2000/03/07

 「グリーンマイル」(試写会 イイノホール)

 イイノホールの試写会に行く。立見が出るほどの盛況ぶりだ。
 S・キング原作の映画化作品はデビュー作の「キャリー」以外、ことホラーに関しては成功したものがなかった。
 唯一キューブリック監督の「シャイニング」の評価が高いが、これはあくまでキューブリックの映像テクニックが魅力の作品である、ということが原作を読んでみるとわかる。キューブリックは単に素材としか原作をみていないのだ。かなり評判のよかった「ミザリー」も恐怖のインパクトは原作と比べて数段落ちる。
 これがホラーでなく、短編だと「スタンド・バイ・ミー」という青春映画の傑作があるし、僕は未見だが数年前には多数の支持を受けた「ショー・シャンクの空に」がある。
 圧倒的筆力と映画的な構成で描かれるキングの長編は映画化しても、単に小説のビジュアル付きダイジェストって感じになって、その本当の魅力が活かせないからだと僕は思っている。(それほどキングを読んでいるわけで偉そうなことは言えないし、これはどんな長編小説にもあてはまるのだけど)

 文庫で6冊にもなる大長編「グリーンマイル」(未読)を「ショー・シャンクの空に」の監督、フランク・ダラボンがどう映像化したのか非常に興味があった。トム・ハンクス主演というのも期待が大きかった。

 上映時間3時間8分。少しもだれるところがなかった。大長編小説を映画化した場合、たとえよくできていたとしても人間関係が不明確だったり、描きたらない部分があったりするものだが、そういうところは見当たらなかった。フランク・ダラボンの脚色力の非凡さを見せつけられた(だから3時間を超えているのであろうが)。
 しいて不満をいえば、刑務所長と主人公の信頼関係、脳腫瘍に侵された所長夫人と主人公(および看守仲間)の交流、病状が悪化していく夫人を看病する所長の苦悩等がもっと克明に描けていればという点だろうか。そうすれば夫人の病を治癒させるべく彼らが厳罰を覚悟しながら、人々の病を治癒する力を持つ死刑囚を連れ出す動機がもっと明確になって、より彼らに感情移入できたと思う。
 それからラストの奇跡をより効果的にするために回想を終えた年老いた主人公に対する聞き役の老婦人のちょっとした不信感を抱かせるような伏線を挿入してもらいたかった。ただこれらはないものねだりというものだろう。そこまで要求するのは酷というものだ。原作を読めばいいのである。
 クライマックスで死刑囚が主人公の手をつかんで真犯人を確定させる過去の出来事を見せるシーンがある。映画「リング」に同じようなシーンがあって、これは原作にはない。観客に映像で見せるインパクトは台詞なんかよりよほど大きく、回想シーンというのも当り前すぎる。そのため登場人物を超能力者にして、観客にも過去を体験させるこの脚色にとても感心したものだった。もしかすると「リング」のシナリオライターは小説「グリーンマイル」を引用したのかもしれない。

 相変わらずトム・ハンクスはうまい。「フォレスト・ガンプ」同様に短髪の彼の容貌は「ブラックレイン」の松田優作に肉をつけさせ、もっとやさしくしたイメージでかなりお気に入りなのだ。(あくまでも僕の主観であって、同調してくれる人はいないだろうが)
 共演者では長身の看守仲間・デヴィッド・モース(寡黙で頼りがいがある)と敵役の新入り看守ダグ・ハッチソン(デーブ・スペクター似でいかにも狡賢しそう)が印象に残る。

     ◇

2002/04/30

 「グリーンマイル」(スティーブン・キング/白石朗 訳/新潮文庫)  

 映画「グリーンマイル」を試写会で観た時、原作が6冊に分かれていると聞いてとてつもない大長編だと誤解していた。
 そんな長い物語をよく3時間強にまとめあげたものだ、いったい原作はどうゆう物語で映画ではどこがはしょられたのか? という感嘆と疑問がわいた。
 しばらくして一緒に観た友人が原作を買ったからというので、借りたのだが、その1冊分の薄さに拍子抜けしてしまった。6冊合わせても京極夏彦の1冊とどっこいどっこいなのだ。  
 合本にすれば値段も安くなるのに、と出版社の金儲け主義に反発してそのままずっと〈積ん読〉状態で1年以上経過してしまった(ごめんなさいね、Hさん)。  

 第1巻の〈著者のまえがき〉を読んで、分冊形式に意味があることをわかった。  
 アメリカでは新聞や雑誌に連載小説がないのだそうだ。書き下ろしというのが通常の出版形態で、キングは続きモノで本をだしたかったのだとか。最高潮でむかえたラスト、さてこの続きは3ヵ月後……てな具合で読者は続刊が発売されるまで首を長くして待つことになる。かつてディケンズが試みて好評を得た方式を踏襲した由。  
 だったら「月刊スティーブン・キング」なんていう雑誌を発刊してしまえばいいのに。  

 全6巻の副題は次のとおり。  
 1 ふたりの少女の死  
 2 死刑囚と鼠  
 3 コーフィの手  
 4 ドラクロアの悲惨な死  
 5 夜の果てへの旅  
 6 闇の彼方へ  

 当初、この本が3ヶ月ごとに出版されていたように、続けて読むことはやめて途中々別の本を挿み読みしながら、楽しもうかと思っていたのだが、ダメでした。1巻を読了すれば、当然次が読みたくなる。そういう作りになってるんだからしょうがない。それでも前半の3巻、後半の3巻と少し時間をおいて読了した。

 元コールドマウンテン刑務所看守主任・ポール・エッジコムの1932年二人の少女を暴行し惨殺した黒人・ジョン・コーフィが死刑囚として収監されてきた当時の回想録。
 コーフィは病気を癒す不思議な力を持っていた。ポールが患っていた尿感染症を治癒したり、意地悪な看守パーシーに殺されかけた独房のアイドル鼠(ミスター・ジングルズ)を生き返らせたり。
 ポールは脳腫瘍で明日をもしれない状態になっている刑務所長の妻をコーフィの力を借りて治そうと看守仲間とともに彼を刑務所から脱出させる……そして自覚する。コーフィは無実だ!  

 映画はラストになって老人ホームで余生を送る主人公の現在に時制がもどり、あっと驚くオチがつく。
 小説は作者の自由自在に現在と過去を行き来する。このタイミングが絶妙。
 ポールは過去で大物政治家の後ろ盾を持つパーシーの横暴な振る舞いに悩み、現在では自分を敵視する職員ブラッド・ドーランのいじめに恐怖する。
 それぞれのサスペンスで読者をあおってくるのだからたまらない。さすがストーリーテラーの大御所!
 確か映画は最初の少女殺しの犯人について触れていなかった気がする。小説ではコーフィの前に収監された極悪犯ワイルド・ビルの犯罪であることがあばかれる。
 老人ホームのエピソードではよき理解者の女性エレノアとの淡い恋も描かれる。文章だけ、会話だけの印象では20、30代の女性に思えてならなかった。

 各巻にそれぞれ訳者の白石朗をはじめ小池真理子、中島梓などの解説がついていることも分冊の楽しみだ。最終巻には風間賢二、吉野仁、白石朗の鼎談までつくおまけつき。




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Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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