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1999/08/15

 「死国」(坂東眞砂子/角川ホラー文庫)

 やっと文庫本を古書店で見つけたので読んでみた。
 映画「死国」の不満は何と言っても主人公のラストにおける突然の変心ぶりだ。
 十数年ぶりに故郷に戻ってきたヒロインと恋愛感情が芽生えたにもかかわらず、最後に死んだサヨリに惹かれてしまうところでがっくりきてしまった。小説ではそうなるまでの心理描写が克明に描かれているのだろうと期待していたのだが……。
 確かに理由は書かれてあった。でもそれだけだった。
 伝奇小説の面白さも感じられなかった(方言のリアリティはあった)。
 一番の怖さは人間の記憶のあやふやさということか。

     ◇

1999/08/18

 「黒い家」(貴志祐介/角川書店)

 噂には聞いていたが、これほどまで圧倒的に怖い小説だとは思わなかった。とにかく怖く、面白い。
 傑作TVシリーズ「怪奇大作戦」のテーマは真の怪奇(恐怖)は人間の内なるものなのだ、というものだったが、この小説はまさしく同じテーマを現代的に具現化したものだ。

 保険会社に勤務し、保険査定を担当している主人公が「自殺しても保険金がでるのか」という奇妙な電話を受けたことから事件に巻き込まれる。
 何気ない日常生活に潜む恐怖を保険金をめぐる詐欺事件の実際、心理学、昆虫学の知識を駆使して描く。
 最初に背筋を寒くさせたのは、「黒い家」の住人夫婦が小学生時代に書いた「夢」に対する作文を心理学の教授が性格判断するくだり。「この人には心がない」

 身の凍るようなクライマックスを経て、とりあえずの安穏、そして新たな恐怖の出現を予感させるラストまで、伏線のはり方、比喩としての昆虫の生態描写等々、その構成力、筆力はプロデビュー2作目の作家とは思えない。
 途中の殺人者に無残にも殺されてしまう犯罪心理学者・金石の理論に大きくうなずいてしまった。

     ◇

1999/08/21

 「天使の囀り」(貴志祐介/角川書店)

 怖いというより、全編虫酸が走るような気持ち悪さだった。とはいえストーリーは断然面白い。

 冒頭のアマゾンから送られるヒロインの恋人からのEメールの記録。帰国した恋人の性格変貌そして突然の自殺。恋人が参加したアマゾン探検隊、その隊員たちの奇怪な連続自殺。恋人の自殺の謎を追うヒロインはある組織の恐ろしい陰謀、その凄惨な結末を知って愕然とする……。

 クライマックスであるセミナーハウスのバスルームのグロテスクなシーン!これは90年代の「マタンゴ」じゃないか。
 ミステリ的要素もふんだんに盛り込まれ、伏線のはり方も申し分ない。確かに提示された謎の解明方法、手順があまりにも安易すぎる気もするが、まあいいだろう。
 ラストはホスピス医であるヒロインの若くして死を迎えざるをえない患者へのやさしさがにじみでていて胸が熱くなった。
 読了してから、伏線部分をもう一度確認したくなり、何度もページを繰った。

 人それぞれがかかえるトラウマとアマゾンに伝わる風土病をうまく結びつけ、自己啓発セミナーの奇怪な実態で味付けする作者のストーリーテリングの腕は並々ならないものを感じさせる。完全に貴志ワールドにはまってしまった。
 「地球〈ガイア〉の子どもたち」なる自己啓発セミナーの存在が不気味だ。かつてその手のセミナーに参加した者だったら、あの時の一時的な性格改善がこの小説に描かれているようなカラクリみたいなものに起因するのかと、フィクションだとわかっていても肝を冷やすだろう。

 それにしても線虫による人体への寄生作用、影響はどこまでが本当のことなのだろうか。

     ◇

1999/08/30

 「バースディ」(鈴木光司/角川書店)

 「ループ」で完結したはずの「リング」「らせん」の物語。その最終作として新聞に掲載されたこの本の広告を見た時、いったいどんな展開になるのだろうかと驚いたものだ。聞けば前3部作のインサイドストーリーだという。うまい商売だと思う。
 「らせん」で貞子の犠牲になる女子大生・舞の出産シーンを描いた短編「空に浮かぶ棺」、かつて貞子と恋仲にあった音楽ディレクターの回想で若き日の貞子を描く中編「レモン・ハート」、「ループ」のアフターストーリー、本当の意味での完結編「ハッピー・バースディ」で構成されている。

 この3編も「リング」「らせん」「ループ」の3部作同様、最初から連作という考えはなかったのではないか。
 編集部の要請によりたまたま「らせん」のインサイドストーリーを書いた。1冊にまとめるにあたって、収録する作品を検討すると、どうせなら連作にしたらいいのではないか という案がでた……。
 最初の短編以外は書き下ろしというのがそう考える所以である。それにしても鈴木光司のまとめあげる技術(というか才能なんだろうな、やっぱり)には驚嘆する。

 3部作と同じ構成をとり、前作を踏襲しながら、物語を展開させ、ラストはちゃんと生への希望を謳い上げながらある種ハッピーエンドに仕上げるなんて職人技と言えるかもしれない。




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プロフィール

kei

Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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