2000/11/03

 「砂の女」(ビデオ)

 大学時代は三島由紀夫に狂っていて、他の小説が読めなくなっていた。それじゃしょうがないと、読んだのが安部公房の「砂の女」だった。一度「密会」という小説を読んで、まったくというほど理解できなかった。その名誉挽回という気持ちもあった。あのころは安部公房描くところの前衛世界が何とも魅力的に思えたのだった。
 「砂の女」は「密会」よりわかりやすく面白かったものの、以後安部作品を読むことはなかった。

 崖の下の砂丘の中に建つ小屋に住む女と、村人に騙されて小屋に迷い込み砂地獄の蟻のようにそこから抜け出せなくなった男の愛欲物語。侵食してくる砂に苦しみながら女の魔力にとりつかれた男の不可思議な体験を描く「砂の女」は小説より映画としてその存在を知っていた。そのビデオが図書館にあったのであわてて借りてきた。レンタルビデオ店ではお目にかかれない作品があるという点でも図書館はあなどれない。
 脚本は安部公房自身が書き、勅使河原宏監督の1964年度作品。主演は若き岸田今日子と岡田英二。男を砂地獄に誘いこむ村人の一人が三井弘ニ。
 小説の非現実な物語が見事に映像化されていた。砂の怖さ、いやらしさは活字以上にこちらに伝わってくる。

 映画はその内容が優れていることはもちろん、映画の顔とも言えるスタッフ・キャストのタイトルデザインにも神経を注いで欲しい。
 僕が市川崑監督を好きなのはいつも斬新なタイトルを見せてくれるというところにもある。
 「砂の女」のタイトルも秀逸だ。
 白地に黒い明朝体の文字。実相寺昭雄監督が後年得意としたデザインである。勅使河原監督のそれは英語とフランス語の訳も一緒に並び、おまけに名前の横には各人の捺印があるという凝りよう。
 武満徹の現代音楽も印象的。

     ◇

2000/11/03

 「源氏物語 あさきゆめみし」(渋谷エルミタージュ)

 宝塚歌劇の世界を受けつけなくなったのは中学生になってからだ。
 「リボンの騎士」のアニメに夢中になっていた小学生の僕は男装の麗人の魅力にとりつかれ(といったって当時そんな意識はなかったけれど)、母親が宝塚のファンということもあって宝塚歌劇に何の違和感も抱かなかった。NHKには宝塚歌劇の番組があって、毎週楽しみにしていたものだ。
 中学生になると池田理代子の「ベルサイユのばら」が大ブームになって、宝塚で舞台化もされ、これも大ヒットとなった。NHKでも何度もその舞台中継があって、そのたびにチャンネルを合わせるのだけれど、派手な化粧と男役の声質、演技に触れるとどうしても背筋が寒くなって、最後まで鑑賞することができなかった。

 宝塚歌劇団の花組のキャストで源氏物語が映画化されたことなど全然知らなかった。原作は大和和紀の人気コミックだという。
 東京国際映画祭の〈カネボウ国際女性映画週間〉で上映されるこの映画の招待券をたまたま手に入れただけなのだが、女優が光源氏に扮する作劇に興味がわいた。何よりもこれは舞台ではなく、映画。宝塚歌劇とは別の魅力に包まれているのではないかと期待したのだ。

 上映前に〈カネボウ国際女性映画週間〉事務局代表の方の挨拶があり、この映画がハイビジョンで撮影されたビデオをキネコにしたもの、コミック「あさきゆめみし」の後半はすでに宝塚で舞台化されていることを知り、不安を覚えた。

 不安は的中した。結局この映画は宝塚歌劇の単なる映像化でしかなかった。宝塚ファンなら受け入れられる内容も、門外漢の僕にはとうてい理解できないしろものだった。
 映画は〈何でもあり〉とはいうものの、リアリズムを基本にしているはず。にもかかわらず舞台とまったく変わらない男役の〈いかにも〉な演技と容姿。かつらをかぶって女性が僧侶を演じるなんてまるでコントの世界ではないか。

 NHK大河ドラマ「葵 徳川三代」のオープニングでベテラン女優(浅利香津代・鷲尾真知子)のふたりが介さん、覚さんに扮して中村梅雀の水戸光圀と絡みドラマの解説をするコーナーがある。これがなかなか愉快なのだが、「あさきゆめみし」で男でも女でもない妖艶さを期待していた光源氏の愛華みれや頭の中将の匠ひびきが並んで芝居するたびに、このコーナーを思い出して苦笑してしまった。

 事務局代表の方が強調していた映像の美しさも、確かに日差しのゆらめきなど、照明や美術に神経をゆきとどかせ、とても丁寧に仕上げられているものの、映像設計がビデオ用のため、キネコでスクリーンに映しだされると、どうしても全体的に押しつぶされた色彩となって本来の美しさが表現されていなかったように思う。あるシーンで青い絹がアップになったとき特にそれを感じた。

 というわけで、更衣・藤壺の女御を演じた大鳥れいの美しさに心奪われた以外、僕にとっては眠けを誘う映画であった。

     ◇

2000/11/06

  「スペース カウボーイ」(丸の内ピカデリー1)

 週刊文春連載のコラムで小林信彦が「1年に1回しか映画館で映画を観ない人はこの映画を観てください」と大絶賛していた。またその前週の映画評(5人の知識人による星取表)でも概ね好評だった。

 クリント・イーストウッドの製作・監督・主演、イーストウッドとともにトミー・リー・ジョーンズ、ドナルド・サザーランド、ジェームズ・ガーナーたちが活躍する宇宙冒険モノと聞いて特にイーストウッドのファンではないけれど胸躍らせた。
 何しろ丸の内ピカデリーではこの映画に関して毎週月曜日を〈メンズデー〉に設定して、1,000円で入場できるようにしているのだ。これはぜがひでも月曜日に押し寄せて、好評を博させ、このシステムを継続させたいという気持ちにもよる。(それにしては観客が少なかったなあ。そりゃまあ月曜日の夜なんて大の大人だったら疲れてますもんね)

 また純粋にリアルな宇宙モノに興味があるということもある。
 アメリカ初の宇宙飛行士になるはずだったのにその座をチンパンジーに奪われた男たちが40年後、ロシアの旧型の人工衛星が地上に落ちることを阻止するため宇宙へ飛び念願の夢を叶えるというストーリー。
 アポロ計画が華やかりしころ、ケロッグのおまけがアポロロケットのシリーズで小学生だった僕は近所の1年上の男の子と一緒に盛んにおまけを集めたものである。将来の夢は野球選手から宇宙飛行士にかわっていた。(ジェットコースターも怖くて乗れない今の自分からは信じられないけれど)そんな子ども心が疼いたのだ。

 オープニングの主人公たちが乗る練習機が大空をマッハで飛ぶ疾走感がたまらない。イーストウッドはこのシークエンスでおもしろい演出をしている。4人の老優(?)たちの青年時代を実際の若い俳優に演じさせ、声だけ本人たちが吹き替えているのだ。確かに声はそれほど老けないし心憎い方法である。若い俳優たちも40年後の姿を想像させる容姿でこういうところでもアメリカ映画は手を抜かない。
 主役の名優たちは人間くさい男ばかりだから前半イーストウッドが昔の仲間を集めるところはそれだけで1本の映画になりそうな出来である。

 しかし特撮好きな僕としては後半の宇宙に飛び出してからの映像に目を見張った。いわゆるSF映画の実際には(たぶん)ありえない映像については最近では〈CG〉、〈デジタル合成〉のキーワードですんなり受け入れしまう僕であるが、TV、ビデオ等で見慣れている大気圏外の映像は本物を知っているだけに思わず身を乗り出した。
 この夏うちの会社も出展している関係でお台場で開催された「夢の技術展」を観に行った。特に僕の興味を引いたのがある団体のブースでモニター放映されていた「毛利衛の撮った地球」(タイトルが違っているかもしれない)だった。スペースシャトルから単純にビデオカメラで撮影した地球の姿に坂本龍一の音楽が流れるだけのものだが、大気圏外から見るさまざまな地形が心をなごませてくれた。
 地図と同じ関東地方の形、そこだけ盛り上がった雪におおわれた富士山。赤茶けた砂漠地帯、緑だらけのアマゾンの熱帯雨林。 そんな実物と遜色ない映像が急展開する物語の背景として存在していることに驚いた。シャトル内の無重力状態はどんな風に撮影したのか。昔ながらのブルー(グリーン?)バックによる吊りだろうか。それにしては合成っぽくなかった。

 サスペンスとスリルにあふれた、それも前半の伏線が大いに効いているクライマックスに興奮して満足した。
 ただひとつ疑問なのはラスト、トミー・リー・ジョーンズによって導かれた核ミサイルを乗せた衛星がどこに消えたかという問題。宇宙の彼方に消えたのか? 彼ととともに月面に衝突したのか? 前者だったらまだいいが(よくはないか)、後者の場合月で核爆発が起こりますよね。アメリカ映画ってホント核爆発に対して無頓着なのだ。そこんところがどうにも気になった。




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Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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