2002/01/05

 「平成14年初席」(浅草演芸ホール)  

 お正月になるとTV番組を見ながらいつも不思議に思うことがあった。
 たとえばNHKなどで東京の寄席と関西のホールを結び「初笑い寄席」とか銘打って二元、三元中継する演芸番組のスペシャル版である。
 客でごったがえす新宿の末広亭とかの寄席、豪華な出演者たち。これらはすべてTV番組のために特別に編成されたものだろうか。そうなると、この日だけは寄席はNHKの貸切りになるのだろうか。お客さんたちは無料で(先に応募か何かして)一流の芸人たちの話術を堪能しているのだろうか。
 
 落語関係の本を読んで疑問が解消した。通常の寄席にTVカメラを持ち込んでいるだけ。じゃあ、なぜ豪華な芸人たちが一堂に顔を揃えているのかというと、正月用の特別編成だから。持ち時間を5分にし、できる限り有名どころの芸人たちの芸のさわりを披露するわけ。絵的にも時間的にもTV向けといえる。

 今回、正月の浅草演芸ホールに足を運んだ。大学時代、国立演芸場に行ったことはあるけれど、いわゆる昔ながらの寄席というところに足を踏み入れたのは生まれて初めての経験だ。
 入場料は3,000円。正月は朝9時からの一部から夕方5時からの4部(終了は9時)まで。入替はなし。これはいい。
 一部の途中から入って、三部の終了まで満杯の演芸ホールで時を過ごした。とにかくTVでお馴染みの顔が次から次に登場するのは壮観である。おまけに場内爆笑に次ぐ爆笑なのだ。

 一部の川柳川柳、二部の三遊亭円丈、古今亭志ん五、橘家円蔵、三部の林家こぶ平、林家木久蔵、三遊亭円歌等々。志ん五の与太郎噺が生で聴けたんだからもうけもの。円丈がこれほど面白いとはびっくりした。目当ての円歌は相変わらず自宅のじいさん、ばあさんの噺。でも感激した。本人は「もう三十数年まえのネタだよ」とやる気はさらさらないようだけれど、もう一度「山のあな、あな」を聴きたいものだ。

 馴染みのない芸人も多数登場する。うしろの客が「やっぱりTVに出ない芸人はだめだな」なんて言っていたが、知らない噺家でも、もっとじっくり聴いてみたいと思うような人もいた。特に色物の綾小路きみまろの面白さは特筆もの。要チェックです。

     ◇

2002/01/27

 「木枯し紋次郎 ベストコレクション」(ビデオ)  

 もう一昨年になるのだろうか。某特撮系BBSで木枯し紋次郎、市川崑ファンというHN〈紋次郎〉ことI氏と知り合った。僕よりずいぶん若いのに、70年代に思い入れが強くまたかなり趣味趣向が共通しており、色々と話題にことかかない。定期的に長いメールのやりとりをしている。  
 ちょうどその頃、CSで「木枯し紋次郎」が全話放送された。  
 わが家ではCSが視聴できないが、I氏が放送を録画し自分なりのベスト版を編集して送ってくれたのだ。実にありがたい。  

 ビデオ4本の内容は以下のとおり。  

 第1巻 「九頭竜に折鶴は舞った/峠に哭いた甲州路」  
 第2巻 「湯煙に月は砕けた/雪に花散る奥州路」  
 第3巻 「冥土の花嫁を討て/木枯しの音に消えた」  
 第4巻 「地獄峠の雨に消える/上州新田郡三日月村」  

 72年になってからだったと思う。土曜日の夜遅く自分の部屋にいると居間から軽快な音楽と歌が聞こえてきた。この歌は何? 誰が歌っているのか? とあわてて居間に顔を出すと、親父がTVを見ている。
「この番組は?」
「新しく始まった時代劇だ、『木枯し紋次郎』っていうんだ」  
 これが僕の「木枯し紋次郎」との出会いだった。その後あっというまに番組は一世を風靡した。

 木枯しの音が流れる中、黒バックに〈市川崑劇場〉の青い文字。続いて〈笹沢左保原作 木枯し紋次郎〉が現れて、内臓に響く低音のベース音とともに決まって本編に入る。黒と青のコントラストが美しい。
 本編で旅の途中の主人公・木枯し紋次郎が事件に巻き込まれたところでその回のサブタイトルが大写しとなったタイトルだ。
 紅く染まった雄大な山々をバックにこちらに向かって歩いてくる汚れた三度笠と長めの合羽を身にまとった紋次郎をロングで捉えたショットに「誰かが風の中で」の勇ましい前奏が流れてくる。
 このタイトル部分は今見ても新鮮だ。道端で睡眠をとる紋次郎、竹やぶを走り抜ける紋次郎、さまざまな紋次郎の姿をストップモーション、望遠撮影、ズーミング、6面割、コマ落し等、様々な編集テクニックで〈魅〉せてくれる。
 主題歌の「誰かが風の中で」の作詞は市川崑監督の夫人でシナリオライターの和田夏十。作曲は前年「出発の歌」でヒットを放った六文銭のリーダー・小室等。
 歌と映像のコラボレーションによるこのタイトルでまず僕は「木枯し紋次郎」に魅了されたのだった。

 というわけで、懐かしさいっぱいでビデオ4巻、1月中夜中に1話づつ観た。中村敦夫にインタビューしたコーナーもあって楽しくてしかたなかった。
 それぞれのエピソードについてはまた次の機会に!

     ◇

2002/01/30

 「ヴィドック」(東劇)  

 特撮映像をふんだんに使用したミステリーだと知り、俄然関心がわいた。  
 ピトフというまるで料理みたいな名前(それはポトフだって!)の監督による、全編ケレン味たっぷりの映像美。フランスの堤幸彦ってところか。  

 開巻太った中年男と謎の怪人・鏡仮面によるガラス工場での戦いはアップの連続で、最初何がなんだかよくわからなかった。鏡仮面は異様な風体、俊敏な身のこなし。どうみても中年男に勝ち目がありそうになく、善戦むなしく炎が吹き出るかまど(?)に突き落とされてしまう。かまどの縁につかまり、もう助からないと観念したのか、中年男は死ぬ前に仮面の下の素顔をみせてくれと哀願、鏡仮面が仮面を取ると、何かを悟り自ら手を離してかまどの底に落ちていった。  
 この中年男が本編の主人公ヴィドック(ジェラール・ドパルデュー)と知ってちょっとショック。どう見ても主役に見えない。ヴィドックとは何者なのか、その後のタイトルバックで彼の経歴が要領よく語られる仕組み。これは巧い。
 ヴィドックが死んだと号外が出る街の喧騒。すごい人らしいのだ。  
 僕は全然知らなかったのだが、ヴィドックとは実在の人物だという。もともと犯罪者だったのが、改心して警察に与する協力者となった、フランスでは知らない人がいないくらいの英雄。「レ・ミゼラブル」のジャンバルジャンは彼がモデルだとか。立場はちょっと違うものの、フランスの大岡越前、遠山の金さんみたいな存在なのだろう。  

 それはともかく。  
 主人公が冒頭で死んでしまった! これはどういうことなのか?  
 映画は警察を辞め、仲間と探偵事務所を開いていたヴィドックが何の事件を担当し、犯人を追っていたのかを描く構成になっている。ヴィドックに依頼され彼の伝記を書くために事務所を訪れた作家(ギヨーム・カネ)がヴィドックの助手(ムサ・マースクリ)の協力を得ながら、ヴィドックの足跡を追う。  
 ヴィドックが警察からの要請で調査していたのは雷を使い、主要な3人の人物を狙った計画的殺人事件だ。  
 犯人の鏡仮面とは誰か?  
 ヴィドックがそうしたように殺人事件のトリックを見破り、伝記作家は事件の関係者を一人ひとり洗っていく。近づいた関係者もその後何者かに殺されていく。  
 怪人の正体はどうやらガラス工場に行けばわかるらしい。意気揚揚とガラス工場を訪れた伝記作家と助手の前にヴィドックの最期を目撃したガラス職人が現れた……。    

 冒頭のアップの連続で感じたのは、とにかく映像が鮮明で、その鮮明さがフィルムのそれでなくまるでVTRのようだということ。といって、ビデオ特有の画面の粒子はなく、一種独特のリアルさを醸し出していた。たとえば登場人物の口元がクローズアップされると、口臭まで伝わってくるような。  
 後でわかったのだが、24pHDというデジタルカメラで撮影されたとのこと。    

 華麗に装飾された驚異のビジュアルとハイテンションな編集の妙に圧倒された。
 観客の好き嫌いがはっきり分かれる堤監督の作品のように、このピトフタッチも受けつけない人もいるだろう。デジタル技術を駆使してもうイケイケドンドンってな感じで、ほどよい味加減でないことは確か。  
 しかしこの映像に気をとらえさせることも策略なのだろう。ラスト、驚愕の後、真犯人がわかるにあたって僕は一言「やられた!」。そういえば、それまでにいろいろと伏線が張られていたっけ。この人しか考えられないのだ。後になってあれこれ気づいてももう遅い。
 美術と映像が一体となった脚本&演出のトリックに脱帽。




関連記事
スポンサーサイト
NEXT Entry
「青春夜話 ―Amazing Place―」
NEW Topics
告知ページ 「まぐまPB9 アニメの声と音と音楽と」
6月は紫陽花の彩
「徳川三代 家康・秀忠・家光」「ビートルズを笑え!」 ~ある日の夕景工房から
「あの頃マンガは思春期だった」「ホンモノの文章力 自分を売り込む技術」 ~ある日の夕景工房から
最低最悪
紙ふうせんシークレットライブ 2018 その4   
紙ふうせんシークレットライブ 2018 その3
紙ふうせんシークレットライブ 2018 その2
紙ふうせんシークレットライブ 2018
「光源」「脳男」 ~ある日の夕景工房から
Comment
Trackback
Comment form
 管理者にだけ表示を許可する
プロフィール

kei

Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

検索フォーム
ブロとも申請フォーム
QRコード
QRコード

Page Top