2017/06/01

 「美しい星」(TOHOシネマズ日本橋)

 「美しい星」が映画化されると知ってから楽しみにしていた。
 「美しい星」は、大学時代に三島由紀夫にハマるきっかけとなった小説である。
 予備校のときに読んだ。友人に借りた。
 「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」に感想がある。
 この小説は、自身の日記を基にしているが、当然、人物造形やエピソードには創作がある。とはいえ、本や映画の感想はそのまま使っている。てにをはの間違いやよりわかりやすい表現に訂正している箇所もあるけれど。

     ▽
1978/05/07
 (略)
 借りたのは安部公房の『密会』と三島由紀夫の『美しい星』。
 『密会』はちっとも意味がわからず面白くなかったが、『美しい星』の世界にはすっかり酔いしれてしまった。この小説はSFではないがUFOや宇宙人が登場するという話を聞いて興味を持ったのである。完璧なまでもの文章による〈三島芸術論〉と言おうか。
     △

 三島由紀夫の小説を初めて読んだのは高校生のとき。「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」にこんな風に書いている。

     ▽
1978/06/22
 (略)
 高校時代に『午後の曳航』が海外で映画化された。日本文学がどう翻訳されて映像化されたのか知りたくて小説と『キネマ旬報』に掲載されたシナリオを読み比べたことがある。小説は登場する少年がどうも好きになれなくて物語も期待したほどではなかった。映画は観なかった。
 (略)
     △

 今、「美しい星」は三島由紀夫の異色SF小説と紹介されている。当時、70年代はそうではなかった。日記にも書いているが、SF的趣向による純文学というような位置づけで、〈SFではない〉と新潮文庫が発行する文庫目録の解説にあったと記憶している。
 何かの本でわかったのだが、60年代になってSF小説が定着してくると、純文学の書き手がこの新しいジャンルに興味を示し、その手の小説を発表するというようなことがあった。そうしたある種のブームの中、安部公房が「第四間氷期」を、三島由紀夫が「美しい星」を書いたということだろう。

 さて、「美しい星」。どんな内容だったか、ほとんど忘却の彼方である。
 とはいえ、映画化にあたって、小説世界を大胆に変更していることはわかる。

 原作の時代(1960年代初期)を現代に変更したことにより、核兵器による人類滅亡の不安という問題から、地球の温暖化といった環境問題に論議の論点をすり替えているということだけではない。ストーリーの趣旨そのものを大幅に変えているのである。
 小説において、主人公家族は実際に宇宙人だった。UFOも本当にでてくる。
 映画は、そこを一捻りして世界観を構築している。
 父親はある日火星人であることを覚醒する。娘は金星人、息子は水星人であることを覚醒するのだが、ほんとうのところ、それは彼らの妄想なのではないかと思わせる作りにもなっているのだ。

 気象予報士(お天気キャスター)の父親(リリー・フランキー)は、不倫と仕事の疲れから一種の躁状態になってしまったとは考えられないか。躁になるととんでもない妄想をするようになるのは、自分の経験でわかっている。
 フリーターの息子(亀梨和也)は、謎の男(佐々木蔵之助)に何らかの意識操作された(催眠術にかけられた)とか。
 大学生の娘(橋本愛)の、金星人としての覚醒についてははっきりしている。
 娘はやはり金星人を自称する青年と運命的な出会いをして、一緒に海辺でUFOを呼ぶ儀式を行う。やがて上空には2機のUFOらしき光が現れて、それまでの展開に懐疑的だった僕も本当なんだと思ったのだが、これは青年による完全なるイカサマだった。
 唯一地球人の母親(中嶋朋子)は、孤独を紛らわすかのように、何やら怪しい水の販売にのめりこんでいく。

 前半はリリー・フランキーの怪演が笑わせる。ニュース番組内の自分が担当する天気予報コーナーで、環境問題を取り上げ次第に暴走していく様に。あの決めのポーズがたまらない。
 娘が妊娠したあたりから様相が変わってくる。

 以下ネタバレ。

 やがて父親が癌であることが判明。
 入院した父親を見舞う娘。父親は自分が調査してわかった妊娠にまつわる真実を告げる。娘も父親に癌で余命いくばくもないことを告げる。
 このシーンに涙があふれた。まったく個人的なことだと思うが(その理由は後述する)。
 ここから、実はこの映画、父親の癌が発見されたことを契機にバラバラになった家族の絆が再生する話だったんだと気がつく。その昔、「それぞれの秋」で描かれた普遍的な物語が21世紀に甦ったというべきか。その模様がSF的趣向(父親を火星に帰還させる)で描かれるわけだ。
 一気呵成の展開。ラストまで涙が乾くことがなかった。

 ラスト、UFO内の父親(火星人)が名残惜しそうに地上を見下ろす。そこには父親を帰還させるべく奮闘する父親を含めた家族4人姿が。UFO内のコンピューター(?)が父親(火星人)に尋ねる。
「ワスレモノデスカ?」
 無言の父親(火星人)。
 また声が尋ねる。「ワスレモノデスカ?」
 切なさでまたまた涙があふれた。
 僕にとって忘れられない映画になった。

 ところで火星人の父親は本当に火星に帰ったのだろうか?
 このシーンだって、こう考えることもできるのだ。
 力尽きた父親が昇天する際に見たつかのまの夢なのでは、と。


 父親が娘に真実を告げられるシーン。
 実は、5年前、同じ経験をしている。映画とは逆パターンであるが。
 映画の橋本愛は、真実を告げてから「お父さんごめんなさい」と泣きながら父親の胸に飛び込んだ。
 僕の場合、まず娘の半泣き状態での「お父さん、ごめんなさい」があった。「携帯(のメール)を無断で見てしまったの」
 それから、真顔になって、僕が家族に伏せていた隠し事に対する容赦ない追求が続いた。隣には何も知らないかみさんがいて呆然となっていた。そして家庭の崩壊ーー

 僕の涙の意味は複雑だ。
 映画「美しい星」はある意味、僕の理想(願い)を具現化してくれたのである。


 【おまけ】

 橋本愛が「私は金星人」と言ったことで、初めて気がついた。
 「三大怪獣 地球最大の決戦」のシナリオは「美しい星」の影響があるのではないか?
 調べてみると小説「美しい星」が発表されたのは1962年。映画「三大怪獣 地球最大の決戦」の公開は1964年。あながち間違いではないだろう。




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プロフィール

kei

Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町のブックカフェ二十世紀で働いています。さまざまなイベントを企画、開催していますので、興味あれば一度覗いてみてください。

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