身体中が痛くて、布団の上でウンウンうなっていた7日(木)に観ようと思っていた「静かなる情熱 エミリ・ディキンスン」を本日鑑賞。ひょんなことから招待券を手に入れたからなのだが、観て良かった。
 映像と音楽。そして演技。
 ヒロインを演じる役者が途中で変わるのだが、まったく意識させない交代だった。

          * * *

2000/09/03

 「ホワイトアウト」(川崎 チネグランデ)

 オープニングは非常にシンプルである。
 黒バックに「ホワイトアウト」の文字。画面がフェードアウトするとメインキャスト、スタッフのクレジットもなく、音楽の盛り上りもないまま、カメラは主人公の行動を追い、やがて大雪に閉ざされたダムで働く所員たちの仕事ぶりを活写する。このシンプルさに監督の並々ならぬ自信を感じることができる。舞台となるダムの全景が大写しになったとき、もしかしたら傑作なのかもしれないと思った。

 実際、前半はむちゃくちゃスリリングだった。
 主人公(織田裕ニ)が抱えるトラウマ(雪山で同僚を見殺しにしてしまった)の原因、そしてそれがヒロイン(松嶋菜々子)との接点となる数年前の遭難事件が短く描写された後、本筋のテロリストによるダム占拠がテンポよく続く。
 ダム職員の一員として物語に大きくかかわってくると思われた平田満や河原崎健三があけなく敵に殺されるという贅沢なキャスティングで、先の展開が読めない。この映画製作を知って原作を読まずにいたのが幸いだった。テロリストに外界への逃道を封鎖され、警察側も手も足もでない。一人敵の魔の手のから逃れた主人公がどう反撃にでるか。考えただけでも興奮してくる。

 「千里眼」と同じように原作者がシナリオを担当しているが、もともとTVアニメの演出家出身だけに活字の映像化に成功しているように思えた。
 主人公が最初にテロリストの一人を殺すシーンはまったく本家「ダイハード」と同じというのはどうかと思うが、厳寒の雪山やダム施設を熟知している主人公がその知識をもってテロリストたちを欺き、一人ひとり始末していく姿が痛快だ。

 が、絶体絶命の窮地に追い込まれた主人公が敵の策略を逆手にダムの放水パイプを使って脱出するところで大きな疑問を感じてしまった。
 防寒服やズボンの隙間をガムテープで防水し、酸素ボンベとマスクで3キロ先の川岸に押し流されて助かるまではいい。しかしそれからビニール袋に入れ携帯してきた設計図らしき紙の束を燃やして暖をとるだけで厳寒の雪中をダムにもどるというのはあまりにも自然をバカにした行為ではないか。着ていた衣服をすっかり着替える、というのであればとりあえずエクスキューズになるけれど、濡れた防寒服をそのまま着て長時間雪中を歩いていたら、いくらなんでも凍え死んでしまうだろう。

 というわけでこれ以降、いくらドラマが急展開しようとも、下がってしまったボルテージを上げることはできなかった。
 テロリストのリーダー(佐藤浩一、あの付け髭だけはなんとかならなかったか)が仲間に仕掛けたトリックも活字だからこそ生きてくるというもの。警察側の人間と話す声はどうしても佐藤には思えず、誰がしゃべっているのだろうとずっと思っていたのだから、クライマックス前のドンデン返しもそれほどのインパクトはなかった。

 ドラマがラストに向かって急激な展開をみせても、つめが甘いというかご都合主義が垣間見られ、前半のような手に汗にぎる状態にはならない。
 主人公と敵ヘリコプターのチェイスは一番の見せ場であるにもかかわらず、その〈結果〉を予告編、TVスポットで何度も見ているから興奮度は低い。出来がいいだけに残念だった。それにしてもこんな重要なシーンを予告編に使用する映画会社の見識を疑ってしまう。

 日本映画には珍しい重厚でサスペンスフルなアクション映画の傑作が生まれたのではないかという期待は裏切られた。
 まあ、織田裕二のワンマン映画としては大成功だろう。どんな理由であれ、ヒットすることは喜ばしい。このヒットに刺激されて第2、第3のアクション映画が生まれてほしいからである。

     ◇

2000/09/06

 「パーフェクト・ストーム」(新宿ミラノ座)

 予告編の、世界最大級の高波に小さな漁船が立ち向かっていくシーンに圧倒された。この特撮シーンを大スクリーンで観るだけでも価値ありと、映画サービスデーということもあって劇場にかけつけたのだった。

 ストーリーについては何の情報も仕入れていなかった。ジョージ・クルーニー主演、1991年にマサチューセッツ沖で起きた実話の映画化というくらいの認識しかなく、映画の冒頭で「この映画は実話に基づいている……」のスーパーで前代未聞の暴風雨に巻き込まれたにもかかわらず救助された船員がいたのか、とびっくりしたものだ。

 漁師たちのくらしも遠洋漁業についてもほとんど知らないことばかりだから、描かれている世界は興味深く、またドラマもよくできていた。漁のシーンでは海で働くプロフェッショナルな男たちの魅力が存分に感じられた。
 人間ドラマがちゃんと描けているからこそクライマックスに大いに興奮できるというもの。とにかく〈パーフェクト・ストーム〉と呼ばれる大嵐に巻き込まれた、漁船、ヨット、救助隊(ヘリコプター)の悪戦苦闘ぶりに手に汗握った。セット撮影とCGによる特撮が見事に融合して緊迫した迫力あるシーンの連続だ。これほどの映画とは予想していなかった。
 だから最後の最後、助かったと思いきや大高波によって漁船が転覆して乗組員全員が海に飲み込まれてしまったのには呆然自失。シーンが変わって乗組員たちの葬儀になっても誰かが生きて帰ってくるものと信じていた。

 考えてみれば、あれほどの暴風雨の中、生きて帰ってくる方が奇跡に近いのだが、漁船の人間模様は誰か生き証人がいなければわからない。冒頭の「実話に基づいている……」とはそういうことだと思っていた。でなければ漁船の話はまったくの空想話、〈講釈師見てきたような嘘をつき〉の世界になってしまう。
 要は〈パーフェクト・ストーム〉に巻き込まれたアンドレア・ゲイル号という漁船が遭難したことだけが事実なのだろう。
 ラストになって肩透かしをくらった格好になった。まっ、事実を知らなかった僕自身がいけないのだけれど。




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Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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