 ストーリー自体、ウダウダ、ウジャウジャして一見わかりづらいところもあった。16ミリフィルムの手持ちカメラを振り回し、わざと汚さを強調するカメラワーク。そんな展開の中で事件が起こり、謎が提示され、修と享がない頭で考え、体当たりでぶつかり解決していく。ただし、その解決も必ずしもハッピーエンドではない。どちらかというと悲劇ばかりだ(だいたい最終回では風邪をこじらせた亨が死んでしまうのだから)。哀しい結末にみせる二人の心情。どこまでもお人よしでやさしくてセンチメンタルで……。
 修と亨のコンビ、そこに辰巳が加わってくりだされるアドリブだかなんだかわからない台詞に笑いころげた。会話の楽しさというのを教えてもらった。 監督がすごかった。恩地日出夫、深作欣二、神代辰巳、工藤栄一……。撮影は木村大作だし。
 中学3年の冬、休み時間にストーブにあたりながら「傷だらけの天使」の面白さがわからないクラスメートに、以上のようなことを得意気に語ったことを思い出す。
 各話のサブタイトル「〇〇〇に×××を」も印象的だ。これに影響されて「ストローボーイに紫煙のバラを」という1時間ドラマを考えたことがある。

 さて、本書。上巻、下巻、4編ずつ計8編が収録されている。
 本放送時は第7話だが実際には一番最初に書かれた「自動車泥棒にラブソングを」(ゲスト・川口晶)、シリーズ中一番の劇的展開だった「殺人者に怒りの雷光を」(同・加藤嘉)、教育上よくないとの理由で夕方の再放送では放送されなくなった2本のうちの1本「ヌードダンサーに愛の炎を」(中山麻里)、綾部の結婚話を描く珍しいエピソードの「ピエロに結婚行進曲を」(滝田裕介)、はじめて画面に修の息子(健太)が登場する「母のない子に浜千鳥を」(桃井かおり)、修の小指が切断されてしまうショッキングな描写がある「渡辺綱に小指の思い出を」(坂口良子)、僕にとってベスト3のひとつ「街の灯に桜貝の夢を」(関根恵子)、名曲「一人」が流れる最終話「祭りのあとにさすらいの日々を」。

 「傷だらけの天使」が親しみも込めて略して「傷天」と呼ばれるようになったのはいつからだろう。みんな好んで使っているが僕はどうにも我慢ならない。それほど長くもないタイトルをどうして略さなければならいのだ? 加納典明も深作健太もそれが当たり前のように「傷天」を連発していたのが気になった。これって自分だけのこだわりだろうか。




関連記事
スポンサーサイト
NEXT Entry
「愚者の旅 わがドラマ放浪」(倉本聰/理論社)
NEW Topics
告知ページ
 「グリーンマイル」 ~映画を観て原作をあたる
 「雨あがる」「ボイスレター」 「スペーストラベラーズ」「ケイゾク/映画 Beautiful Dreamer」 「DEAD OR ALIVE 犯罪者」 ~ある日の夕景工房から
「シュリ」「海の上のピアニスト」「新選組」「ストーリー・オブ・ラブ」 ~ある日の夕景工房から
「天国と地獄」「どん底」 ~ある日の夕景工房から
「赤ひげ」「御法度」 ~ある日の夕景工房から
「ワイルド・ワイルド・ウエスト」「リトル・ヴォイス」「黒い家」 ~ある日の夕景工房から
1分間スピーチ #19 マスコミの悪意について
「双生児 ~GEMINI~」「秘密」「皆月」 ~ある日の夕景工房から
NHK「ファミリーヒストリー」は8月18日(金)に放送されます!
Comment
Trackback
Comment form
 管理者にだけ表示を許可する
プロフィール

kei

Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

検索フォーム
ブロとも申請フォーム
QRコード
QRコード

Page Top