2000/08/23

 「梟の城」(ビデオ)

 昨年から今年にかけて時代劇映画が次々と公開されている。どの作品も評判がよく、好きな監督ばかりだったから僕も劇場へ足を運んでいる。
 が、司馬遼太郎の原作を完全映画化したと話題をまいた篠田正浩監督の「梟の城」だけは映画関係の個人サイトの感想、BBS等の書き込みを読む限りどれも悪評で二の足を踏んでしまった。
 曰く「CGが安っぽく、映像が平坦」「ストーリーがわかりにくい」「期待を裏切られた」……。

 新春に会社の賀詞交歓会があり、その講演会の講師が篠田正浩監督だった。
 講演の内容はこれまでの講師たちにくらべ格段の面白さであった。当然司馬遼太郎との交流にも触れ、自作「梟の城」についても語っていた。
 クライマックスである主人公の忍者が伏見城に忍び込むシーンで、闇の中、月光に照らされた黒い瓦屋根、黒装束の忍者の微妙な色の違いについて海外の著名な評論家が絶賛していたという。俄然映画に対する興味もわいてきたものの、結局、一般人の意見を尊重して劇場で鑑賞することはなく、ビデオで間に合わせてしまった。

 予告編やTVスポットを観る限り、「梟の城」は忍者アクション映画という売りだった。だから派手な殺陣や活劇、鶴田真由や葉月里緒菜のお色気シーンを期待すると見事に裏切られる。ストーリーも多くの登場人物が複雑に入り乱れわかりづらい。
 しかし豪華絢爛な安土桃山時代をリアルに再現した映画として観るとなかなか見ごたえがあった。
 
 開巻早々の織田信長軍による伊賀の里襲撃シーンは確かにCGっぽい合成が目立ち、特に伊賀女の斬られた首が画面右が左に飛ぶショットはいかにも合成っぽくてがっかりくる。この手の〈絵〉はそれからも2、3でてくるが、それ以上に美しい映像に目がくぎづけになった。
 由緒ある建物や緑映える森や林を活用したロケーションと豪華なセット、きらびやかさや渋さで眼の保養をさせてくれる本物志向の衣装。CGを使って再現された奥行きのある堺や京の町。邦楽、雅楽をとりいれ映像にマッチした重厚な音楽。
 俯瞰で京の町の全景が映り、建物の間を人が走り抜けるショットや人の叫びを効果的に使用した音楽に興奮して、なぜ劇場の大スクリーンで観なかったのかと後悔することしきりだった。

 この映画、スタイルはとてもいい。タイトルデザイン、キャスティング、映像美、カッティング等々、僕の好みに合致するからだろう。
 ただストーリーはというと、やはり?がいくつも並んでしまう。
 信長に伊賀の里を滅ぼされてから隠遁生活を送っていた葛籠重蔵(中井貴一)が師匠の下柘植治郎左衛門(山本学)より豊臣秀吉暗殺を依頼された際、全く興味がないことを述べる。説得されてやっと重い腰をあげるわけだが、そんな経緯があるからクライマックスでの重蔵の心変わり(秀吉を暗殺せず、殴るだけ)が当たり前すぎてしまうのだ。

 史実では秀吉は病死する、しかし、この映画ではもしかして暗殺されるのかもしれないという期待感(不安感か?)がなければサスペンスは生じない。クライマックスの緊張感がないのはそのためだと思う。
 冒頭で長々と字幕による物語の状況説明があるにもかかわらず、その後中村敦夫によるナレーションがたえまなく入ってくる。ストーリーをわかりやすくするための処置だろうが、映画にそぐわない感じがした。
 また、せっかくリアルに時代を再現しているのだから、前田玄以の禿頭は本当に髪を剃るくらいでないと絵的に浮いてしまう。

 ラスト近く突然のように石川五右衛門の名前がでてくる。敵役の風間五平(上川隆也)が石川五右衛門として釜茹での刑に処せられるが、なぜ五平が石川五右衛門を名乗ったのか、実在の五右衛門とどう関係してくるのかまったく説明がないも不服(何のためのナレーションか!)。
 木さる(葉月里緒菜)が途中であっけなく殺されてしまうのは合点がいかず、小萩(鶴田真由)の存在もいまいちよくわからなかった。

     ◇

 「忍者秘帖 梟の城」(ビデオ)

 「梟の城」公開にあわせて、〈東映時代劇〉黄金時代の「忍者秘帖 梟の城」がビデオ化されたので新旧作品の比較という意味もあって続けて観た。

 こちらは脚本・池田一朗、監督・工藤栄一という豪華さ。
 工藤監督は昔「大殺陣」「十三人の刺客」の傑作をものにし、僕らの世代には「必殺」シリーズで知られている。脚本の池田一朗は後に傑作時代小説「影武者徳川家康」を書く小説家・隆慶一郎である。このコンビによるチャンバラ映画なのでさぞかし傑作なのだろうと期待した。

 この映画も織田信長軍の伊賀襲撃シーンで始まる。このシーンはCGを多様した篠田作品より迫力を感じた。女が襲われるところでは乳房丸見えで昭和30年代ということを考えるとびっくりする。

 ストーリーの構成は篠田作品とほとんど同じ(いや、篠田作品が似ているというべきか)。
 大きく違うのはラスト。重蔵(大友柳太朗)と小萩(高千穂ひづる)が結ばれるのは同じだが、篠田版では劇中殺されてしまう木さる(本間千代子)が工藤版では生き残り、重蔵の部下(河原崎長一郎 )と幸せに暮らす。五平が処刑されたことも知らず、大坂から逃げ出した重蔵と小萩がかけつけるところが木さる夫婦の家であり、二組のカップルの明るい未来を感じさせるハッピーエンドとなっている。

 総じてストーリーがわかりやすい。
 ただ忍者というと僕には細身のキャラクターのイメージがあり、先に中井貴一を見ていることもあって、大友龍太朗のそれはいまいちピンとこない。アクションも期待したほどでもなかった。

 どちらの映画が原作をうまく映像化したか、さっそく読んで確かめてみたい。

     ◇

2000/09/16

 「梟の城」(司馬遼太郎/新潮文庫)

 新旧の映画「梟の城」との比較と、映画で生じた疑問を解明するべく原作を借りてきた。

 直木賞受賞作で昭和34年に発表されたと解説にある。僕が生れた年だ。
 この「梟の城」と山田風太郎「甲賀忍法帖」で一気に忍者ブームが到来したという。マンガ、劇画では横山光輝「伊賀の影丸」、白土三平「忍者武芸帖」が続き、青年、子どもたちの間でも忍者があこがれの的になったということだろうか。
 僕自身が忍者を知ったのはTVアニメの「風のフジ丸」であり、藤子不二雄のマンガを実写でTV化した「忍者ハットリくん」だった。正義の忍者は伊賀、敵対するのが甲賀という認識をもったのも「忍者ハットリくん」だと思う。
 この伊賀忍者と甲賀忍者の違いなど、本作を読むとよくわかる。伊賀は個人主義のニヒリスト、甲賀は仲間意識が強く結束力もある。甲賀の方が人間らしい生き方じゃないか。

 「梟の城」は豊臣秀吉の命をめぐって伊賀忍者、甲賀忍者、九ノ一等々、さまざまな人間が入り乱れて殺戮を繰り返す物語だが、メインは主人公・葛籠重蔵と謎の女・小萩のスリリングな関係だろう。お互い任務遂行のため、相手をいいように利用し化かし化かされながら惹きつけられ、愛し合い、肉体の欲望に溺れ、しかしいつか殺そうとそのきっかけを探っている。
 「不夜城」(馳星周)の主人公、健一と夏美の関係に似ている。「不夜城」のふたりのヒリヒリする関係の原形は40年前の「梟の城」にあったということか。

 また、葛籠重蔵とかつての仲間でありライバルだった風間五平の対立という構図も重要な要素である。
 映画の中では仲間を裏切った五平に悪者のイメージがあるが、小説を読むと、先に書いたように、伊賀は裏切りなんて当たり前の世界。そんな世界に嫌気がさし武士に仕官した風間五平(下呂正兵衛)の気持ちはよくわかる。
 映画では最後まで重蔵の師匠然としていた下柘植治郎左衛門が、小説世界では簡単に弟子を裏切ってしまうのだから。

 映画「梟の城」で大きな疑問だったのは五平が町人姿で重蔵の後をつけている最中、町のチンピラに絡まれるというくだりである。難なく彼らを倒すと、騒ぎを聞きつけてやってきた町役人に名を訊ねられ迷うことなく〈石川五右衛門〉と答える。これがあまりに唐突なのだ。
 なぜ石川五右衛門なのか、とっさに思い浮かんだ偽名なのか、前から用意していたものなのか、名前に意味があるのか。映画は何も語らず、ラスト、仕えていた前田玄以に裏切られ、哀れ五平は石川五右衛門として処刑される。
 小説には五平と石川姓の深い関係が書かれている。だいたい僕らが知っている石川五右衛門の実在を示す資料はほとんど残されていないという。つまり五平がとっさに使った偽名〈石川五右衛門〉が当時の忍者の悪行と結びつき、後の伝説をつくりだしたと小説は語っているわけだ。




関連記事
スポンサーサイト
NEXT Entry
「ホワイトアウト」「パーフェクト・ストーム」 ~ある日の夕景工房から 
NEW Topics
告知ページ
「溺れる魚」「ミート・ザ・ペアレンツ」「ハード・デイズ・ナイト」 「天使がくれた時間」 ~ある日の夕景工房から
1分間スピーチ #22 ソニー・プレステ2の宣伝効果
「クリムゾン・リバー」「愛のコリーダ 2000」「ビッグママスハウス」 ~ある日の夕景工房から
世紀末~新世紀「2001年宇宙の旅」まつり
「ハンニバル」 ~小説を読み、映画化作品をあたる
「ホワット・ライズ・ビニーズ」 「ペイ・フォワード [可能の王国]」 ~ある日の夕景工房から
「カオス」 ~映画を観て、原作をあたる
「砂の女」「源氏物語 あさきゆめみし」 「スペース カウボーイ」 ~ある日の夕景工房から
「キッド」「顔」「五条霊戦記」「インビジブル」 ~ある日の夕景工房から
Comment
Trackback
Comment form
 管理者にだけ表示を許可する
プロフィール

kei

Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

検索フォーム
ブロとも申請フォーム
QRコード
QRコード

Page Top