1998/05/07

 「トキワ荘の青春」(ビデオ)

 市川準監督の「トキワ荘の青春」がテアトル新宿で単館ロードショーされたとき、ぜがひでも観たいと思った。
 僕のマンガ人生は石森章太郎、藤子不二雄、赤塚不二夫といったトキワ荘出身の漫画家たちの作品から始まった。そんな彼ら、若き漫画家たちの梁山泊となったトキワ荘の伝説は彼らの自伝的マンガや書籍等で子どものころから親しんできた。
 何しろトキワ荘関係の書籍を収集するのが趣味の一つなのだ。
 藤子不二雄の「まんが道」がNHKで連続ドラマ化され、評判を呼んだ際、トキワ荘の物語を映画にできないものか、と夢想したりした。
 だから市川監督が「トキワ荘の青春」を撮ると知ったとき、かなり期待した。
 忙しさにかまけて劇場に足を運ばず、ビデオになってもなかなか借りようとしなかった怠惰な自分が恥ずかしい。
 「トキワ荘の青春」は青春映画の傑作だった。
 これはビデオなんかではなくて映画館の暗闇の中で静かにじっくりと鑑賞すべき作品である。

 いわゆる演技というものをことごとく排除し、ドラマチックな展開を拒否した演出と透明感あふれるドキュメントタッチのカメラワークがうまくマッチしていた。
 前半はトキワ荘に集まってきた漫画家志望の若者たちの生活をスケッチ風に積み重ねていく。
 ところどころに挿入される当時の写真が効果的で、昭和30年代初期の東京を鮮やかに描きだされていた。
 プロの漫画家になろうと切磋琢磨する若者たちの群像ドラマとして、マンガに詳しくない観客でも充分楽しめるが、若かりしころの彼らをまがりなりにも(写真等で)知っていると、役者たちが本当によく似ていることに驚く。
 つのだじろう、我孫子素雄、藤本弘なんてまさにそのまんまって感じ。
 主役の本木雅弘(寺田ヒロオ役)以外は一般的にはほとんど無名の役者たちだが、赤塚不二夫役の大森嘉之、森安直哉役の古田新太が光る。
 後半はこの二人がクローズアップされ、漫画家として成功する者、挫折するものの明暗を好演していた。
 編集者役のきたろうが実にいい味だしている。
 
 自分の理想とするマンガを描けない現状への怒り、悲しみを仲間たちと相撲をとりながら、何気なく涙をぬぐう寺田のしぐさに感じて目頭が熱くなった。

     ◇

1998/06/16

 「レインメーカー」(銀座ガスホール 試写会)

 ジョン・グリシャムの小説は出版するたびに次々と映画化され、その都度話題になっているものの、映画自体の一般的評価はそれほどのものでもないという気がする。
 「ザ・ファーム/法律事務所」はトム・クルーズ、「ペリカン文書」はジュリア・ロバーツという人気スターを起用してそれなりに評判を呼んだけれど、内容はというと原作のダイジェスト版といった感じだったのではないだろうか。(「法律事務所/ザ・ファーム」については映画も観ていないし原作もまだ読んでいないので何とも言えないが「ペリカン文書」は圧倒的に原作の方が面白かった)
 第3弾として公開された「依頼人」は「グリシャムの映画化作品の中で一番の出来」と前評判も高かったことからすごく期待して観に行ったらそれほどのものでもなかった(まあ、水準作といったところか)。
 そんなわけですでに原作を読んでいた「評決のとき」は全く観る気もしなかった。

 さて、最新作の「レインメーカー」はあのコッポラの監督作である。主演は新鋭マット・デイモン、共演がジョン・ボイド、ダニー・デビード、ロイ・シェイダーと豪華な顔ぶれで、しかも法廷ドラマだという。
 これはもう面白さは保証されたようなもの、胸ワクワクで観たのだが、また肩すかしをくったようだ。
 主人公である弁護士の卵が簡単に法律事務所に就職したり、資格を取得したりとあっけないオープニングで興をそいだ。悪徳弁護士のボスと純粋な主人公との間に仕事を進めていく上で何か葛藤でもあるのかと思ったらそれもない。
 一番期待していた法廷場面でも、息詰まるような、あるいはあっというような展開は見られなかった。
 何より不思議だったのは主人公が暴力亭主から依頼人の奥さんを救おうとして、逆に亭主をバットで殴り倒してしまうところ。結局奥さんが殺してしまい逮捕されて不起訴になるけれど、直接の原因をつくったにもかかわらす、その場から逃避し、奥さんに罪をかぶってもらったのに、主人公にそれに対する後悔とか動揺がないことだった。
 マット・デイモンのうぶな新米弁護士ははまり役で、相棒のダニーはうまいし、ミッキー・ロークの悪徳弁護士ぶりをもっと見たいと思わせるのに、全体の印象としてはまあまあといったところか。
 音楽の良さが特筆できる。

     ◇

1998/07/01

 「ディープ・インパクト」(丸の内ルーブル)

 この映画の予告編を初めて見た時、藤子・F・不二雄の短編マンガ(確かタイトルは「方舟はいっぱい」だったと思う)を思い出した。
 彗星の衝突(実際にはかする程度なのだが)、予測される地球規模の大災害、政府が秘密裏に推進するノアの方舟政策、TVキャスターによるスクープ、その暴露、避難できる国民の選出、選に漏れた者たちの嘆き、苦悩。暴動、混乱等々、藤子のマンガはその後の大惨事を暗示するところで終わるのだが、「ディープ・インパクト」はその後の大災害(大津波による首都崩壊)のSFXがウリである。
 ミミ・レダー監督は一見その作風に女性を感じさせない。前作「ピースメーカー」はアクション巨編、今回はSFパニック、何も知らなければ、ストーリー、映像ともに、その印象は堂々たる男性ベテラン監督の仕事ぶりではないか。
 しかし本編を観れば、ある部分で女性らしい情感を見せつけてくれる。
 前作は敵役のアメリカ合衆国に対する復讐する動機に女性の視点を感じ、そこが新鮮だったのであるが、今回はクライマックスである大津波襲来前のヒロインと父親の和解するシークエンスにそれを見た。
 ミミ・レダー監督の演出力は「ER」で一目瞭然ではあるがとにかく生半可のものではない(さすがスピルバーグに見込まれただけのことはある)。
 前半のメサイヤによる彗星爆破シーンのサスペンスは息がつけないほど興奮した。
 藤子マンガの印象からあくまでも秘密裏にノアの方舟政策を進めようとする政府と、それを阻止し、国民に真実を発表しようとするTV局との丁々発止のやりとりを描くサスペンスタッチの物語だと勝手に考えていたら、全然違った。
 モーガン・フリーマン扮する大統領は堂々と職務をこなす人物であった。
 「ID4」に続き、この映画でも自己犠牲による地球救助が描かれる。こういう展開って昔は日本の専売特許だったのに、アメリカ人の好みが変わってきたのだろうか。
 核弾頭による彗星爆破だけど、地球への放射能汚染の心配はないのだろうか?




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Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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