1999/06/22

 「39 刑法三十九条」 (新宿ピカデリー)

 こちらが映画に対してイメージしていたものををいい意味で裏切られた。
 ヒロイン香深(カフカ!)役の鈴木京香が少々神経を病んでいる女性で、彼女のまわりの人たち(師匠である大学教授、母親)もどこか変であるところが、いかにも現代を反映していると見た。
 正義感ぶるでなく、何事においても自信のない素振り。精神異常者と精神鑑定者は紙一重であると納得がいくのである。

 健常者が刑法39条を逆手にとって精神異常を偽り無罪を勝ち取ろうとする話は昔松本清張の短編で読んだことがある。小説の主人公は警察側の策略にひっかかり最後の最後で敗れてしまうのだが、この映画も基本プロットは同じだ。決定的に違うのは、この映画では刑法39条の存在意義そのものを問うていることだろう。

 一人の精神異常者に妹を惨殺された男。精神異常者は罪に問われることなく、精神科を退院した後、一般人として、結婚して幸せな家庭を築いている。男の方は妹を殺された悲しみとその原因を作った罪の意識を恋人と共有し、かつての犯罪者への復讐とその完全犯罪にかりたてるのだ。

 法廷シーンの合間に挿入されるすべての原因となった事件の回想シーン。少女の惨殺遺体の全身が映し出されていてショックだった。「トレインスポッティング」の赤ちゃんの死体同様、これまでの常識として観客に暗示させるだけだった死体をリアルに描写することも現代を象徴しているのか。

 事件の真相を回想という形で観客にわからせてしまったのはどうしてだろうか。あれは劇中の進行同様にドンデン返しにした方がサイコミステリとしてインパクトが大きかったように感じる。真相が解明され、ラストに淡淡と回想シーンが流れてもよかったのでは?

 堤真一の二重人格者ぶり、その演技力に圧倒された。役者冥利につきるだろう。その他出演者たちも熱演とは正反対の演技ぶりで好感が持てた。




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Author:kei
新井啓介
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まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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