「木枯し紋次郎」と「必殺仕掛人」といったら、「帰ってきたウルトラマン」と「仮面ライダー」の関係に似ている。違うか。
 土曜日の22時30分、フジテレビで始まった「木枯し紋次郎」が始まって大人気になった。第2シリーズのときだったと思うが、裏のTBSで22時から「必殺仕掛人」が始まって、これまた大人気となった。視聴率的は「木枯し紋次郎」を追い抜いたのではなかったか?
 当時はエロシーンに惹かれて、最初の30分だけチャンネルを合わせたこともあった。〈手ごめ〉という言葉を覚えたのは、この手の時代劇のテレビ欄における紹介記事だった。
 同じ時代に放映された人気時代劇の原作をほぼ同時に読み始めたのはまったくの偶然である。いや、少しは何かの力が働いているか。

     ◇

2000/09/08

 「梅安蟻地獄 仕掛人藤枝梅安」(池波正太郎/講談社文庫)

 この夏のお昼にテレビ東京で「必殺仕掛人」が再放送され、その録画を帰宅してから観るのが毎晩の楽しみになっている。
 本放送時、「木枯し紋治郎」の裏番組だったため、ちゃんと観た覚えがなく、再放送にも縁がなかった。
 僕が必殺シリーズに夢中になったのは第2作「必殺仕置人」で、その後しばらくご無沙汰して「新必殺仕事人」以降またハマったくちだ。だから「仕掛人」は本放送以来久しぶりの鑑賞ということになる。

 当時の印象としては緒方挙演じる梅安の坊主頭と針による斬新な殺しがすべてといった感じで強く記憶に残っているが、今回観直していろいろと発見があった。
 梅安の魅力はもちろんのこと、林与一演じる浪人・西村左内のストイックな生き方、華麗な刀さばきに惚れ惚れする。また、山村聡の元締め・音羽屋のしぶさがたまらない。梅安たちが酒を飲み、鍋などつつくシーンが見るからにうまそうだ。
 ストーリーもシリーズ後期のようにパターン化していなく、先の展開が読めないこともありけっこうハラハラさせられる。
 やはり原作がしっかりしているからだろうか、と小説を確かめたくなった。

 とりあえず短編シリーズからと思って、図書館に行ったら第1巻が貸出中。
 「木枯し紋治郎」同様どこから読んでもかまわないだろうとシリーズ第2弾の本書を読んだのだが、このシリーズは短編連作でストーリーがつながっているのである。しまったと思ったが後の祭り。
 「春雪仕掛針」「梅安蟻地獄」「梅安初時雨」「闇の大川橋」の4編が収録されている。春に始まって冬までの四季のうつろいの中で梅安たちの活躍を描く趣向が江戸情緒とあいまってたまらない魅力となっている。
 食事の場面はどれもみなおいしそう。描写がうまくて思わず舌なめずりをしてしまう。よく考えれば池波正太郎は食通として有名な作家であった。
 梅安の独白が独特の文体で書かれ、それがこのシリーズの特徴。

 小説の梅安は、確かにイメージは緒方挙であるが、大柄というところがどうも違う。コンビを組む相手もTVと違って楊枝職人の彦次郎。彦次郎といえばTVでは左内の息子の名前だ。元締めは表の商売が香具師の元締め、札掛の吉兵衛。
 音羽屋や左内はTVのオリジナルなのだろうかと思いながら読み進むと後半になってからゲスト的に登場してくる。この二人の設定とイメージはTVとまったく違う。
 今後音羽屋はもっと梅安にからんでくるのかどうか。「木枯し紋次郎」同様楽しみなシリーズができた。


2000/10/31

 「殺しの四人 仕掛人・藤枝梅安」(池波正太郎/講談社文庫)

 「おんなごろし」「殺しの四人」「秋風二人旅」「後は知らない」「梅安晦日蕎麦」の5編収録。本作も一年の季節をとおしての物語となっている。

 記念すべき第1作はTV化もされた(映画化もされているという)「おんなごろし」。料理屋のおかみ殺しを依頼された梅安が下調べに行くとおかみは小さいころに別れた妹だとわかる。にもかかわらず、梅安は評判の悪いこのおかみを何の未練もなく殺してしまう。梅安の少年時代、なぜ仕掛人になったかがわかる仕組みにもなっている。TVではこの妹を加賀まり子が演じていた。
 「殺しの四人」は梅安が昔殺した女の亭主が今では仕掛人となって梅安に復讐する話。
 「秋風二人旅」は彦次郎の復讐譚。京への旅の途中に見かけた侍は忘れもしない妻子を殺した無法者だった男。かつて無法者に犯された愛しい妻は子どもを連れて自殺してしまっのだ。妻子の仇とばかりにいきりたつ彦次郎をよそに梅安は侍がかつての無法者には思えなくて…という話。これもTV化されている。TVでは、彦次郎役に今はなき小林昭ニが扮し、無法者と侍の二役を天地茂がうまく演じていた。
 「後は知らない」は二人が京に滞在中に依頼された殺しに関して、命を狙うべき侍が実は善人で、依頼した方が悪人だと知った梅安たちが依頼人を殺してしまう話。
 似た話が最終話の「梅安晦日蕎麦」。これは彦次郎に依頼された殺しの相手が家来の母娘を犯し好き勝手放題の旗本に反抗した侍であること、依頼人がその旗本だとわかり梅安の協力のもと依頼人と同時に嘘をついて仕事を斡旋した元締めまでも殺してしまう姿が描かれる。<世の中に生かしておいては、ためにならぬやつを殺す>梅安の姿勢を明確にした一編といえるだろう。

 偶然にも1970年代初めに一世を風靡した時代劇(「木枯し紋次郎」と「必殺仕掛人」)の原作を読むようになった。「木枯し紋次郎」シリーズが読むたびに昔の映像が蘇ってくるのにくらべ、「梅安」シリーズにはこの夏再放送されたというのにそれがない。原作とTVがまったく別物という印象なのである。


2001/02/11

 「梅安最合傘 仕掛人・藤枝梅安」(池波正太郎/講談社文庫)

 シリーズ第3弾。6編収録。

 音羽の半右衛門と敵対する元締めから半右衛門の仕掛けを依頼された梅安の策略を半右衛門の人となりを交えて描く「梅安鰹飯」。このエピソードは大幅に内容が変更され「必殺仕掛人」でTV化された。
 昔自分の子を捨て、江戸に出てきた女が今では一女をもうけ亭主と幸せに暮らす。子捨てを目撃している梅安は激しい怒りで女に殺意を抱く、掌編とも言うべき「殺気」。
 道場相続の一件でお尋ね者になっている小杉十五郎が大坂から帰ってきた。彼の命を狙う男は、また料理茶屋の主人の過去をネタに脅迫。このものすごく腕のたつ男を梅安と彦次郎が息のあった仕掛けで葬りさる「梅安流れ星」。ラストの二人のやりとりにちょっとびっくり。
 命の恩人が実はこの世に生かしておけない奴だと知り、ためらいもなく仕掛けに走る梅安の活躍「梅安最合傘」。

 特に印象深いのが「梅安迷い箸」「さみだれ梅安」の2編。
 「梅安迷い箸」は料理茶屋の座敷女中に仕掛けを目撃された梅安の焦りが前半のサスペンスとなる。仕掛人の掟として現場を目撃された場合、理由の如何にかかわらず目撃者は殺さなければならない。しかし女は取り調べでお上に何も言わなかった。なぜなのか?調べていくうち女の薄幸な人生が浮き彫りにされてくる。梅安の身を案じ女を自分の手で殺めようと考える彦次郎をよそに梅安は決断する。女は殺さない。もしそれでお縄になってもそれはそれで仕方ない。しかしそんな女におとずれた小さな幸せがあっけなくくずれたとき梅安は……。女中おときと梅安のふれあい、真の悪を裁く梅安の心情が活写されている。
 最終話「さみだれ梅安」はまた小杉十五郎にまつわるエピソード。

 このシリーズ、収録作品が時系列に並び連作の形をとっているが、このエピソードだけ季節が「梅安鰹飯」の頃にもどるのだ。大坂からまいもどった十五郎が世話になった白子屋から仕掛けの話をもちかけられたのだが、相手が女なので躊躇する。女は料理茶屋のおかみ、婿をとり娘もできて先代から仕えている大番頭のもと店も繁盛している。なぜこの女を殺さなければらないのか、この殺しを依頼してきたのは誰か。梅安はそんな十五郎に交換殺人を提案する。女のずるさ、したたかさはまた梅安の憎むべき、忌み嫌うものだと意識させられる。
 十五郎を仕掛人に誘い込む白木屋とそれを許さない梅安との確執が予想されるラスト。
 今後の長編の展開に関係があるのだろうか?

 この項続く




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Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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