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999/07/06

 「恋」(小池真理子/早川書房)

 1972年に起きた浅間山荘事件は忘れられない出来事だった。機動隊の突入、事件解決までを国会中継を中止にして延々と生中継したNHKの特別番組を学校から帰宅してからずっと見ていた。僕にとって三島由紀夫の自決事件とともに70年代前半の大事件、忘れられない出来事といえるだろう。

 思えば70年代は青春そのものだった。特に70年から75年くらいまでは僕の精神史として一番影響を受けた時代と言っても過言ではない。
 そんな思い出深い時代を背景にして、当時憧れの対象だった団塊の世代の若者たちが繰り広げる奇妙な恋愛模様が浅間山荘事件にからめて描かれている。
 浅間山荘事件が解決した同じ日、同じ場所(軽井沢)で大学助教授夫妻と女子大生の三角関係の末に起こった猟銃射殺事件。二十数年後の現在、事件に興味を抱いたルポライターが真相を探ろうと犯人である癌に冒され死期が迫った女性から聞き出した当時の詳細、顛末がこの小説である。

 プロローグで女性は事件には誰にも打ち明けていない秘密があるとルポライターに告げる。当然、その後の本筋である回想シーンではその秘密がなんであるかということがミステリとしての焦点になるはずなのだが、明かされた秘密自体がそれほど衝撃的なものではなかった。肩透かしをくらった状態でエピローグを読みすすむと、本当の謎が提示され、その謎が解き明かされ、心やすらぐエンディングが用意されているという仕掛けになっている。このエピローグでこの小説全体が愛しいものになった。

 官能的なアブノーマルな三角関係と表現されているけれど、肝心なセックスシーンがちっとも官能的ではないのはつらい。

     ◇

1999/07/20

 「秘密」(東野圭吾/文藝春秋)

 東野圭吾の江戸川乱歩賞受賞作「放課後」はよくできた青春小説ミステリだったが、ラストのドンデン返しで後味の悪いものになってしまった。
 同じことがこの小説にも言えるだろう。というと語弊があるかもしれない。実際僕は主人公である父親が花婿に対して言うラストの台詞に胸熱くしたわけだから。しかしこの結末ってどこか救われない気持ちになるのは確か。感動的ではあるが、よく考えてみれば喪失感しか残さない。
 ラストになって「秘密」というタイトルの本当の意味(読者に仕掛けられたトリック)がわかるわけだけど、こんな形で愛する妻と別れることに主人公は納得しているのだろうか。娘が娘として嫁に行くのではない。妻が娘のふりをして嫁に行くのだ。
 ドンデン返し前の、娘の意識が戻って、その代わり妻の意識がなくなっていく、そんな形で永遠の別離になった方が自然ではなかったか。
 とはいえ、「スキップ」と違い、夫婦間のセックスに関する問題、若さを取り戻した妻に対する嫉妬などが簡潔(いやー、読みやすい文章だ)に描かれ、男としてとても感情移入できた。
 ラストはミステリ作家として「してやったり」という気持ちだろうが、だからこそ残念な思いがある。

 広末涼子主演の映画化作品ではこのドンデン返しは無視してほしい。それよりヒロスエに30代の主婦の演技ができるのか?

     ◇

1999/07/27

 「ラザマタズの悲劇」(ジャック・アーリー/伊多波礼子/扶桑社)

 文句なく面白かった。中盤以降一気にページをめくった。
 ジャック・アーリーはまずキャラクター設定が巧みである。
 本作でも自分の不注意で妻と子どもを殺されてしまい、今でもそのトラウマにさいなまれている新聞記者が主人公として登場してくる。死体を見て気絶したり、誰かと一緒に車に乗ることができない。
 相手役のヒロインは亭主を亡くした牧師。彼女も亡き亭主が忘れらない日々を送っている。
 中盤から連続殺人事件を一緒に調査することになる相棒の警察署長は頻発する殺人事件を解決できず、市の査問会で署長の任を解かれ、自分を裏切った妻の元を去り、単独で調査を開始する。決してスーパーヒーロー、ヒロインではないのだ。
 クライマックスは映像的だ。外は豪雨。犯人と思える男から間一髪で難を逃れて、自家用車を発進させたヒロイン。後ろには真犯人が隠れていた……。犯人の家に監禁されたヒロインに死の手が迫る。室内にはロックが鳴り響く。やっとのところで真犯人をつきとめた主人公と元署長は犯人の自宅へ直行。主人公は車に同乗せざるをえない。ヒロインを助けることができるかどうか。久々に味わうスリルとサスペンス。
 借りた3作の中でミステリとして一番オーソドックスな展開ではあるが、久々のワクワクドキドキ感を満喫できる作品だった。




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プロフィール

kei

Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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