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 好きな著名人(俳優、歌手、監督、作家等々)の訃報に接すると、追悼の意味を込めて個人的な思い出を綴っていたが、今年になってやめた。僕自身がもうすぐ還暦を迎えるのだ。両親世代がそういう年齢になっていることはもう何年も前からわかっていたこと、仕方のないことで、また、書いていて空しくなってくるからだ。死をネタにしているのかと。

 土屋嘉男の訃報が流れたのは最近だが、実際は2月に亡くなっていたという。子どものころは特撮映画で、大人になってからは黒澤映画でお馴染みの俳優さん。

 「思い出株式会社」の中に愛犬との交流模様を綴ったものがあり、朗読に使いたいと思った。紙ふうせんの、犬をテーマにしたある楽曲とのコラボを考えていた。許可を得るため手紙を書こうかと思いながら結局果たせなかった。

     ◇

1999/12/03

 「クロサワさーん! 黒澤明との素晴らしき日々」(土屋嘉男/新潮社)

 羽田図書館で見つけさっそく借りてきた。

 土屋嘉男はすごい俳優だと思う。黒澤映画の常連で東宝特撮映画でも印象的な役を演じている。  
 日本が世界に誇る映画の両方に顔をだしているのだから、これはやっぱりすごいことだ。

 この本は「七人の侍」でデビューした著者の、俳優の立場から見た「七人の侍」メイキング本といった体裁。おもしろいエピソードが満載されていて興味がつきなかった。

 黒澤明に気に入られ、デビュー当時は黒澤家に居候していた関係もあり、素顔の黒澤明に活写されいて新しい発見もあった。
 二人が前の晩に見た夢を語り合う習慣があったというのは、ほほえましいエピソードで、「夢は天才である」と語った黒澤監督の面目躍如といった感じ。また僕自身夢の話をするのが大好きなので親しみを覚えた。
 映画「夢」の中に、富士山が爆発して、原子力発電所を破壊、放射能が日本全土を覆い、人々が逃げまどう様子を描いたエピソードがある。劇場で観た時の印象として、確かに狐の嫁入りや雛祭りはかつてみた夢の話なのだろうが、放射能に関しては夢の具現化ではなく、監督自身のメッセージ色が強いと思えた。ところが実際に放射能に追われる夢をみているのを知った。突然部屋にカバが訪問してきたり、なかなかぶっとんだ夢が語られているが、中でもすごいのが巨大な女性のあそこに落ちて、もがき苦しむ夢がすごい。
 やはり世界のクロサワは凄い!  土屋嘉男の文章は一見硬そうで、実は軽妙洒脱、すぐに世界に引き込まれた。黒澤監督が彼のエッセイを認めたというのもわかる。「思い出株式会社」も読んでみたくなった。

     ◇

2001/09/17

 「思い出株式会社」(土屋嘉男/清水書院)  

 俳優・土屋嘉男が書いた本書を羽田図書館のエッセイ、随筆の本が並んだ棚で最初に見かけたのはずいぶん前のことだ。いつも棚にあるので、ほとんど貸し出されたことがないと思われる。  
 土屋嘉男は好きな俳優だけれど、映画やTVについてではなく、自分の少年時代の思い出を記したもので、特に興味はわかなかった。ところが「クロサワさーん! 黒澤明との素晴らしき日々」を読んで気が変わった。文章がかなり面白いのだ。「クロサワさーん!」読了後、すぐに借りればいいものの、それはほら、いつも棚にあるから安心しきってしまって手にすることがなかった。録画しておいていつか見ようと思いながらそのままになってしまうTV番組になりそうなので、やっと重い腰をあげた次第。  

 巻頭の写真がユニークでかわいらしい。トライアングルに位置した3匹の飼猫が著者を前にして頭を垂れて反省している構図。飼主との信頼関係が一目でわかる。  

 著者の故郷は長野県の甲府盆地。大菩薩峠の登山口にある塩山市。いやはや何て素敵な少年時代をおくった人なのだろう。一つひとつのエピソードが輝きをもって僕の胸にせまってくる。  
 収録されて思い出話はもともとテレビ朝日「徹子の部屋」に出演した際に語ったものが中心になっているらしい。「徹子の部屋」で語る話が好評で、すでに出演は15回を数えているとか。その面白さは本書を読めばわかる気がする。さぞスタジオは笑いに包まれたことだろう。    

 少年時代の著者をとりまく環境がうらやましい。自然と生活が一体化している。  
 雨の日でも庭の花々に水をやる父親は町の名士でよくできた人だったらしい。やさしい祖母、弟をからかう姉たち。著者のその後の人生をぴたりと当てた手相見の乞食じいさん。町の不良たちと喧嘩して、負かしてしまうお手伝いのトミ江さん。手癖の悪いゴシやんや愛犬エスとの交流。芋泥棒たち……。   
 登場する人物もまるで映画やTVに出てくるようなユニークなキャラクターばかりなのだ。  

 著者が体験した〈三つの謎〉が興味深い。祖母といっしょにお化けのオビンズル(目、鼻、口のない大きな耳を持つ少年)を目撃したこと。突然、空から自分を照らした光、そしてUFO(らしい)物体。特に著者一人だけでなく祖母も一緒に見ているオビンズルの正体はいったい何だったのだろうか。  

 後半の戦中時代の話はまるで土屋版「少年H」の趣きがある。〈四人の鼓笛隊とバンザイおばさん〉はおかしさの中に戦争の犠牲者の悲哀がにじみでている。  
 〈秘密にされた大地震〉には驚いた。昭和19年12月7日に熊ノ灘沿岸を震源地にしたM7.9の大地震は当時はもちろん今でも知らない人が多いのではないか。    

 クラシックが好きで音楽(バイオリン)を志し、戦争のため断念せざるをえなくなると、次に医者になろうとして、結局役者になってしまった紆余曲折の人生。  
 東京で仲間とともに住んでいたアパートの一室が夏休みの間留守にしていると、大家が無断で他人に賃借してしまい(これもひどい話だ)、仕方なく鶏小屋に間借りしてしまう大らかな性格。  

 俳優・土屋嘉男に対する見方が変わってしまう本である。




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プロフィール

kei

Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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