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1999/09/07

 「朝霧」(北村薫/東京創元社)

 文学少女の〈わたし〉と落語家・円紫コンビが日常のさりげない謎を解く短編連作集のシリーズも(長編も含め)5冊めになった。
 作者のデビュー作でもあった1作目「空飛ぶ馬」の衝撃は忘れられない。ただ回を重ねるにつれ、ヒロイン〈わたし〉のキャラクターがどうも鼻につく存在になってきている。
 本が好きで日本文学、古典に造詣が深く、聡明でおしとやか、性格もよく、おまけに落語が好き。今時、こんな若い女性がいるのだろうかという疑問が1つ。
 〈わたし〉が作者の趣味を投影し、理想化した女性だというのはわかるが、あまりにも天使のように描かれていることが回を追うごとに明確化していることが鼻持ちならない。
 とはいえ、作品そのものは面白い。
 表題作の「朝霧」はパズルの解明に四十七士の墓石をうまくからませ、明治時代の若い男女のほのかな恋愛をさりげなく描いた佳品である。トリック部分は本格派の趣きすらあり、それを日常の中にうまくとけこます技が北村薫らしさといえるのかもしれない。
 〈わたし〉の恋愛を感じさせるラストの余韻がいい。

     ◇

1999/09/09

 「墓地を見おろす家」(小池真理子/角川ホラー文庫)

 友人からいらなくなった文庫本をもらって、絶対に読まないと思えるものはすでに処分し、後で読もうととっておいたものの1冊。角川ホラー文庫なのでけっこう期待したのだが……。
 主役の夫婦がバカなので始終イライラしていた。
 目の前を墓地、左右を寺と焼き場に囲まれた新築マンションに越してきた一人娘をもつ夫婦が、マンションに巣食う亡霊に襲われていく恐怖を描いているのだが、あんたら襲われても仕方ないわと、納得せざるシーンが多すぎる。
 エレベーターしか通じない地下室をみても何とも思わない。これだけで欠陥マンションだと見抜けないのか。僕だったら、まずなぜ地下に通じる階段がないのか、業者に問い合わせますね。  
 異常が見られるエレベーターにその後何度も利用する。いくら8階のフロアにすんでいるといっても、すでに怖い思いをしているわけだから、普通の感覚なら使用しないのではないか? あるいはまた寝ているとはいえ子どもを部屋に一人っきりにさせる行為も信じられない。
 確かに怖いシーンはある。夢中でページを繰ったことも否定しない。しかし、設定がすべて作者が用意している結末のためのものだから、共感できないのだ。
 だいたい墓地の前に建った、または地下が墓地につながっているといって、なぜマンションの住民が亡霊に襲われなければならないのか。あまりに後味が悪すぎる。

     ◇

1999/09/20

 「催眠」(松岡圭祐/小学館)

 わかっていたことではあるが、映画とは全く違う話であった。きわめてまっとうなミステリであり、事件の解明に心理学、カウンセリング、催眠療法等普段なじみのない小道具が使用されることで、興味深い物語になり最後までダレることなく読ませるものになった。
 ただ、あくまでも水準作といった程度。見せ場として劇的な展開があるわけではなく、この話自体を映画化してもさほど面白いものになるとは思えない。映画化にあたって内容を変更した製作者たちの考えはわかる。(が、なぜこの内容をホラーにするのか理解できない。同時期製作に「39 刑法三十九条」という同ジャンルの映画あったからか、「リング」以降ホラーブームが起こったからか。)
 
 主人公の臨床心理士・嵯峨と多重人格者・入江由香との関係を縦糸に同僚の女性臨床心理士と彼女のクライエント、その家族とのカウンセリングをめぐる対立、上司である部長の別れた妻(脳外科医)が担当した脳手術にまつわる事件を横糸に物語は進む。
 事件そのものより、嵯峨をとおして語られるジャンケンに必ず勝つ方法、コインを持つ拳を瞬時にわかる方法など心理学を応用した手品の種あかしが面白かった。

 今月発売の「噂の真相」には作者・松岡圭祐の経歴についてのいい加減さを追求する暴露記事が掲載されている。その中で松岡が映画の内容に異議をとなえたことに対して映画会社側が松岡の小説に価値があるのでなく、落合監督のシナリオだから映画化するのだ、と言ったとか。
 この記事を書いた記者は「催眠」の小説を読んだことも映画も観ていない人だろう。

 本当に日本の精神医学では多重人格は認められていないのだろうか?

     ◇

1999/09/21

 「蟲」(坂東眞砂子/角川ホラー文庫)

 友人からもらった文庫本の1冊。コピーにある湿った恐怖とは何だろうか。タイトルのおどろおどろしさ、作者が坂東眞砂子ということで大いに期待した。
 読み進むうちに、これは夫婦がむかえざるをえない永遠の問題(OLから専業主婦になった女性が世間から感じる疎外感、あるいは妊娠に伴う情緒不安定、夫への不倫疑惑、それが高まってのノイローゼ)を描いた物語ではないかと思った。
 常世蟲という京都に伝わる興味深い伝説と意志の疎通がうまくいかなくなった、都会で暮らす若い夫婦の仲が崩壊していく様をうまく結びつけて、土着的なホラーで味付けしたアンチ恋愛小説ではないか、と。
 エピローグでそういうオチがつくのであるが、何やら本当に世界の破滅をにおわすラストで、読後感はいいとはいえない。
「死国」もそうだったが、方言を会話の中にうまく取り入れている。この方言が作品世界にリアリティを与えている。

     ◇

1999/09/25

 「ファミリー」(森村誠一/角川ホラー文庫)

 友人からもらった本。
 この夏、TBSの月曜スペシャルドラマでドラマ化され、最後の部分だけ観ていたので、ラストのドンデン返しはわかっていた。が、小説ではその後また不吉な展開を予想させる終り方をしている。ホラー小説とは読後感を悪くさせなければいけない法則みたいなものがあるのだろうか。
 森村誠一の本は久しぶりだ。ちょっと肩の力を抜いたような、悪く言えば適当に書いたとも思える。登場人物たちを(ヒロインでさえ)突き放した感じで描くので、なかなか感情移入できないのである。
 ラストの落ちが(設定も)あまりにも現実離れしているのもいただけない。




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プロフィール

kei

Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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