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1999/10/04

 「千里眼」(松岡圭祐/小学館)

 「催眠」の続編とうたっているにもかかわらず、登場人物に関連性はない。ヒロインは前作の主人公・嵯峨と同じく心理カウンセラーなのだが、勤めるセンターも別設定なのである。
 どこが続編なのかといえば、物語の後半に映画「催眠」の出来事を1エピソードとして挿入し、映画の中でオカルト的に扱われた催眠による一連の事件をを科学的に証明してみせるくだりである。
 自信作を改悪されたことへの作者のアンチテーゼというか映画化作品にオトシマエをつけたと考えるべきか。

 冒頭から総理府にむけて発射されるミサイルを停止させようと米軍、自衛隊、カウンセラーたちが入り乱れての騒動が描かれる。
 刻一刻と発射の時間が迫る。敵に入力されたパスワードをヒロインが心理学を駆使して解読していく。訂正は2度まで。3度間違えるとミサイルは否応無しに発射されてしまうのだ!ここらへんのスリル&サスペンスはまさしく映画のもので作者は映画化を前提にしてこの物語を構築したと思える。 小道具一つひとつが映画的なのである。作者の映画「催眠」に対する不信感を感じずにはいられない。
「どうせ映画にするなら、このストーリーをを映像化してごらん」
 そんなメッセージが聞こえてくるようだ。

 元自衛隊のエリートパイロットで現在は心理カウンセラーという少々無理のあるヒロインの設定にもクライマックスの興奮に許してしまった。このクライマックスのF15によるドックファイトシーンをぜひとも「映像」で観てみたい。
 全体の設定そのものに無理があることは作者自身わかっていることだろう。一つひとつ指摘しても意味がない。勢いで読ませるある種荒唐無稽な小説なのだ。まさしく極上のエンタテインメントではある。

 本格的に映画化するのだったら、ミステリとアクションが融合した面白い作品になると思う。テイストはジェームス・キャメロン監督の「トゥルー・ライズ」みたいな。

     ◇

1999/10/19
          
 「忠臣蔵コレクション4 列伝篇 上下」(縄田一男編/河出文庫)

 この河出文庫版の「忠臣蔵コレクション」は本伝篇と異伝篇の2冊で完結と思っていたら、列伝篇上下があってあわてて借りてきた。

 時代小説の大御所たちの短編が網羅されていてなかなか読み応えがあった。
  「列伝篇 上」では池波正太郎の「火消しの殿」、直木三十五の「寺坂吉右衛門の逃亡」、多岐川恭の「夜逃げ家老」、井上ひさしの「毛利小平太」が面白かった。いわゆるアンチ赤穂義士という味わいがあるからだろう。
 「火消し殿」は浅野家に小姓としてとりたてられた美貌の青年からみた浅野家断絶が描かれている。何より内匠頭の男色、その執着ぶりを上野介にとがめられたことが刃傷の原因だったというのが興味深い。
 足軽の悲哀がにじみでていたのが「寺坂吉右衛門の逃亡」。討入り寸前まで他の浪人たちと差別された寺坂が怒って、討入り最中に逃亡、しかし死人に口なしで「討入り成功の報告」をするという口実で関係者を訪ね歩き寺坂自身が後世に名を残すという趣向。伝説を逆手にとった解釈でなるほどある部分納得してしまった。
 討入り直前に脱盟した毛利小平太がなぜ脱盟したのか、その理由を描いたのが「毛利小平太」だ。吉良側に正体がばれてしまった毛利を逆に赤穂側が利用する。動向を見守られている毛利自身は討ち入りに参加できないということで、それを聞かされ愕然となった毛利は逃亡を図るのだった。これも哀しい話である。

  「列伝篇 下」では、澤田ふじ子「しじみ河岸の女」、菊地寛「吉良上野の立場」、長谷川伸「小林平八郎」、湊邦三「元禄武士道」が印象に残る。
 若い浪士と娼枝に身を落とした幼なじみの心中に大石内蔵助に非情が関係していることを鮮やかに描く「しじみ河岸の女」、普通の感覚で読めば当たり前のことで、なぜこれが世間に受け入れられないのだろうかと思える「吉良上野の立場」、吉良側の人間模様の「小林平八郎」、まさに正統派忠臣蔵のエピソードであり、主人公の浪人と弟子の関係が心暖まる「元禄武士道」。
 忠臣蔵を取材した短編というのはどのくらいあるものだろうか。全く違ったテーマで書かれたものでも連続して読むと、ちょっとした連作集の趣きがあるのが不思議だ。

     ◇

1999/10/25

 「のり平のパーッといきましょう」(三木のり平/聞き書き 小田豊二/小学館)

 ページから三木のり平の肉声が聞こえてくるようだった。
 以前に読んだ「渥美清 わがフーテン人生」、あるいはそれを元に聞き書きした著者によって新たに編まれた「渥美清 役者もつらいよ」の語りの部分はいかにも作られた言葉って感じがしたが、本書は違う。たぶんにフィクションも含まれているのだろうが、三木のり平のシャイな、神経質そうでいて図太い性格、芝居に対して一途な思いが行間から伝わってくるのである。

 三木のり平の芸についてあれこれ言う資格は僕にはない。三木のり平その人については小さい頃から桃屋のCMで親しんできた程度で、伝説の舞台「雲の上団五郎一座」も、映画「社長」、「駅前」シリーズも観たことがない。
 初めてその芸に触れたのが市川監督の「金田一」シリーズだった。ほんのチョイ役で画面に登場するだけにもかかわらず、抜群の面白さ、印象度でそれから僕なりに注目していた。
 口跡とかしぐさにその芸を感じさせる喜劇人がどんどん亡くなっていく。フランキー堺、渥美清、そして三木のり平……。時代の流れだから仕方ないと言えばそれまでが。

 聞き書き(語り)の文章に話芸の一端が垣間見られ、聞き惚れてしまう。
 自身の出演した映画をうんこだと言い、全く否定しているけれど、その映画に芸が記録され、最高と自負している舞台が後世に残らない現状が皮肉である。
 単なる編年体はイヤだよと言う三木のり平の要望通り、最終章は著者がこの本を作成するために三木宅を訪ね、帰る、最初の出会いの顛末が綴られている。
 ラスト、夜雪の中を帰る著者に向かっての三木の独白がまるで芝居のフィナーレみたいで余韻を残す。
 後世に残る貴重な芸人の記録である。




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Comment
松岡圭祐を語る
「催眠」「千里眼」エンターテイメント作品として小生は評価しています。松岡圭祐は千里眼シリーズに多くのエピソードを展開しており、万能鑑定士Q、特等添乗員α、水鏡推理、探偵の探偵、などのシリーズ、荒唐無稽と言ってしまえばそれまでですが、そこはお話ということで素直に主人公の活躍を楽しむという事で好きです!
HAL さん
私、松岡圭祐は「催眠」と「千里眼」以外は読んでいないんですよね。
あっ、「人造人間キカイダー The Novel」を読んでいます! 
「千里眼」がシリーズになったのは知っていました。
おいおい、そんなにアイディアあるのか、と心配していたところがあります。ほかにもいろいろシリーズがあるんですね。
No title
これまでに映画化されているものが幾つかありますが、万能鑑定士Q以外は駄作というか特撮が最悪で観ていられませんw
HAL さん
映画は、「千里眼」以外観ていません。まあ、劇場に足を運びたい、DVDをレンタルしたいと思わせないんですから、仕方ありません。小説の方も追いかけたいという気持ちになれなくて……。
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プロフィール

kei

Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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