1998/03/13

 「ブラス!」(シネ・ラ・セット)

 単館ロードショーながら静かな人気を呼んでいるイギリス映画。
 なるほど平日だというのに僕らが観た2回目の上映後ロビーでは次のお客さんが多数列を作っていた。派手な宣伝はしていないのだから、口コミによる人気だろう。
 日頃、アメリカ・ハリウッド製の映画に慣れ親しんでいる身としては映像のタッチ、カメラワーク、台詞(イギリス英語)にちょっとした違和感を覚えた。しかしこれも映画なのである。スター主演の大作映画だけが映画じゃない。小ぶりのしみじみする映画を暗闇で観るのもまたおつなものである。

 主演のピート・ポスルスウェイトの役者ぶりを堪能した。「ユージュアル・サスペクツ」のミスターコバヤシ役では全身から醸し出す異様な雰囲気に圧倒された。最初に登場した時は「何者だ、こいつ!」とばかり、この人の顔だけが印象に残った。
 「ロストワールド ジュラシックパーク」の恐竜狩りに命をかけるハンター役では、ティラノザウルスレックスを目の前にしても少しも動揺せずにライフルをかまえる、プロフェッショナルな猛者ぶりを好演していた。
 そして今回のブラスバンドの指揮者役。同じ容姿なのにこの映画では毎日音楽のことしか考えないちょっと無骨な親父に見えるのだから不思議。まさに役者!

 ストーリーはこの指揮者と市民ブラスバンドに中途から入ってくる紅一点の女性(実は石炭会社側の人間)とバンドの若い男性(二枚目)との恋を中心に展開するのかと思っていた。
 実際は指揮者の息子が真の主人公ともいえる存在で、彼の家族の崩壊、生活をとるか音楽をとるかの苦悩、他のメンバーと指揮者の仲介等々の悪戦苦闘ぶりが切実に描かれていた。
 失業するかどうかでバンドのメンバーが練習もままならない状態のまま強豪が多数集まるコンクールで優勝してしまうのはどうかと思うけど、まあいいや。
 夜、ピートが入院する病院の庭でバンドの連中が最後の演奏をするシーン、ラスト、ロンドンから帰るバスの中で皆で演奏するシーンが涙を誘った。
  
     ◇
 
1998/05/05

 「スターシップトゥルーパーズ」(日比谷映画)

 「週刊文春」の映画評でこの映画を取り上げていた。一部の人以外は黒星(観たら損するぞ)をつけていて、白星二つ(観る価値あり)をつけている人でさえ、その好戦的内容に文句をつけていた。実に評判が悪いのである。
 原作であるハイラインの「宇宙の英雄」も発表当時は全体主義だと批判されたという。

 まあ、ストーリー云々よりフィル・ティペット指揮するところの昆虫軍団の特撮がお目当てで観に行ったわけだが、地球連邦軍と昆虫軍団の戦いの残酷描写はすごい。腕や足が吹き飛ばされるのは当たり前、首はちょん切られるわ、頭がかちわられて脳髄は飛び出るわ、そのものずばりをなんの容赦もなく劇画調に描きだす。敵の昆虫も連邦軍のマシンガン攻撃でぐじゃぐじゃになる。スプラッター嫌い、昆虫嫌いの女性にはたまったもんじゃないだろう。(にもかかわらず親子連れやカップルで観に来る連中の神経はどうなっているの?)
 でも連邦軍を米軍に、敵の昆虫軍団をベトコンにしたらどうなるのか? かつてのアメリカの愚行をSF仕立てにしてリアルに描写しただけではないか。
 内容は確かに軍事力賛美である。地球連邦軍の正当性をアピールするTVニュースを随所に挿入して(まさしく「ロボコップ」のノリ)、主人公の若者たちが軍のトップとして活躍しだすまでを描いていてはいるが、それをそのまま素直には受け取れない。
 ポール・バーホーベン監督はそんな世界を戯画化してシニカルに見つめているように思う。
 内容は好戦、気分は厭戦・・・だ。

     ◇

 「エイリアン4」(日劇プラザ)

 封印した映画というのがある。
 僕が勝手にそう思っているだけで他人に強制はしないけれど、『エイリアン3』がまさしくそれで、僕の記憶には「エイリアン3」という映画は存在しない。
 「エイリアン2」はすごい映画だった。前作のストーリー展開を踏襲しながら、テイストの全く違う内容(ゴシックホラー→スペクタクルアクション)にしただけでなく、母性愛を全面的押し出したテーマがストーリーに合致し、何より観る者に安堵と静寂の余韻を与えたハッピーエンドが単なるSF映画を後世に残る感動作にしたのだった。
 にもかかわらずその続編である「エイリアン3」は前作の感動をあっさりと否定しまったのである。
 リプリーが命懸けで守った少女をいとも簡単に冒頭で殺してしまったのだ。エイリアンファンへの冒涜である。
 「2」のラストで地球への帰還の途に就いた少女、ロボット、そして傷ついた兵士は絶対に地球にもどさなければならなかったと今でも信じている。
 一度帰還した後、リプリーが新たな旅にでて「エイリアン3」の物語が始まったとして何らおかしくはない。
 3人を殺してしまったスタッフの真意がどこにあったのか理解に苦しむ。

 さて、「エイリアン4」はタッチが「エイリアン」に似ていてラストも希望にあふれたもので安心した。
 リプリーのクローニングに失敗した実験物がずらっと並んでいるところが一番の衝撃だった。
 エイリアン研究に挑む人間の愚かさをイヤというほど見せつけてくれた。




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Author:kei
新井啓介
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まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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