都知事選、自民党推薦候補の応援演説で、小池百合子に対して「厚化粧」と言い放った石原さん。あのとき、豊洲市場問題で、百条委員会が設置され、自分が招致されるなんて、これっぽっちも考えていなかっただろう。
 かつて石原慎太郎について書かれた本を読んだ。著者の本多勝一、佐野眞一に関しても書きたいことはあるのだが、とりあえず。

     ◇

2001/10/17

 「石原慎太郎の人生 貧困なる精神N集」(本多勝一/朝日新聞社)  

 石原慎太郎が元気である。期待はずれに終わってしまった青島幸男に代わって東京都知事の椅子に坐った石原慎太郎の勇ましい発言は連日のようにメディアを賑わせている感がする。  
 靖国参拝する知事に記者がその立場を「公人か私人か」と問うた時、「バカなことを質問するんじゃない!」と一喝した時は爽快だった。靖国参拝する大臣に対して何とかの一つ覚えみたいに同じ質問するマスコミにいい加減うんざりしている。公人だろうが私人だろうが参拝するのは本人なのだ。愚問以外何ものでもない。三国人発言も本人に差別意識があったわけではないと思う。  

 お前は石原慎太郎ファンなのかと早合点しないでほしい。確かにマスコミ対応する際の態度は堂々としているし、見えすいた質問には感情そのままに怒りだす、そういうところは新鮮だし、頼もしい感じがするけれど、あの自信はいったいどこから湧いてくるのだろうといつも疑問なのだ。そのくせ、神経質そうにいつも目を瞬いていて、そこだけ見ていると小心者のように思えてしまう。
 だいたい選挙で弟石原裕次郎の威光を借りるあまりの節操のなさが気に入らない。「太陽の季節」で文壇デビューした小説家としての活動はどうなっているのか。  
 そんなことを考えていたところ、図書館の棚に本書を見つけた。  
 タカ派の石原について良いことが書かれているはずもない(だから読もうとしたのだ)と思ったものの、ほとんど全否定というのが驚いた。  
 「ウソつき」と「卑劣な小心者」をこねて団子にしたような男だって。  
 まあ、確かにそのとおりなのかもしれないが、ここまで否定されると少しはいいところもあるだろうと弁護したくなってしまう。  
 大江健三郎を批判した「文筆家の生活」でも感じたことだが、批判対象者をことごとく罵倒するのは方法論はどんなものか。相手の功罪の罪ばかり責めるのは、あまり賢い方法でないと思う。功もちゃんと認めた上で批判するから、その真意が第三者に届くのではないか。  

 本書は「週刊金曜日」の連載をまとめたものだから、石原慎太郎のほかにもいろいろと話題がある。
 大江健三郎の息子のCDに関する大江自身の親バカぶりはそのとおりだと思う。しかし「ら抜き言葉」に関しての文化庁批判はちょっと論旨が違うのではないか。言葉の美しさという点ではどう考えているのか、方言云々なんて持ち出したってしょうがない。  
 日垣隆『「買ってはいけない」は嘘である』にも相当頭にきているのがわかる。この本を取り上げて、日垣隆のことを〈文春のあわれなシッポ〉と切り捨てる。名前を書くのも汚らわしい、とばかりに文章の中にその名がまったく見当たらない。  
 しかしなぁ、とまた僕は思う。日垣隆の体質(つまり徹底的に取材する姿勢)は「週刊金曜日」の仲間である佐高信より、よっぽど著者に似ているのに。


2004/03/23

 「てっぺん野郎 本人も知らなかった石原慎太郎」(佐野眞一/講談社)  

 書名に笑ってしまった。まさしく石原慎太郎のことではないか。よくぞ名付けたものだと感心していたら、石原慎太郎の小説に同じタイトルのものがあることを本書で知った。副題も効いている。
 
 はっきり言って石原慎太郎は好きになれない。東京都民だったとして先の都知事再選時に彼に投票したかどうか。しかし圧倒的な得票数で再選を果たしたり、石原新党の結成や次期首相を熱望されたりするのはわからなくはない。何度も繰り返す失言も、その本質的な部分で共感を呼んでいるのではないかと思う。都内のホテルや銀行から特別税を徴収しようとしたりする勇ましい行動は部外者にとっては頼もしい限りだ。博覧会を中止した以外は特にこれといった動きを見せなかった青島前都知事と比較して「なかなかやるじゃない」と思っている人は多いのではないか。  

 石原慎太郎とは何者なのか。その思いはいつもあった。僕がまだ十代の頃、自民党内で青嵐会を組織して活きのいい若手議員の印象があった。小説家出身と知り驚いた。「太陽の季節」により大学生で芥川賞を受賞、一気に慎太郎ブームが押し寄せた。当時誰もが慎太郎カットに夢中になったという。「失恋レストラン」のヒットで健太郎カットがブームになったことがあるが、慎太郎カットのブームもこんな感じなのかと思った。今でも個人的にはあくまでも政治家であり小説家のイメージはない。「太陽の季節」等の小説が書店に並んでいるのを見たことがない。今でも本をだしているけれど、政治家が書いたものという認識だ。
 美濃部都知事と知事の座を争ったこともある。正直に白状すれば、あの時は石原さんが都知事になればいいのにと群馬の片田舎でひそかに願っていた。
 でも本当のところ、政治家として手腕はどのくらいのものなのか、どんな実績を残してきたのか。明日の首相に相応しい人なのかどうか。  
 今は亡き弟の石原裕次郎の名を選挙運動に利用するのはどうかと思っている。いつだったか、街頭演説の冒頭で「石原裕次郎の兄です」と挨拶して失笑したことがある。
 TVに登場する際、頻繁にする瞬きが気になって仕方ない。日頃の言動とは裏腹に実は小心者なのではないかとも思っている。同じように瞬きばかりする谷啓は非常にシャイな人なのだそうだ。    

 石原慎太郎の本質を問う本書は、第一部(五章から成り立つ)をまるまる父親・潔の生涯についての記述に割いている。最初は退屈に思えたこの部分が後になって吹奏楽のコントラバスのように必要不可欠であることがわかってくる。  
 湘南のボンボンのイメージがある石原慎太郎(および裕次郎)だが、もともと石原家は裕福な家ではなかった。山下汽船の店童(丁稚みたいなもの)からスタートした父の仕事は苦難に満ちていた。この部分の取材でも著者は決して手をゆるめない。文献を探し出し、潔を知る人間にできるだけ取材を試みる。  

 第二部以降は石原慎太郎の本質をついた至言がいたるところで散見できる。  
 いくつか拾ってみよう。

 慎太郎の論理の特徴は、自己を正当化するためなら、事実を自分の都合のいいようにねじまげてもかまわないという考える我田引水と夜郎自大の習性が、随所ににじみ出ていることである(P366)。

(慎太郎は)みんなバカにみえて、自分ひとりだけ松の上にとまった鶴みたいな気でいる。自分以外の他人はほとんどバカにしかみえない慎太郎の唯我独尊的な体質は、危惧の念を抱いてみるべきである(P379)。

 自民党で一派閥を統率する亀井静香はしばしば、「あいつ(慎太郎)はわがままがすぎる」と漏らしている。やはり、慎太郎は政治家ではなく小説家以外の何者でもない、というみかたにどうしても傾く(P383)。

 1975年の都知事選での敗退後、支援者たちに電話の1本もかけず、なんのあいさつもしなかった慎太郎に、人さまのことをあれこれいっていい資格はなかった(P390)。

 最初の掛け声は勇ましいが、結果は尻すぼみに終わる。これは青嵐会結成以来、慎太郎が繰りかえしてきたいつものパターンである(P407 )。

 息子への溺愛ぶりと、他人の痛みには寛容なのに、自分の痛みは絶対に許せない彼のわがままな性格は露骨に現われている。慎太郎の息子たちへの愛情のかけかたは、家族思いという次元をはるかに超えている(P409)。

「公約なんて実現可能なことは言わないものです。実現できなかったときに支持率が落ちるだけですからね。(公約は)オッと思わせることが大事なんです」(P430)

 朝まで生テレビの物真似で話題を呼び、今はウンチク王で名高い某氏がこの人の物真似だけはしたくないと言った。なぜなら「物真似は好きな人、その人への愛がなければないとできないから」。そんな亀井静香に「わがまま」と言われる石原慎太郎っていったい?!

 同じ自民党の、長老松野頼三に取材し、彼の慎太郎感を聞き出している。
「彼はポイント、ポイントではよいことをいうけれども、全然つながらない。ときには反対のことをいうことがある。上手にね。上手すぎるんだ」
「政界に長くいると、その上手すぎる手つきがみえる。手品がみえる。観客には拍手だがね。私ら、舞台裏からみてるから、みえすぎるんだ」
「慎太郎は危険ではない。君子豹変するほうだ。実利的な男だからね。自己顕示欲が強くて、中曽根康弘の若いころに似ている。けれども、中曽根のほうがずっとイデオロギーがあった」
「慎太郎は《かつがれにくい人》なんだ。自作自演の人間だからね。彼には諸葛孔明が必要ないんだ。自分が諸葛孔明のつもりなんだ」
「彼にどんな能力があっても1人の力はしれている。彼を指示し、教える者がいない。だから彼は、東京で一番高い愛宕山で終わるかもしれない」。  

 副知事某氏の重用が心配である。都政の九割を牛耳っているという。批判的な記事を書くと、その記者は飛ばされるのだとか。この某氏に対する石原都知事の信頼は厚い。本書の中で一番恐怖を感じた部分はここだった。




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Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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