談四楼師匠のホームグラウンド、北澤八幡神社で隔月開催される「談四楼独演会」の客席で著名人を見かけることがある。きくち英一さんと出会ったのはこの会だから。
 通いはじめたころのこと。井上ひさしに似ている人がいた。まさか本人じゃないよなと思っていたら、二井康雄さんだった。当時は「暮しの手帖」の副編集長で、談四楼師匠は「暮しの手帖」に落語に関するエッセイを連載していたのだ。
 小田島雄志に似ている人もいた。大銀座落語祭で談四楼師匠が出演した会の打ち上げで初めて話をした。まさか本人じゃないよな? Mさんだった。印刷会社の社長さんで、今では談四楼フォロワーズの一員だ。BC二十世紀で毎月開催している日曜ぶらり寄席の常連でもある。
 斜め前に佐高信に似ている人がいた。もう本人じゃないよなとは思わなかった。本人だった!

     ◇

2001/02/28

 「偽善系 やつらはへんだ!」(日垣隆/文藝春秋)  

 著者の日垣隆の名前を知ったのはベストセラー本「買ってはいけない」を真っ向から否定した『「買ってはいけない」は嘘である』が上梓された時だ。版元は文藝春秋。相手が週刊金曜日(本多勝一)だからこの構図はよくわかるが、一フリーライターが戦いを挑むのは無謀ではないかと心配したのである。  
 しかし、日垣隆はそんなヤワな物書きでないことを後で知ることになる。  

 次に日垣隆に注目したのは「諸君!」2000年10月号に掲載された佐高信批判「佐高信とは何者か」だった。批判することはあっても批判されることがほとんどないこの辛口評論家をどう料理しているのか、興味津々で思わずそれまで立ち読みもしたこともなかった「諸君!」を購入した。  
 「諸君!」の批判は佐高信の人間性、仕事ぶりについて言及したもので、具体例が豊富で指摘が鋭く人気評論家の実態が緩急自在に暴露された論文だった。こうまで書かれてどう反論するのだろう、仕事はあるのだろうかと佐高信の今後を心配する始末。  
 頭の極端に切れる人、ディベートやったら絶対負けない人、タイプでいうとポスト呉智英の印象を持った。  
 「諸君!」で認識を新たにした後に出たのがこの「偽善系」だ。(~系)という言葉づかいは好きになれないが、目次を見ると「少年にも死刑を」なんていう章もある。只者ではない。    
 実は本書で一番興味を持ったのが最終章の「さらば二十世紀の迷著たち」だった。  
 それまで本を読んだことがなかった著者は18歳の誕生日から一日一冊読む習慣を自分に課し、今日にいたるまでその日課が途切れたことがないというから一体どういう生活しているのだ?  
 名ルポライターで名高い鎌田慧のルポ批判。北朝鮮に対する嫌悪、「少年は無条件に善である」を標榜する児童文学家灰谷健次郎への批判、鎌田慧のルポは読んだことがなく判断できないが、北朝鮮や灰谷批判は共鳴できる。  
 中学生の弟を何の理由もなく同級生に殺され著者だけに少年法の解説本には〈一ページ一行たりとも被害者がでてこない〉と論破するところは悲痛な思いがした。

 追記  
 「ブレンダと呼ばれた少年」の項でなぜアメリカでは幼児に包皮切除手術をするのだろうか、と疑問を書いたが本書で氷解した。迷著に上げられた、かの「スポック博士の育児書」でペニス割礼を推奨しているのだそうな。


2001/03/07

 「敢闘言 さらば偽善者たち」(日垣隆/太田出版)  

 敢闘言とは何ぞや。  
 著者は1993年4月から99年4月までの6年間にわたって「週刊エコノミスト」の巻頭コラム(巻頭言)を担当していた。そのコラムをまとめたものが本書である。世の中にはびこるさまざまな偽善者たち、偽善的行為、あるいは著者自身の回りで起きた納得できない出来事についての告発、問題提起。普通なら言ってもしょうがない、我慢してしまうところを〈敢えて闘う〉こと、また連載を300回続けたことに対する敢闘賞の意味合いも含めて書名をつけたという。  
 確かに毎週650字弱で〈事件を解説し問題点を探り自分の意見を述べる〉という行為は生半可の知識・体力ではできないことだ。当初この文字数にとまどったのか、読み直さないと何がいいたいのかよくわからない内容だったが、回を重ねるにつれ徐々に迫力が増してくる。引き込まれ納得させられるのは綿密な取材、緻密な分析力による。所収されている2つのルポ「ダイオキシン猛毒説の虚構」「裁かれぬ殺人者たち」を読めば明白である。  

 さまざま問題提起の中で著者自身の人生に触れる文章がでてくる。読むにつれて、いったい日垣隆って何者なの?の疑問が頭の中をうずまいてくる。ある時はトラックの運転手、またある時は書店員はたまた配送員、と思っていたらセールスマン、編集者なんてのもある。いったいいくつの職業を経験しているのだ?
 自宅は長野。子どもたちの学校行事にはけっこう顔を出しているらしい。仕事場は自宅と東京にある。事件を追って裁判の傍聴のため裁判所に足繁く通う。ルポを書くため資料を漁る。もちろん1日1冊本を読んでいるのだろう。いったいどうゆう生活を送っているのだ?  

 「週刊エコノミスト」連載時、巻末コラムを佐高信が担当していて、両コラムで第一次〈日垣VS佐高〉論争が勃発したというのだからさぞ見物だったろう。  
 「諸君!」掲載の「佐高信とは何者か」、最新著作「偽善系」、そして本書で僕自身の佐高信への信頼度は一気に落ちてしまった。月刊「佐高」本を楽しめなくなってしまった弊害は大きいが、仕方ない。第二次論争が始まっているのかどうか知らないけれど、もし佐高信が日垣批判をするとすれば、本書で家族(特に女優志願の娘がオーディションに受かってタレントの卵になったこと)を語っているところだろうか。原稿料とって親バカぶりを見せつけるなとかなんとか。  

 著者の論に従い、本書で印象深かった部分を書き記す。  
 刑法39条を廃止せよ。  
 殺人鬼の人権は人命より重いらしい。  
 10年間夢を持つ続けたら必ず叶う。  

 新刊本の実売部数を当てる能力には驚くばかり。とにかく内容の濃さに圧倒された。
 

2001/06/05

 「偽善系Ⅱ 正義の味方にご用心!」(日垣隆/文藝春秋)  

 「偽善系 やつらはへんだ!」の続刊。  
 本書の圧巻はなんといっても第4章〈辛口評論家の正体〉だろう。
 昨年月刊誌「諸君!」に掲載されたこの文章(掲載時のタイトルは〈佐高信とは何者か〉)は辛口評論家として雑誌、TVで活躍する佐高信の本性を白日の下にさらけだした。  
 他人を批判することはあるが批判されることがないこの評論家の存在を知ったのはビックコミックオリジナルに連載されていた「ラストニュース」だった。  
 原作・猪瀬直樹/画・弘兼憲史コンビによるこのマンガは1日の終わりに既報のニュースを検証する新しい報道番組「ラストニュース」のスタッフ、キャスターを主人公にして、さまざまな事件の真相を追求しながら報道とは何かを問う、当時としてはかなり斬新な内容だった。
 ある回にいつもとは少々ニュアンスが違う、辛口で人気の評論家の実態を告発し、罵倒するエピソードがあった。この評論家のモデルが佐高信だと知り、いったいどんな本を書いているのだろうと図書館で彼の著作を手にとったのが彼の著作を読み出すきっかけだった。(後で知ることになるのだが、猪瀬直樹と弘兼憲史は佐高信に批判される常連者であった。このエピソードは彼らの意趣返しだったのだろう)何冊か読むうち猪瀬・弘兼の批判とは裏腹に佐高信の著作のすっかりファンになってしまった。かなりの本を読んだと思う。
 そのうち書いてある文章に批判的になっている自分に気がついた。何度も同じ人を攻撃する態度、同じ内容の文章を書いたり、他人の文章を引用するだけの執筆姿勢などなど……。
 佐高信の批判にいつもはダンマリをきめこんでいた猪瀬直樹が自身のコラムをつかって天敵に反論、佐高信の文章は〈ガス抜きの働きしかない〉という指摘に今まで感じていたモヤモヤが晴れた気がした。  

 猪瀬直樹の佐高信批判をもっと具体的に痛烈にあるいは詳細に記したのが「諸君!」に掲載された〈佐高信とは何者か〉である。痛快だった。無数に上梓された佐高信の著作、雑誌記者時代の文章をも俎上にして辛口評論の矛盾点、そのいい加減さ、デタラメさを検証していく。見事な論文のあまりのおもしろさにふと時間が空くと「諸君!」をとりだしてはこの部分だけ読んでいた。
 もう何度も読んでいる。にもかかわらず本書を借りてきてまっさきに読んだのが第4章だった。それから第1章からもう一回。多くの佐高本を読んでいる人はこの文章が指摘していることが嘘でも誇張でもないことを実感できるだろう。少しくらい擁護したくてもできないのがつらい。これを境に佐高信の権威は地に落ちただろうと思った。僕自身、以後佐高本を読む気がなくなってしまったし。不幸なことである。  
 「諸君!」が発売されてから佐高信がどう反論したのか知りたい。メディアの反応も僕が知る限りなかった。普通だったらひとつバッシングが始まると連鎖反応を起こすはずなのに。それが不思議。著者は精細さがなくなったとあとがきに綴っているのだが……。  

 その他、第一章〈心神喪失を廃止せよ〉第二章〈野放しにされてきた再犯〉それから第五章〈「田中知事」誕生前夜〉が興味深い。一、二章は著者のライフワークみたいなもの。「刑法39条を廃止せよ」という著者の考えに共鳴する。精神障害だろうが、心神喪失だろうが罪は罪である。そういう点において人権派と呼ばれる人たちに与することはできない。  
 第五章は田中知事が誕生する以前の県知事の独裁、長野オリンピックの裏が暴露されていて、目が覚める思いがした。




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Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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