2001/12/04

 「かあちゃん」(日比谷みゆき座)

 この数年邦画では時代劇がちょっとしたブーム(というものではないか)になっている。時代劇というと武士(侍)が主人公で、斬り合い(アクション)がお目当てになってしまいがちだ。もちろんそういう映画も好きである。が、時代小説の面白さに目覚めた者として、切った、張ったの世界ではないもっと庶民の暮らしに焦点を当てた江戸の情緒を前面に押し出した作品もあっていいではないか、と思う。
 フジテレビで定期的に放映されている「鬼平犯科帖」など、たぶんにその傾向が強いのかもしれない。とはいえやはり昔ながら捕物帖の範疇に入るだろう。NHK「茂七の事件簿 ふしぎ草紙」も事件そのものより人の心のうつろい、襞に触れたこれまでにない捕物帖でありかなり健闘していたのだけれど同じことがいえる。  
 「ビックコミックオリジナル」に連載されている「あじさいの詩」みたいなほのぼのした世界を映画化できないものかとずいぶん前から考えているのだが(主人公の男の子の父親(浪人)に藤竜也かショーケン、殿様にいかりや長助とか。知らない人には何のことだかわからないですね)。  

 で、市川崑監督が人情時代劇「かあちゃん」を撮ると知った時は快哉を叫んだ。主演は市川監督の代表的な作品(「おとうと」「悪魔の手毬唄」「細雪」等)で印象的なヒロインを演じた岸恵子。映像は「おとうと」や「幸福」、昨年の「どら平太」のオープニング&エンディングで採用された銀残しといわれるモノクロとセピアの中間みたいなカラー(シルバーカラーというのだそうな)。期待するなというのが無理というもの。  
 ロードショーされてから公私に忙しくなかなか観に行く機会がなかったが、和田誠と森遊机が市川作品の魅力について語り合った「光と嘘、真実と影」を読んだら、もういてもたってもいられない。  

 平日の最終回だとしてもみゆき座はあまりに客が少なかった。だだっ広い劇場内にお客は僕を含めて20人ほど。混雑なんて予想していなかったが、もう少し年配客が多くてもいい。市川監督作品だからということは別にして、ヒットしてくれないと二度とこの手のジャンルの時代劇が作られなくなってしまうからだ。

 時は天保の大飢饉の頃。江戸のとある貧乏長屋に住むおかつ(岸恵子)一家は家族総出で働きづめ、つきあいもそこそこにかなりの金をためているとの噂が囁かれている。生活に貧窮した青年(原田隆二)が噂を聞きつけ、夜遅くこの家に泥棒に入るが運悪くおかつに見つかってしまった。おかつはなぜ自分たちが金を貯めているのか、青年に説明する。理由を知り改心して立ち去ろうとする青年。そんな青年をおかつは引き止め、家族の一員として面倒をみてやるのだった。  

 原作は山本周五郎。脚本は和田夏十がかつて書いた中篇を竹山洋と市川崑が手を加えている。  
 本筋に入る前にくすぐりがあって、話そのものも落語の人情噺といった感がある。  
 貧乏長屋のセットやそこでつつましく暮らす人たちの模様が銀残しのやさしく暖かい映像にぴったりはまった。和田誠のイラストを使ったタイトルもいかにも市川監督らしい処理の仕方、特太明朝体のクレジットが気持ちいい。  

 メーキャップのせいもあるのだろうか、岸恵子がとても老けている。年齢を考えれば当然なのだが、「約束」の30代の頃の姿を拝見したばかりなので、特にその思いが強いのかもしれない。でもきれいだし気品がある。市川作品で岸恵子が演じる女性は一本筋が通った、凛とした姿、たくましさを感じさせるところが共通している。  
 居酒屋で噂話に高じる暇人カルテット(春風亭柳昇、中村梅雀、江戸屋小猫、コロッケ)の会話が楽しい。特に中村梅雀の江戸弁が耳に心地よい。長屋の大家に扮する小沢昭一の身振り、手振り、口跡もたまらない。小沢昭一が登場するともろ落語の世界だ。楽しみにしていた仁科貴(川谷拓三の息子、「茂七の事件簿 ふしぎ草紙」の茂七の子分役以来注目している)は岡っ引きでラスト近くに一瞬の出演、ちょっと物足らない。  

 話はほとんどおかつの家、居酒屋、長屋の内外とほとんどセット撮影だが、青年が一度おかつの家から逃げて一人娘が追うシーンで広大な平原がでてくる。遠景はCG処理されているロケーション撮影だが、これが効果的だった。  
 しっかり市川作品の常連役者になった宇崎竜童の音楽もまったく宇崎節でないユニークなもので印象に残る。

     ◇

2001/12/18

 「ハートブレイカー」(渋谷公会堂 試写会)  

 シガニー・ウィーバーはハリウッドを代表する〈色気のない女優〉なのだそうだが、本当にそうなのだろうか?  
 これは個人的な趣味だから一般論として通用しないのは百も承知しているけれど、僕自身は普段それほど色気(流行り言葉でいえば〈フェロモン〉か?〉を感じさせない女性がふと見せる色っぽいしぐさや表情にたまらない魅力を感じてしまう。逆にお色気ムンムンだと、もうそれだけである種の壁みたいなものを作ってしまって受け入れられない。  
 変な例だが、たとえば叶姉妹なんてどこがいいのかわからない。あの手の女性に鼻の下を長くしてしまう男性の心情が理解できないのだ。  

 シガニー・ウィーバーは、確かに出世作「エイリアン」シリーズでは男勝りのヒロインだったし、その他でもキャリアウーマン的な役柄が多く、色気とは無縁な存在といえなくもない。が、「エイリアン」第一作のラストで見せた半ケツ状態のパンティ姿の衝撃は忘れられない!結局のところ、僕のシガニー・ウィーバーに対する印象はあの小さな小さなパンティからはみだした尻の割れ目だったりするわけだ。  
 てなわけで、シガニー・ウィーバーは決して〈色気のない女優〉ではない(「ゴーストバスターズ」でもけっこうこちらの気持ちを欲情させてくれる役柄だったよう気がする)。やる時はやるのです。  

 その見本がこの「ハートブレイカー」だろうか。  
 結婚詐欺を働き、世の男性からしこたま金を奪い取る母娘(シガニー・ウィーバー&ジェニファー・ラヴ・ヒューイット)が巻き起こすコメディ映画。  
 冒頭でシガニー・ウィーバーとカモの新郎である盗車専門のディーラー社長(扮するは「ハンニバル」で脳みそを食われたレイ・リオッタ)の結婚式、その新婚初夜の様子が描かれる。  
 パーティーを終え、やっとふたりっきりになった新郎は早く妻を抱きたくてたまらない。ドレスを脱ぎ捨て新郎を欲情させる新婦はじらしにじらした末酔っぱらって先に寝てしまう。翌日下半身をうづかせながら新郎が出社すると秘書が何かと挑発する。つい魔がさして秘書に手をだしたその瞬間、新妻が仕事場に訪ねてきてさあ大変! 即離婚とあいなって男は一度も妻を抱けずに莫大な慰謝料を支払うことになってしまうのであった。  
 実はこの秘書がシガニーの娘。母親の結婚相手を娘が誘惑。それを理由に離婚を申し立て、慰謝料をせしめるというのが彼女らのやり方。このコンビでこれからもうまくやっていこうとする母親に対して娘は独立を主張する。ところが単独で引っ掛けたバーテンダー(ジェイソン・リー)に心身ともにメロメロになってしまうのだ。母親も次のターゲットを大金持ちの老人(ジーン・ハックマン、映画を見ている間はまったく気づかなかった)にさだめ、何とかものにしようと四苦八苦……。  

 シガニー・ウィーバーが最初から妖艶な女性を大熱演。新郎の前でドレスを脱ぎ捨て、下着姿になるのだが、その姿っといったらあなた! そこまでやるかった感じで……たまらんです。彼女はすでに50歳を超えているはずで、それでいてあのプロポーションなのだから驚愕してしまう。  
 老人にロシア人だと偽って接近すると、仲良くなってからロシア料理のレストランに連れて行かれ、ロシア民謡(?)楽団をバックに歌をうたうはめになってしまう。ロシア人なら誰でも知っている歌だというがアメリカ人の彼女に歌えるわけがない。一気にしらけるお客さんたちを前にして、シガニーは一計を案じ、楽団に指示する。演奏され始めた音楽は一見ムード歌謡っぽい甘く切ないもの。一体何を歌うのかと耳を傾けていると、転調してシャウトするのはビートルズの「バック・イン・ザ・USSR」ではないか! このシーンは映画の中で僕の一番のお気に入りとなった。シガニー・ウィーバーは歌もうたえるのですね。うまくないけれど。こんなところからも彼女がノッてこの映画に取り組んでいるのがわかる。  
 娘役のジェニファー・ラヴ・ヒューイットは自慢の長い黒髪よりも変装したときのショートのブロンドの方がキュートだ。  

 上出来の映画だと思う。ただ、最近の映画はあまりに上映時間に無頓着すぎる。なんでもかんでも2時間なんて当たり前になってきて、この映画も2時間ちょっとの長さ。せめて1時間40分ほどにまとめられていたら、コメディー映画としてかなり点数が高くなるのに。

     ◇

2001/12/21

 「ポワゾン」(銀座シネパトス)

 「トゥームレイダー」を観た後だったか、アンジョリーナ・ジョリーは服部まこ(今はまこが漢字になっているはず)に似ていると友人に指摘され、笑ってしまった。だから自分の好みではないのか。
 「トゥームレイダー」のラストで見せた女っぽい姿にいまいちピンとこなかったのだが、公開中に観た「ポワゾン」の予告編で妖艶な悪女を演じると知って正反対の役柄をどう演じるのか興味深かった。

 ……嘘です。「ポワゾン」がR-18指定で、ララの裸身とめくるめく官能の世界を堪能できると期待しただけだ。好みじゃないと言っておきながらこのありさまでお恥ずかしい……。
 試写会「レイン」に行くはずが僕の大いなる勘違いで、日にちを間違え(前日だったのだ!招待状を無駄にしてしまったことが悔やまれる)、急遽この映画を観ることになった。時間もなかったからディスカウントチケット屋で前売券を購入することもできず、珍しく1,800円を支払った。

 文通だけで結婚相手を決めてしまった資産家の男・アントニオ・バンデラスのもとへやってきた女・アンジョリーナ・ジョリーは写真とは全くの別人だった。自分の美貌だけに目がくらむ男でないことを確かめたかったからだと言う。男も資産があることを隠してした。
「美人だけどいい?」「裕福だけどいいか?」なんて会話をかわすのだが、ったくいい気なもんだ。
 ところはこれが罠だった。女は自分の恋人と組んで、結婚相手になりすまし、愛を信じていない男を虜にしたかと思うと、資産をネコババして行方知らずとなった。
 最初は女に怒りを覚える男だが、ある日偶然女と再会するとすべてを許し、元のさやに収まろうとする。女も承知する(ホント、いい気なもんだ)。しかし女の恋人が執拗にふたりを追ってきて事態は予期せぬ方向へ進展していく。

 話は獄中の女が死刑執行前神父に自分の罪の懺悔する、その回想シーンとして進展する。
 この映画の原題は「Original Sin」(原罪)。原題だとヒットしそうもないけれど、ここにスタッフの観客に対するトリックが隠されているのではないか。
 本当の婚約者だった女性の家族から依頼され女の行方を追う探偵の正体が種明かしされるまえにわかってしまったように、「ポワゾン」というタイトルそれに獄中の女の身の上話に異常に反応する神父の表情でラストのどんでん返しは容易に予想できた。    

 それはいいのだけれど、この映画のどこが18歳お断りなのだろうか。ふたりのベッドシーンはしごく見慣れたものだよ!  
 エンディングロールに流れる主題歌が印象的だった。

     ◇

2001/12/29

 「ハリー・ポッターと賢者の石」(渋谷東急)  

 書籍「ハリー・ポッターと賢者の石」が評判を呼びはじめた頃、かみサンと娘はすぐに図書館にリクエストして読み始めた。二人の感想も上々だったにもかかわらず僕はまったく関心がわかなかった。  
 子ども向けだからではない。この手の物語ってどうも苦手なのである。「果てしない物語」「指輪物語」等々、いわゆる西洋の冒険ファンタジーものは読む気になれない。

 だいたいタイトルが直訳で面白みがない。  
 「ハリー・ポッターと賢者の石」で、まず思ったのは〈○○○(主人公の名前)+×××(物語の要となるモノの名称)〉のタイトルは欧米においてごくごく一般的なスタイル、パターンなんだなということ。
 映画「インディー・ジョーンズ/魔宮の伝説」「インディー・ジョーンズ/最後の聖戦」の原題はそれぞれ「INDIANA JONES and the TEMPLE OF DOOM」「INDIANA JONES and the LAST CRUSADE」だもの。でもそれはあくまでも海外でのこと、日本語だと当たり前すぎてつまらないものなってしまう。
 「ハリー・ポッター」シリーズも翻訳出版の際、もう少しタイトルに気を使ってくれればよかったのに。(弱小出版社の社長であり翻訳者の女性が亡き夫の願いを忘れず、翻訳権を獲得して出版するまでの過程の方が興味あります)

 書籍がそれほど有名でなければ、映画化にあたって配給会社も改題したのだろうが、世界的にベストセラーになったらそういうわけにもいかないだろう。
 冒険ファンタジー小説はそれほど好きではないが、映画となれば話は別。特撮がふんだんに使用されるからだ。特撮ファンとしては押さえておかなければなるまい。

 原作がどういう味わいなのか知らない。が、映画は小説世界をうまく映像化したのではないか。お話自体に期待していなかったこともあるけれど、僕はとても楽しめた。

 人間界で育ったハリー・ポッターは11歳になると魔法学校に通うため寮生活を送ることになった。
 同じ寮のロン、ハーマイオニーと友だちになったハリーは学校が保管している、不老不死の水を作り出せるという〈賢者の石〉をヴォルデモートが狙っていることを知る。
 その昔ハリーの両親を殺したヴォルデモートは肉体をなくしたのだが、賢者の石を使って復活しようとしている!ハリー、ロン、ハーマイオニーの3人は賢者の石が保管されているであろう禁断の場所・3階へ足を踏み入れる……。

 ハリー・ポッター役の少年(ダニエル・ラドクリフ)を初めて見た時、小松左京原作・製作「さよならジュピター」に出演した幼き日のマーク・パンサー(globe)を思い出した。僕の記憶が正しければ、のことだけど。
 映画全体からは「スターウォーズ」をイメージした。
 主人公は両親がなく叔母夫婦に育てられ、その後優秀な魔法使いの息子だとわかる。伯父夫婦に育てられたルークもジュダイの騎士だった。
 で、魔法学校で友だちになるロン、ハーマイオニーはハン・ソロ、レイア姫(イギリスが舞台ということ、年齢的にこのトリオは「小さな恋のメロディ」のダニエル、メロディ、オーンショーとみることもできる)。その他登場人物がけっこう「スターウォーズ」を彷彿とさせるのだ。

 特撮映像でいえばクィディッチの試合。まさに「スターウォーズ ジュダイの復讐」のスピーダーバイクのシークエンスのようで疾走感にあふれていた。
 クライマックスとなるチェスのやりとりなんか、ちょこっと「スターウォーズ」にも出てきたっけ。
 まあ、「スターウォーズ」そのものが昔からの冒険ものを下敷きにしたものだから、当然といえば当然か。
 魔法学校のある町へ走る特急に乗るため実際に駅にはない〈9と3/4番線〉へ行く方法なんか考えただけでもわくわくしてしまう。
 キャスティングがいい。アラン・リックマンとジョン・ハートのキャスティングに原作を読んでいない僕は見事にだまされた。

 架空の町、学校が舞台だからCGや合成がふんだんに使用され、映像につきぬけるような明かるさがないのが残念だけど、原作を知らなくても十分楽しめ、2時間を超える上映時間がまったく苦にならない。
 次作は大いに期待しよう。




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プロフィール

kei

Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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