2001/08/01

 「ココニイルコト」(シネスイッチ銀座)  

 映画サービスデー。混雑している「猿の惑星」は無視して今週で公開が終了する「ココニイルコト」に足を運んだ。  
 映画が公開される前、製作に絡んでいるテレビ朝日のパブリシティ番組にたまたまチャンネルを合わせたら「ココニイルコト」の1シーンが流れていた。映画については全く予備知識がなく(映画が製作されていたことすら知らなかった)、主演女優はズブの素人だと思いながらTVを観ていたのだが、ヒロインの声や表情が妙に気になった。その後主演者へのインタビューで女優が真中瞳だと知った。「ニュースステーション」のスポーツコーナー担当のタレント。といっても僕はよく知らない。  
 異邦人として訪れた大阪でヒロインが自分の行き方を見つめなおすストーリーだと知り、そんな映画を映画館で鑑賞するのもいいかなと思った。
 
 ある時期まで、映画館(の大きなスクリーン)で観るのは超大作、SFや活劇などの迫力ある映像を堪能するため、それ以外のごくごく一般の小品な映画はビデオで十分と考えていた。その考えを改めたのは市川準監督「トキワ荘の青春」をビデオで観た時だった。一定時間暗闇の中で神経を集中させてスクリーンに向き合い、映画が醸し出す雰囲気(台詞、音楽、効果音、ノイズ等々)を肌で感じて心地よいひと時をすごす。そんな映画もあるのだと。  

 広告代理店のクリエイティブ局に勤務するコピーライターの女性(真中瞳)が上司との浮気がばれ、上司の妻から50万円の手切金を渡されると同時に大阪支社の営業局に左遷させられるところから映画は始まる。
 もともとやる気がないところに営業局勤務と聞いてアパートを探す気力も失せ、ホテル宿泊費として50万円を使い切ったら会社を辞めようと考える彼女に何かと世話をやくのが初出勤日に中途入社してきた「ま、ええんとちゃいますか」が口癖のいつも笑顔の青年(堺雅人)。クライアントの社長を接待の席で怒らせてしまった彼女を青年が機転をきかせて助けたことから二人は親しくなっていく。青年の笑顔、言動、趣味の一つひとつが彼女の乾いた心を癒していき、仕事も自分の企画が採用され、広告制作を担当、クリエイティブ局に配属になることを暗示させながら、映画は終わる。  

 ヒロインが大阪にやってきたその日タクシーから今では梅田名物になっている「HEP FIVE」の観覧車を見て寝ぼけながら「ビルから観覧車が突き出ている、私夢見てるのかしら」なんて言うのだが、流行に敏感な広告代理店の最前線で働く女性がオープン時メディアで大いに話題になったショッピングセンタービルを知らないはずがないではないか。なんて突っ込みをしたくなったが後は全編に渡って笑いに包まれ、ことさら涙をさそう過剰な演出もなく好感を持った。
 監督はこれがデビュー作の長澤雅彦。最相葉月の「なんといふ空」に収録されているエッセイが原案。タイトルは主題歌に使用されたスガシカオの歌からとられている。  

 相手役の堺雅人(「ウルトラマンガイヤ」の主役・吉岡毅志とウッチャンを足して長身にした感じ)のほのぼのとした感じ、コテコテの大阪(大阪人)を描いていないところがいい。さりげない関西弁が耳に心地よい(TVで連発する関西芸人の言葉とあきらかに違うと思う、すーと心に入ってきます。だから私、普通に大阪弁をしゃべる女性って好きなんです。人に言うと珍しいと面白がられるのですが)。  
 青年やクライアントの社長(島木譲二)が阪急ブレーブスの熱狂的ファンというのも、後半のエピソードの伏線になるほかにコテコテ感を避けた結果ではないかと勝手に思ってしまう(普通だったら阪神タイガースでしょう、やっぱり)。大阪名物通天閣には青年が高所恐怖症ということで登らないし、寝ているだけという笑福亭鶴瓶の起用もうまい。  
 持病の心臓病が悪化して自宅療養中の青年が日中窓から眺めていた〈星空〉のからくりがわかるラストは、実際に星が美しく輝いていて心洗われた。  

 深く感動するという映画ではない。が、映画館を出る足取りは妙に軽い。気分がいい。だから久しぶりにPRONTに寄って一人で生ビールを飲んでしまった。

     ◇

2001/08/03

 「レクイエム・フォー・ドリーム」(シネセゾン渋谷)  

 内容はもちろんのこと、映像と音楽に圧倒された。観終わってからしばらく言葉がでてこなかった。こんなことは久しく経験したことがない。  
 またまた自分の無知をさらけだすことになるが、シネセゾン渋谷の劇場招待券をもらうまでこの映画についてまったく知らなかった。  
 監督のダーレン・アロノフスキーは単館ロードショーで大ヒットした「π」でその名を知られた人。「π」はその噂を聞くにつれ公開時から興味があったものの見逃し、ビデオになってからはいつでも借りられるのに安心して未だに観ていない。
 だからどんなタッチの映画だかわからない。ただ麻薬を題材にしたクライマックスが衝撃的で非常に怖い映画だと知るのみだった。  

 原題(ポスターのタイトル表示)は「REQIEM 4A DREAM」。  
 麻薬常習者である3人の男女、覚醒剤中毒になってしまった孤独な老女(主人公の母親)。映画はこの4人がそれぞれの快楽の後にむかえる悲惨な結末を斬新な感覚で描いている。つまり4人へのレクイエム(鎮魂曲)というわけだ。映画の中で始終流れるテーマ曲が鎮魂曲だろうか。上映前から場内に流れていたこの曲(音楽:クリント・マンセル、演奏:クロノス・クァルテット)が僕の琴線にビシビシ触れた。もうそれだけでもこの映画は〈買い〉だ。  

 冒頭、主人公が母親のTVを盗もうと母親と室内で騒動を巻き起こすシーンで画面が2つに分割される。こういう演出嫌いだなあ、アフロスキー監督ってこういうセンスの人なの?なんて思いながら、スクリーンを見つめていると、あらかじめ2台のキャメラで狙っているのか、まさしく時の同時性が感じられて見慣れてくるとこれがなかなかいい。
 あるいは主人公たちが麻薬を打つシーン。開く瞳孔、伸縮する血管。ラリる寸前をそれっぽく描写する。一部ミュージッククリップみたいな映像も散見するが、ただそれだけの映画ではない。
 男女3人の破滅ぶりは身から出た錆ともいえる。しかし主人公の母親が意識もせずに覚醒剤に汚染されていく過程が衝撃であり、恐怖である。  

 夫に先立たれ、TVを見ること、食事すること、アパートの同年代の仲間とともに日光浴をする以外は楽しみのない母親(エレン・バースティン)はある日、テレビ局から毎日夢中になって見ている番組への出演権が送られてきてすっかり有頂天になってしまう。日光浴の特等席を与えられ(これが哀しい)、出演する際には想い出の赤いドレスを着ようと久しぶりに袖をとおすと、太ってしまって着られない。ダイエットを決行するが、うまくいかなくて病院にかけこむ。医師が出す薬は実は覚醒剤なのだが、そうとは知らず彼女は毎日薬を飲みつづけ、徐々に精神と身体が蝕まれていく。
 家に顔をだした麻薬中毒の息子(ジャレッド・レト 若き日のアラン・ドロンをちょっと崩した感じ)が「覚醒剤は身体によくない」と忠告するところはブラックユーモアの極致だ。
 彼女が体験する妄想はかつて躁病を体験した僕には形は違えど他人事には思えない。だから余計にのめり込んだのかもしれない。
 彼女の狂っていく姿、放心状態で街をさまよいTV局に押しかけるシークエンスは西川口で見かけるホームレスの女性の姿がダブって胸を締めつけられた。
 エレン・バースティンの演技を見るだけでも価値はある。

 サウンドトラックはすぐに買うだろう。
 とにかくインパクトという点では2001年で観た映画の中で今のところベスト1だ。

     ◇

2001/08/30

 「真夜中まで」(テアトル新宿)  

 和田誠の監督作品を初めて映画館で観た。  
 デビュー作の「麻雀放浪記」は麻雀にまったく興味がない(ルールを知らない)のでパス。「快盗ルビィ」は別に小泉今日子のファンでなかったからチェック必要なしの判断。「怖がる人々」はかなり興味がわいたものの一度TV放映で途中まで観て、後でビデオ借りようと思いつつ結局そのままになっている。  
 今回はジャズをフィーチャーしていると知って足を運んだ。  

 映画ファンはなぜかミステリー好きでありジャズ通といわれる。  
 ジャズはわりと好きな方だけど、全然詳しくない。以前、マイルス・デイビスの「死刑台のエレベーター」のCDを探し求めたことがあった。タイトルもアーティストの名前もわからず、「TVでミステリアスな場面に必ず流れるトランペットのアノ有名な曲」と何人ものジャズ好きな友人、知人に尋ねまわってやっと判明した曲だった。マイルス・デイビスの名も「死刑台のエレベーター」の映画も知っていたのにジャズに限ってはこの程度の知識しかないのだが、何気なく聴く分には心地よい気分になれる。  

 映画は真田広之扮する主人公のトランペッターが自分のカルテットで演奏するシーンから始まる。曲は「ラウンドミッドナイト」。ジャズといえば個人的にはサックスという思いがあるのだが、トランペットもいいと思った。というか一番しっくりくる。  
 ジャズの話ではなかった。  

 夜のライブを終え、休憩のため外に出た主人公は、殺人を目撃して犯人に追われる中国人ホステスを助けたことから、一緒に逃げ出すはめになる。殺されたのは中国人ホステスが働くクラブの経理担当者でホステスの恋人。犯人はクラブ経営者と太いパイプでつながる悪徳刑事二人。恋人が残したある証拠を求めて、主人公は次のライブ開始の時間(夜中の12時)まで悪戦苦闘するお話。  
 ハードボイルドミステリのテイストにジャズをブレンドした大人の映画ファンのためのお伽話といった感じ。映画内の時間がそのまま上映時間になっていたと思う。  
 あまり日本を感じさせない風景の切り取り方(といっていかにも外国というのでもない)がこの映画にはフィットしていた。白熱灯の暖かさを強調したナイトシーンもいい。  
 アクション俳優から脱皮した真田広之にはある種のクサさがあっていつも気になっていた(あと三上博史、オレこんなに考えて演技しているんだぜ、って声が全身から聞こえてきません?巧いなって思うことも度々あるけど)。この映画でもそういう部分がなきにしもあらずだけど、トランペットの演奏が様になっていたのはさすが(当然音は吹き替え)。どんな時でもトランペットを放さずアクションをこなしてしまうのはかっこいいのだけれど、プロのトランペッターが大事な商売道具をそんな風に扱うだろうかと素人目でもおかしいと感じる。でも、まあ、映画だから、さ。  
 悪徳刑事役に岸辺一徳と國村隼の名脇役ブラザース!クラブの用心棒役には柄本明とキングコング(みたいな人、名前わかりません)。柄本明は最近ホントおいしい役やるなあ。  

 この映画のもうひとつの楽しみは数々の著名人によるカメオ出演。単なる顔見せでなくちゃんとストーリーに合わせ、いかにもな雰囲気を醸し出しているところがいい。冒頭の演奏シーンで客席に大竹しのぶがいて主人公にからむシーンでびっくりしていたら、次々に出てくる出てくる。三谷幸喜の変人ぶりはCMでもお馴染みだけれどやっぱりおかしい。  
 エンディングロールでも笑わせてくれ(だからクレジットでキャスト、スタッフが確認できなかった)、観終って充実した幸せな気持ちになれること間違いない映画である。




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Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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