1999/12/09

 「赤ひげ」(ビデオ)

 「赤ひげ」が黒澤映画の集大成ということは知っていた。陰りをみせはじめた日本映画界に活を入れるべく、渾身を込めて製作した映画である。ビデオ化されてから観なければいけないと思いつつ、結局今まで借りなかった。ビデオが「七人の侍」と同じく上下2巻組。いわゆる娯楽巨編でなく、黒澤のヒューマニズムが色濃く表れているというので、今まで敬遠していたのだ。
 土屋嘉男の「クロサワさーん!」を読んで、減量に苦しんでいる痩せた土屋嘉男を観たくてやっとビデオを借りてきたのだが、ちょうど「赤ひげ」の音楽を担当した作曲家・佐藤勝の訃報にふれ、追悼を兼ねた鑑賞になった。

 いくつもの瓦屋根をアップで撮ったタイトルバックにテーマ曲が流れ、途中から売子の声がダブってくるところで、もう「赤ひげ」の世界に引き込まれてしまった。
 ストーリー、テーマを云々するよりも、まずその美術(セット)に惚れ惚れしてしまう。
 養生所の壁や廊下がいかにも使い古されたといった作りで、それを見ているだけで江戸の情緒に触れた思いがする。小道具一つひとつを含めてセット然したものが全く感じられず、「七人の侍」の経験が活かされている。あるいは小石川近辺の通りの土埃。これなんか「用心棒」そのものだ。

 登場する人物もそれぞれ実にリアルだ。ちょんまげもかつらをつけている感じがしないところがいい。養生所の賄婦たちの小汚さ、猥雑さなんていかにもって感じで、女優が演じている感じがしない。
 佐八のエピソードでは感情の表現にうまく風鈴の音が使われている。回想シーンの大地震で家屋が倒壊するショットはスペクタクル映画級の大迫力。狂女に襲われる主人公の緊迫したシーンには息を飲んだ。
 しかし台詞に関してはあくまでも現代語なのだ。江戸末期に「膵臓癌」なんて名称があったのだろうか?仮に使っていたとして腹部を触ったりするだけで、癌が発見できるものか?

 圧巻は後半のおとよと長坊のエピソードである。養生所に引き取られてから病気が完治するまでの間おとよの目にライトがあてられ、暗闇の中でのその眼の輝きが異様な怖さを際立たせた。また図師佳孝の天才子役ぶりが堪能できる。僕にとっては日本テレビの「飛び出せ!青春」の落ちこぼれ高校生の印象が強いが、黒澤映画「どですかでん」の主人公の前にこんな印象深い役をやっていたなんて驚きだ。原作では長坊は死んでしまうが、黒澤監督は殺さなかった。映画はそうでなくてはと思う。現実だけを見せられても辟易するだけだ。
 三船敏郎の赤ひげをなでるしぐさがいい。「七人の侍」と同じく年に一度くらいの割合で鑑賞する映画になりそうだ。

     ◇

1999/12/23

 「御法度」(丸の内プラゼール)

 何よりキャスティングに大島渚の才能を感じた。主要キャストはもちろんだが、花魁に神田うのを起用し、一言も台詞をしゃべらせないところなんてさすがではないか。
 坂本龍一のテーマ曲は美しい調べでとても印象に残る。だからこそここぞというところで使用すればいいのに、冒頭から何度も流れて、くどすぎる。
 ナレーション(佐藤慶)、サイレント映画風字幕による状況説明、土方(ビートたけし)の独白、映像と台詞以外になぜこうも物語を語らせたがるのか、理解に苦しむ。字幕は無声映画の頃の書体で味があり、効果的に使用されているので、これだけで〝語り〟は十分なはず。特に土方の独白は、それこそ表情やしぐさで表現すべきであり、何も言葉で説明することはない。
(若い人にも観てもらいたいとの監督の要望で、わかりやすい演出をしたのか、それとも原作がそもそもそういう語りになっているのか)
 前半、そういう思いがあって、少々違和感を抱いたが、全体の印象にしたら些細なことだ。
 剣道の稽古時の打ち合いの激しさ、死体の胸から腹にかけてざっくり裂けた刀傷を見せることにより、真剣の重厚さ、怖さが観客に印象づけさせる。TV時代劇によくある竹光の刀ではない本物の斬りあいが音と所作で堪能できた。
 クライマックスの幻想シーンが素晴らしい。舞台がセットなのかロケなのかわからない。まさしく幻想。
 噂どおりトミーズ雅がいい。坂上二郎の口跡も聞いていて惚れ惚れする。
 しかし何と言ってもラスト、開の桜の木を一刀で斬るビートたけしがかっこいいし、その様が美しい。




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Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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