承前

 K監督から携帯に電話があったのが先々週だった。最初は7月26日に予定されている「ウルトラセブン」上映イベントに関することかと思った。
 K監督が申し訳なさそうに言う。
 某国営放送の、某番組の再現フィルムの撮影をするんだけど、予算がないので、エキストラ(の一人)で出演してもらえないだろうか。ちなみに、実際はデジタル撮影だが、便宜上「再現フィルム」としておく。
 撮影は11日の月曜日。場所は埼玉県入間市の某施設。

 月曜は仕事だ。とはいえ、K監督の頼みなら断れない。いや、撮影自体に興味があるので、なんとか参加したい。集合は15時だというから、13時ごろに店を早退すればいい。月曜はそんなに混まないし、一緒に働くW嬢一人にまかせても大丈夫だろう。W嬢の了解も得た。スケジュール帳にメモもしたら、11日は火曜日だということがわかった。K監督に確認すると、撮影は火曜日だという。
 だったら、個人的な定休日なので、気兼ねなく参加できる。
「その日は休みなので、午前中から参加して撮影を見学してもいいですか?」
 K監督にお願いした。
「いいけど、なら、見学ではなく、撮影の手伝いしてくださいよ」
「了解でーす」
 スタッフは現地に9時集合ということで、僕も同じ時間に合流した。

 著名人(主に芸能人)の家族の歴史を描くこの番組。今回のゲストは、世界的な超スーパーグループのメンバーと結婚、グループを解散させた張本人として、ファンには恨まれているあの女性(と息子さん)。再現フィルムは彼女の祖父が主人公で、祖父と若かりしころの父親の関係が描かれる。
 
 撮影の手伝いは記録だった。スクリプターと呼ばれるものだ。まあ、本当のスクリプターは、カットごとに事細かくチェックしてノートに記載するのだろうが、僕の場合は、カットナンバーとテイク数、OKかNGか、NGならその理由、を書けばいいもの。

 撮影は集合後、すぐに始まった。
 ロケセットとして使用されている建物は、旧石川組製糸西洋館。かつての製紙会社の迎賓館は大正10年に建てられた由緒ある建築物で、今は一般公開されている。この建物を終日借りての撮影だ。
 この建物のいくつかの部屋を、主人公が留学した米国の大学の教室、社会人になってからの演説をするホール、会社の執務室、会議室に見立てて、撮っていく。
 主要な人物は、プロの役者さんが演じているのだが、その他は監督の友人、知人が呼ばれて扮している。
 皆さん、用意された衣装を着るとそれらしく見えるから不思議なものだ。エキストラは外部の人だけではなく、スタッフも演じている。当然のことだろう。
 驚いたのは助監督のIさんである。現場で動き回るIさんは、Tシャツに短パン姿の、夏の撮影現場で目にするスタッフのあるべき恰好。顔の下半分は白い髭に覆われている。このIさんが内トラとしてスーツに着替えたら、見違えるほど立派な紳士に変身してしまったのだ。
「Iさん、すごい! 浮浪者から大学教授まで演じられますよ」
 叫ばすにはいられなかった。
 
 撮影は、監督自身が描いた絵コンテに沿って、ほぼ順撮りで行われる。
 再現フィルムのシナリオ(台本)はどうなっているのだろう?
 スタッフが使用しているのは絵コンテのほかに、撮影するカット(NO.や登場人物が記されている)をとりまとめた一覧表があるが、番組そのものの台本もあった。台本というか、スクリプトみたいなものだ。横書きでびっちり書き込まれている。
 スタジオにおけるゲストの対応が書かれていて、その会話の中で、会話にでてくる話題に沿って再現フィルムが挿入される。

 昼食後、僕がエキストラで出演するカットの撮影になった。主人公の会社の会議のシーン。幹部の一人だ。
 最初に衣装さんから名前を呼ばれ、着替えようとしたら、K監督からその前に撮影するカットの記録について指示があった。
 そんなわけで、着替えは後回し。一番最後になった。

 準備万端、さあ撮影となった。ところが僕自身の着替えがまだだった。あわててスーツを着たのだがネクタイが締められない。会社辞めてからネクタイを締めたことないから、締め方忘れた。あたふたしていたら、カメラの角度ではネクタイは見えないから締めなくていい、上着だけ着て! となった。
 主人公を中心に3人がメインになるので、その他大勢(といっても4人だけど)は写っていれば御の字ということで。カメラ位置を変えて3カット撮影。
 撮影終えてから、ネクタイを締めて記念撮影する。

「出番終わったから、帰ってもいいけど……」
 K監督が訊いてきた。
 スタッフとして参加しているのだから「はい、そうですか」と帰れるわけがない。
 終了までお手伝いします!

 本当なら撮影は夜7時を過ぎる予定だった。夕食の弁当も用意されていたらしいから。
 ところが、予想以上に撮影が順調で5時に終わってしまった。
 そんなわけで5時過ぎには帰宅の途についた次第。ボランティアのつもりだったから、帰り際に寸志(交通費)をいただいて喜んだ。その額は来るときにチャージしたのと同じ。ラッキーってなもんで、赤羽の居酒屋にしけこんだ。そこで気がついた。「番組の放送日、聞くの忘れた!」



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旧石川組製糸西洋館 全景

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建物は国登録有形文化財です

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撮影準備中 後姿がK監督
会議のシーンはこの部屋が使われています

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再現フィルムのラストはこの部屋を主人公の執務室として撮影されました

20170711
この衣装で会議のシーンに出演しました
たぶん、ほとんど写っていないと思います




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Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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