一応この項から続く

 市川崑監督の「四十七人の刺客」が公開されたのは1994年の4月。この年から僕の忠臣蔵本読みが始まった。
 2000年にHP「夕景工房」を開設し、映画の感想や読書レビューを毎週更新していた。
 読書レビュー「買った! 借りた! 読んだ!」に掲載した分を転載する。

     ◇

1999/10/19
          
 「忠臣蔵コレクション4 列伝篇 上下」(縄田一男編/河出文庫)

 この河出文庫版の「忠臣蔵コレクション」は本伝篇と異伝篇の2冊で完結と思っていたら、列伝篇上下があってあわてて借りてきた。
 時代小説の大御所たちの短編が網羅されていてなかなか読み応えがあった。

 「列伝篇 上」では池波正太郎の「火消しの殿」、直木三十五の「寺坂吉右衛門の逃亡」、多岐川恭の「夜逃げ家老」、井上ひさしの「毛利小平太」が面白かった。いわゆるアンチ赤穂義士という味わいがあるからだろう。
 「火消し殿」は浅野家に小姓としてとりたてられた美貌の青年からみた浅野家断絶が描かれている。何より内匠頭の男色、その執着ぶりを上野介にとがめられたことが刃傷の原因だったというのが興味深い。
 足軽の悲哀がにじみでていたのが「寺坂吉右衛門の逃亡」。討入り寸前まで他の浪人たちと差別された寺坂が怒って、討入り最中に逃亡、しかし死人に口なしで「討入り成功の報告」をするという口実で関係者を訪ね歩き寺坂自身が後世に名を残すという趣向。伝説を逆手にとった解釈でなるほどある部分納得してしまった。
 討入り直前に毛利小平太がなぜ脱盟したのか、その理由を描いたのが「毛利小平太」だ。吉良側に正体がばれてしまった毛利を逆に赤穂側が利用する。動向を見守られている毛利自身は討ち入りに参加できないということで、それを聞かされ愕然となった毛利は逃亡を図るのだった。これも哀しい話である。

 「列伝篇 下」では、澤田ふじ子「しじみ河岸の女」、菊地寛「吉良上野の立場」、長谷川伸「小林平八郎」、湊邦三「元禄武士道」が印象に残る。
 若い浪士と娼枝に身を落とした幼なじみの心中に大石内蔵助の非情が関係していることを鮮やかに描く「しじみ河岸の女」、普通の感覚で読めば当たり前のことで、なぜこれが世間に受け入れられないのだろうかと思える「吉良上野の立場」、吉良側の人間模様の「小林平八郎」、まさに正統派忠臣蔵のエピソードであり、主人公の浪人と弟子の関係が心暖まる「元禄武士道」。
 忠臣蔵を取材した短編というのはどのくらいあるものだろうか。全く違ったテーマで書かれたものでも連続して読むと、ちょっとした連作集の趣きがあるのが不思議だ。


1999/12/21

 「忠臣蔵大全」(勝野真長 監修/主婦と生活社)

 昨年暮に購入した忠臣蔵本の一冊で、「元禄繚乱」が始まったのを契機に、ドラマの進行に合わせてちょびちょび読み進めてきた。辞典的活用法で読むのもたまにはいいだろう。
 本書で新たに知った事実は、吉良討ち入りに手本があったということ。
 30年前に起きた通称「浄瑠璃坂の仇討ち」といわれるものがその手本だという。奥平源八が父((内蔵助)の仇・奥平隼人邸に討ち入りした。源八は伊豆遠流の処分に付されたが、6年後、恩赦で罪を許され、その後彦根の井伊家に召しかかえられた。
 大石と参謀役の吉田忠左衛門はこの仇討ちを参考に討ち入りをしたのではないかと書かれている。 もしかした赤穂浪士たちも源八と同じ処分を期待していたのだろうか(本書は否定しているが)。

 で、思うのだが、その浄瑠璃坂の仇討ちの事件は世の関心を呼ばなかったのだろうか、芝居になって一世を風靡しなかったのだろうか。


2000/01/08

 「忠臣蔵 -赤穂事件・史実の肉声」(野口武彦/ちくま新書)

 一度読んであまり面白くなかった印象があった。その後小林信彦の書評コラム(週刊文春連載)で取り上げられ、本書がもっと早く出版されていたら「裏表忠臣蔵」の執筆がもっと楽だったろう、というような感想を書かれていたので、もしかしたら僕の読み方が間違っていたのだろうかと思い直した。
 岩波新書の「忠臣蔵」同様購入してもよかったのだが、年末羽田図書館に寄ったら、幸いにも置いてあったので借りてきた。(以前もここで借りたのだ。)
 本書の特徴は完全なる資料第一主義という立場で赤穂事件の真実に迫っていることだろう。過去の資料文献でも信用していいもの、できないものを区分けして、当時の事件を推理していく。そして赤穂事件とは何だったのかを解き明かすのだ。だから史実の肉声なのである。昔の文献もむずかしいものは口語訳して読みやすくしてあるし、入門編としてはとても最適な参考書である。
 面白い。なぜ前回の時にはそう感じなかったろうか?


2003/01/27

 「忠臣蔵夜咄」(池宮彰一郎/角川書店)  

 2002年は赤穂浪士の討ち入り300周年だったという。また著者が「四十七人の刺客」を上梓してから10年という区切りがいい年。ということで、もう一度忠臣蔵を振り返ってみようという趣旨で、これまで忠臣蔵をテーマにして書いたエッセイや対談、鼎談などをまとめたのが本書である。  
 現在僕が江戸時代に興味を持っているのも、もとをただせば「四十七人の刺客」が要因だった。市川崑監督によって映画化された作品を観て、もっと詳しく忠臣蔵を知りたいと思い、さまざまな参考書、関連書をあたった。そこから徐々に他の事件、人物に興味に範囲が広がっていったのだ。時代小説を読み始めたのも「四十七人の刺客」が最初ではなかろうか。  

 とにかく忠臣蔵についてはまず史実として赤穂事件(松の廊下の刃傷と討ち入り)がどのようなものであったかが知りたかった。  
 著者も映画「四十七人の刺客」公開前後に縄田一男と組んで「池宮彰一郎が語る忠臣蔵のすべて」(PHP研究所)を上梓して、そこらへんのことに触れている。ところが〈事情があって現在入手不可能である〉と本書でことわっている。読んでいてこの文章どこかで目にしたことがあると思ったのは、「……忠臣蔵のすべて」に所収されたものだったのだ。  

 刃傷の原因について、著者は若者と年寄りの考えの違いに起因するのではないかと自説を展開させ、なるほどと思わせる。  
 若者(浅野内匠頭)と老人(吉良上野介))の言葉の行き違い。痞(つかえ)を患い、鬱状態になっていた浅野が自分の言うことを頭ごなしに否定し、事細かく指示してくる吉良に対してストレスを爆発させたのが刃傷に及んだのだと。  
 刃傷沙汰を犯した浅野内匠頭を深く追求もせずその日のうちに切腹させた幕府(柳沢吉保)の思惑も解説している。  
 もし仮に喧嘩両成敗にすると御三家と縁せき関係にある吉良に傷がつくことを恐れたというのだ。上野介の実子は上杉家の養子、紀伊大納言の三女を妻に迎えている。紀伊から将軍がでるとなると何かと都合が悪いというわけである。幕府は刃傷の理由を悠長に調べている暇はなかった。だから討ち入りも、単なる仇討ちではなく、片落ちの裁定を不服とした大石一派の幕府に対する反抗であると。なぜなら大石にお家再興の意思がなかったところから説明する。これも大いに首肯できる。そうでないと47人もの徒党を組んでたった一人の老人の首をとる大石たちの行動が理解できなくなるのだ。  
 まあ、どんな理由があろうと殿中で抜刀した浅野内匠頭は藩主として失格ではないかというのがわかってくる。


2004/08/24

 「赤穂落城 元禄の倒産とその結果」(童門冬二/経済界)  

 童門冬二が書く歴史ものはとてもわかりやすい。まず文章が読みやすい。現代の視点から歴史を紐解くというアプローチの仕方が歴史素人にはとっつきやすい。特にビジネスの観点から語ってくれるのでサラリーマンには参考になる。総務部に所属していた頃は「月刊総務」という雑誌に連載されていた童門冬二の記事だけは読んでいた。歴史上の人物の評論で、いかに人をまとめ導いていくかという観点で論じていた。  

 元禄の刃傷事件、討ち入り事件、いわゆる忠臣蔵事件について、賞賛だけでなく当時から批判もあったという。
「刀をぬいてはならないという江戸城で刀を抜いたのは浅野のほうだ。吉良に罪はない、悪いのは浅野だ。罪を受けるのは当然だ。それを、吉良に恨みを持ってこの首を取るなどというのは、浅野家の家来の逆恨みだ」  
 というもの(本書9ページ)で、著者は事実はそのとおりと書いている。が、そんな単純なものではないと、大石内蔵助を〈倒産した企業の代表的重役〉と見立て、彼が吉良上野介の屋敷に討ち入る決心をするまでの苦心談を綴ったのが本書なのだが、刃傷事件はあくまでも浅野に非がある、吉良は悪くないと思っている僕には納得がいかないものであった。   
 喧嘩両成敗のしきたりに則っていないと指摘するのだが、何が喧嘩なのか僕にはわからない。第三者的に刃傷事件を見れば、浅野が勝手に怒り、刀を抜いて吉良に斬りかかったのである。これのどこが喧嘩なのか。やはり非は浅野にある。
 幕府の落ち度は、事件が起きてから詳細について調査しなかったことだろう。浅野に対してなぜ刀を抜いたのか、その理由を確認せずにさっさと切腹させてしまったことが悔やまれる。ただし刃傷事件の理由が判明されていれば、1年後の討ち入りもなかったかもしれない。忠臣蔵の芝居も成立しなかったのだ。そう考えれば結果オーライ?




関連記事
スポンサーサイト
NEXT Entry
「Hanako」にブックカフェ二十世紀が紹介されました!
NEW Topics
「千里眼」「忠臣蔵コレクション4 列伝篇 上下」「のり平のパーッといきましょう」 ~ある日の夕景工房から
58
「朝霧」「墓地を見おろす家」「催眠」「蟲」「ファミリー」 ~ある日の夕景工房から
「論戦」『黒澤明 「一生一作」全三十作品』「鯛は頭から腐る」「読むJ-POP 1945-1999 私的全史」 ~ある日の夕景工房から
「死国」「黒い家」「天使の囀り」「バースディ」 ~ある日の夕景工房から
「世紀末、どくぜつテレビ」「江戸はネットワーク」「清張ミステリと昭和三十年代」 ~ある日の夕景工房から
「ジャーナリストの作法」「たかがテレビ されどテレビ」「藝人という生き方、そして死に方」 ~ある日の夕景工房から
「恋」「秘密」「ラザマタズの悲劇」 ~ある日の夕景工房から
「兄弟」「芸人失格」 ~ある日の夕景工房から
「少年H 上下」「ジュラシック・パーク」「塗仏の宴 宴の支度」「塗仏の宴 宴の始末」 ~ある日の夕景工房から
Comment
Trackback
Comment form
 管理者にだけ表示を許可する
プロフィール

kei

Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

検索フォーム
ブロとも申請フォーム
QRコード
QRコード

Page Top