FC2ブログ
2000/06/10

 「見知らぬ乗客」(パトリシア・ハイスミス/青田勝 訳/角川文庫)

 「読書中毒」を読んだらやはりパトリシア・ハイスミスが気になってしょうがない。
 川口中央図書館に本を返却に行き、文庫コーナーを見るとハイスミスの作品が揃っている。とりあえず初期の傑作と言われる「見知らぬ乗客」「変身の恐怖」「妻を殺したかった男」の3冊を借りてきた。  

 本書はヒッチコック監督の映画で有名であるが、僕はまだ観ていない。交換殺人というアイディアの発祥だという。
 序盤から中盤にかけては実にスリリングだ。
 妻と離婚して愛人と結婚をしようとしている主人公がたまたま乗り合わせた乗客に話しかけられる。饒舌な男で、その場の雰囲気で主人公が少しばかり離婚する妻への不満を口にすると、父を憎悪している男から交換殺人を持ちかけられる。
 主人公は相手にしない。が、男は勝手に妻を殺してしまい「今度はあなたが父を殺す番だ」と言ってくる。無視するとしだいに男は主人公の部屋を訪れたり、職場に電話して主人公の妻殺しを暗にほのめかしたり、何かと脅迫してくるようになる。男がアル中でマザコン、ストーカー的偏執狂だとわかってきて、一体どうゆう展開になるかと興味深く読んでいくと、恋人との幸せな生活を壊されたくない主人公は、男の指示に従って男の父親を殺してしまうのだ。

 それにしても、この後の男の行動がどうにもわからない。全く関係のない二人の交換殺人だからこそ、容疑者にならないというのに(そうもちかけたのは男の方にもかかわらず)この男はわざと主人公と交流をもとうとする。で、自分に嫌疑がかかるようにして、自滅していく。
 主人公にしても、最初から頑として男の脅迫にのらなければことなきをえたのじゃないか。まあ、そうなると話にならないのだが。
 というわけで、僕には「見知らぬ乗客」のどこが傑作なのかわからなかった。

     ◇

2000/06/20

 「妻を殺したかった男」(パトリシア・ハイスミス/佐宗鈴夫 訳/河出文庫)

 「見知らぬ乗客」を読了したあと、「変身の恐怖」を読み始めた。ところがこれ、翻訳がどうにも馴染めなくて、数ページで辟易してしまった。学生の下訳を推敲せずそのまま原稿にしてしまったような文章で、イライラのしどうし。それでも我慢しながら読み進もうとしたが、早々にギブアップしてしまい、本書に乗りかえた。

 本書の原題は「The Blunderer」。〈どじな奴〉という意味だという。「見知らぬ乗客」といい、この主人公といい確かにどじな奴だと思う。僕には彼らの事件に巻き込まれてからの行動がどうしてもわからないのだ。

 主人公ウォルターは妻と離婚したいと考えている。彼は新聞記事でバス旅行にでかけた主婦が途中の休憩時間に何者かに惨殺されたことを知り、後をつけた亭主が殺したのだろうと推理する。記事を切り抜き、その亭主がどんな奴か見に行く。
 しばらくして愛人ができ、妻とどうしても離婚したくなったウォルターはバスで実家に帰る妻の後を追い、殺害を計画する。が、途中で妻が行方不明になってしまった。彼は妻をさがそうともせず自宅に帰ると翌日妻の死体が崖下で発見される。自殺か他殺か?
 事件を追う刑事は同様な事件が立て続けに起こったことで、どちらも亭主の犯行だと推理、強引な捜査を開始する。

 問題なのはその日妻をさがす彼の姿は目撃されているということだ。自ら妻を殺そうと考えていたのは気にひけるだろうが、その他についてまったくウォルターに問題がない。だったら、妻が行方不明になった時点でもっと大騒ぎすればいいし、翌日警察にありのままを話せばいい。ところが彼は妻の後を追ったことも、新聞記事のことも内密にしてしまう。これでは刑事に疑われても仕方ない。
 先の殺人事件の犯人(キンベル)に脅迫されたら、そのことを警察に訴えればいい。彼は何の行動もおこさない。

 ずいぶん前になるが、松本清張の「疑惑」のモデルになった事件があった。
 車が海に突っ込み、妻と子どもが溺死して亭主だけが生き残り、多額の保険金を手に入れたというものである。警察は偽装殺人ではないかと、起訴し、裁判になったが、公判中に男が病死してうやむやなってしまったと記憶する。果たして事故か殺人かとマスコミが派手に書きたてていたとき、僕は確かに男は保険金殺人を計画していたかもしれない、しかし、この事故は偶然に起きた、だから男は罪の意識もなく自分は無罪だと主張できるのかもしれないと思った。

 主張したいのはウォルターは妻に殺意を抱いただけで、何もやっていないのだ。彼は潔白なのである。もっと正々堂々としていればいいではないか!
 この手の小説では主人公に感情移入するものだ。主人公がとった行動も納得できるもので、しかし事態は悪い方へ悪い方へ流れていく。だからこそ主人公とともにその成り行きにヒヤヒヤドキドキするものだが、ウォルターのやることが理解できないからどうにも肩入れできず、「バカじゃないの、こいつ」と逆に突き放してしまいたくなる。
 というわけで、後味の悪い結末なのだが、この男なら仕方ないかと変にあきらめがつくのであった。

 「見知らぬ乗客」「妻を殺したかった男」と続けてP・ハイスミスを読んで昔の作品なのに描く人物像、事件、テーマが今風なことに驚く。

     ◇

2000/07/10

 「渇いた夜 上下」(リンダ・ラ・プラント/奥村章子 訳/ハヤカワミステリ文庫)

 前作「凍てついた夜」は壮絶というイメージがあった。アル中が原因で丸腰の少年を誤って射殺してしまい、警察をクビになったヒロイン(ロレイン・ペイジ)の再生物語。
 実をいうとヒロインがどんな事件をどのように解決したのか全く覚えていない。はっきりと記憶に刻まれているのは落ちるところまで落ちたヒロインが断酒会で知り合った友人や元同僚の助けを借りながら自分に降りかかってきた事件をどうにか解決していく痛ましい姿だった。
 麻薬に手をだし、その資金稼ぎのため、売春婦になりさがるヒロインというものに今までお目にかかったことがない。おまけに喧嘩か何かが原因でヒロインの前歯が欠けてしまうのだからそのショックは計り知れなかった。

 事件を解決し、友人とともに探偵事務所を開設したヒロインの輝かしい未来を感じさせるラストから、第2弾である本作はまっとうな女探偵の活躍を描いたものと思いきや、何とペイジ探偵事務所は閑古鳥が鳴く状態。やはりヒロインの過去がかなり影響していて、店じまいを検討している始末。そこにまいこんだ大富豪の行方不明になった娘を2週間以内で探し出せば100万ドルの報奨金がもらえるという仕事。しかしそれは他の有力な探偵事務所の数々が手がかりすらつかめない難事件だった。

「渇いた夜」は前作同様謎解きの面白さというより、ヒロインおよびその仲間たちが協力しあい、反目しあいながら、あるいはヒロイン自身の過去のアルコールへの逃避、トラウマ、孤独と闘いながら事件の真相へ一歩一歩近づいていく様が魅力である。
 調査が進むにつれて、大富豪夫婦、娘の裏の顔が露呈されていく過程も面白い(ここらへんの描写はトラボルタ主演の「将軍の娘」に似ている)。

 読みやすい翻訳(最近の海外ミステリはだいたいよみやすいのだが)で、上下巻に分かれた長い物語もまったく苦にならなかった。




関連記事
スポンサーサイト
NEXT Entry
「火星人ゴーホーム」「発狂した宇宙」 ~ある日の夕景工房から
NEW Topics
告知ページ 「まぐまPB9 アニメの声と音と音楽と」
ショーケン、復活す!
「影の告白」「背いて故郷」 ~ある日の夕景工房から
「あやしい本棚」「大正テレビ寄席の芸人たち」  ~ある日の夕景工房から
2018年8月 映画観てある記
無念なり、シネカラ欠席
「不連続殺人事件」「バトルロワイヤル」 ~ある日の夕景工房から
「チーズはどこへ消えた?」「ティファニーで朝食を」 ~ある日の夕景工房から
校正力ゼロの男
お見舞い申し上げます
Comment
Trackback
Comment form
 管理者にだけ表示を許可する
プロフィール

kei

Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

検索フォーム
ブロとも申請フォーム
QRコード
QRコード

Page Top