2000/11/24

 「ホワット・ライズ・ビニーズ」(渋谷東急 試写会)

 この映画についてはその存在すら知らなかった。友人に試写会の招待状をもらい、タイトルからはどんな内容かはわからなかったが、ハリソン・フォードとミシェル・ファイファーの共演、ロバート・ゼメキス監督作品だと知り、俄然興味がわいた。

 ハリソン・フォード扮する学者と再婚した元チェリストのミシェル・ファイファーは娘を大学の寮に送り出し、学者の父が建てた瀟洒な家で夫婦ふたりの生活が始まった。
 愛する娘を送り出して寂しくてたまらない彼女は家の中で不思議な現象にさいなまれる。閉めたと思ったドアが開いていたり、突然電源が入ってラジオが鳴りだしたり。
 最近、引っ越してきた隣家は夫婦喧嘩が絶えない。ある日夫人がいなくなってなってしまって、亭主に殺されたのかもしれないと思った彼女はそのときから女の幽霊を見るようになる。妄想がひろがる彼女はやがて一年前に起こした交通事故で失った記憶が蘇ってくる。幽霊の正体は実は……というサイコホラー。
 ゼメキス監督がヒッチコックの「サイコ」を代表とするスリラー映画を意識して最新技術を駆使し自身のプロダクションで製作された作品(観た後、チラシの解説で知った。だから劇中「サイコ」そっくりの音楽が流れるのですな)。

 クライマックスはかなり怖いけれど、「黒い家」を知っている者としてはどうかなと思う。この手のたたみかけるような恐怖は映画の十八番だろう。それより前半のじわじわ迫ってくる現実か妄想かヒロインも観客もわからない怖さをもっと徹底させていたら新しいホラーの誕生を祝えるのに。

 それにしてもハリソン・フォードは幸せな役者だ。確固たる人気のシリーズものをいくつも持ち(「スターウォーズ」「インディアナ・ジョーンズ」等)、なおかつ単発で印象的な作品がある(「ブレードランナー」「刑事ジョン・ブック」)。いろいろな役柄に扮し、それがけっこうぴったりくる。アクションから学者、大統領までこなせるというのはすごいことではないか(これも「インディアナ・ジョーンズ」シリーズのおかげか)。
 ミシェル・ファイファーを僕はそれほど知っているわけではない。「ストーリー・オブ・ラブ」が最初の出会いだと思う。実をいうとミシェル・ファイファーとキャメロン・ディアスと「アリー My Love」の主演女優の区別ができない……。

 試写会の時間がとんでもなかった。開始が午後9時55分、上映時間が2時間10分。終了すると終電に間に合うかどうかの時間だ。
 エンディングロールが流れたとき、観客の退席の様子はそりゃ壮観でしたよ。
 まあ、それとは関係なく2時間10分は長すぎるけれど。

 タイトルを直訳すれば「下に横たわるのは何?」。〈Lie〉は「横たわる」と「嘘」をかけているのかもしれない。

     ◇

2000/12/11

 「ペイ・フォワード [可能の王国]」(一ツ橋ホール 試写会)

 内容はまったく知らず、ケビン・スペイシー主演、ミミ・レダー監督作品と聞いて大いに期待したこの映画なのだけれど、会場で配付されたチラシを見て驚いた。2001年アカデミー賞確実とある。
 確かにケビン・スペイシーは「アメリカンビューティー」で、共演のヘレン・ハントは「恋愛小説」でともにアカデミー賞を受賞しているし、ハーレイ・ジョエル・オスメント(「シックス・センス」の少年)は「シックス・センス」で候補になった。この3人が出演するからといってアカデミー賞確実というのも安易ではないか!? それにサブタイトルの[可能の王国]もあまりに直訳調で少し引いてしまったところがある。

 ミミ・レダー監督は開巻早々雨の中の人質事件をお得意の緊迫感あふれる演出で展開させ観客を一気に映画に引きずり込む。事件を取材中に車で逃走する犯人に体当たりされて自家用車をメチャメチャにされた記者が、突然何の理由もなく自分に新車のジャガーをプレゼントしてくれる奇特な男に出会うというアーバンタイトルエピソードで、まず観客に謎が提示されるのだ。

 劇場デビュー作「ピース・メーカー」、スマッシュヒット「ディープ・インパクト」とミミ・レダー監督は女性を感じさせないスリリングなアクション映画の旗手というイメージがあった。そんなミミ・レダーがやっと全編にわたって女性らしい感性と繊細さを発揮した映画が「ペイ・フォワード」といえようか。

 ケビン・スペイサーは顔に火傷痕を残す中学教師。新学期、彼が担任するクラスに新入生のオスメント少年がやってくる。先生が毎年新学期に出題する「世界を変えるにはどうしたらよいか」の課題に対するオスメント少年の回答が非凡だった。
 ある人が3人に善意の施しをする。3人はその人への感謝のしるしに別の3人に同じ善意の施しをする。これを〈先渡し〉(これがタイトル「Pay It Forward」の由来)といって、この仕組みで次々に善意が広がっていく。〈先渡し〉はやがて世界中を席捲し、そうなれば世界は変わっていくのではないかと、と説明する。いってみれば善意のねずみ講、チェーンレターの変形版だ。

 少年は手始めにホームレスの男を自宅に招き入れ、食事をさせる。少年の母であるヘレン・ハントはアルコール依存症で禁酒に苦しんでいるホステス。同じアル中の暴力夫は行方知れずの状態。少年は2人めの〈先渡し〉を先生にし、母親と恋仲になるよう画策する。もう一人は友だちをいじめっ子たちから救うこと。
 冒頭の新聞記者が〈先渡し〉の存在を知り、関係者を取材する過程と、その発祥の元になった少年の行動を交互に描きながらクライマックスで結びつき、衝撃的な事件のあと、心洗われるラストをむかえるという構成だ。その中で母子が抱える問題、中学教師のトラウマが浮き彫りにされていく。
 教師と母親の仲を裂くように突然姿を現わす夫にボン・ジョビが扮している。これがなかなか適役なのだ。話題作りというよりあくまでもオスメント少年が成長したときの容貌からキャスティングされたのではないかと思う。まさしく親子って感じ。

 ラストは会場の女性たちの涙を誘っていた。
 この映画のテーマを考えたら僕としてはクライマックスの出来事は許せない。もう少し別の方法があったのではないかと思う(原作がそうなっているのだろうが)。
 ただその後の展開で好感をもったのはこのくだりを感情過多の泣きの演出で描いていないことである。普通なら病院の教師と母親のシーンからラストまでをもっとベタにオーバーアクションと音楽を使って、観客の感情に訴えかけて盛り上げるのだろうが、ミミ・レダー監督はカメラを引いて、客観的に見つめ、さりげなく事実を直視させる。




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Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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