2000/07/18

  「火星人ゴーホーム」(フレデリック・ブラウン/稲葉明雄 訳/ハヤカワ文庫)

 SFの古典的作品で内容はともかくタイトルだけは知っていた。
 「本は寝ころんで」(小林信彦)のSFベストテンに入っていて、以前から気になっていたところ、古書店に120円ででていたので買っておいた。

 タイトルから「ゴーホーム」という名の火星人と人類の対決(接触)の話かと思いきや全く違かった。
 全身緑色の身長2フィート半しかない火星人が大挙して地球上のいたるところに現われる。彼らは別に地球を攻撃したり、人類に降伏を迫ったりというような行為はしない。自分の能力(瞬間移動、透視)で人様の生活(たとえばセックス)とかを覗き見してやたらとちょっかいをだしてくる。人は何かしらの秘密を持っているが火星人はそれらをすべて察知して、あたり構わずしゃべりまくり、はやしたてる。

 下品で減らず口をたたく性格的にも最悪な火星人の排除に躍起になるが、殺すことも触ることすらできない。つまり人間社会の秘密が保てなくなって全世界で大混乱が巻き起こるというSF的発想による寓話といえる。
 「宇宙戦争」のコメディ版ともとれるし、「もし~だったら」のシミュレーションドラマともいえる。とにかく「グレムリン」や「マーズアタック」が多大な影響を受けたことが十分うかがいしれる内容だ。
 読者を煙にまいたような火星人退治方法もこういうストーリーだったら許せる!

 稲葉明雄の訳が素晴らしい。

     ◇

2000/07/27

 「発狂した宇宙」(フレドリック・ブラウン/稲葉明雄 訳/ハヤカワ文庫)

 「火星人ゴーホーム」が面白かったので、ブラウンのデビュー作で名作と名高い「発狂した宇宙」が気になってしかたがない。また古書店で購入しようかと思っていたところ図書館にあったのでさっそく借りてきた。
 多元宇宙SFの決定版だという。確かにそのとおりなのだが、これも途中まではSF的設定、小道具を使った冒険物語ともいえるのではないか。

 別世界にまぎれこんでしまった主人公がその世界の地球と戦争を繰り広げている惑星のスパイと間違わられ警察に命を狙われる。機智を働かせて危機を脱出するが、何かしらのボロをだして二度、三度と窮地に追い込まれてしまう。危機また危機の展開がスリリングだ。
 結局自分を追いつめる結果を招く主人公の行動も、得体の知れない世界に迷いこんだ緊張の連続の中で判断されたものだから大いに納得できる。そこがP・ハイスミス「妻を殺したかった男」の主人公と違うところだ。

 なぜ主人公が自身が編集する雑誌に出てきそうな世界(人類は皆宇宙旅行ができ、月人と共存、惑星アルクトゥールスと全面戦争)に迷い込んだのかが解明されるクライマックスまで読み進むと、その伏線を確認したくてもう一度前半を読み直したくなる。
 また、これは「火星人ゴーホーム」でも感じたことだが、主人公が所有するお金に関する記述が詳細で、主人公の手持ちが今いくらで何にいくら使った、いくら手にしたかと事細かに描写される。生活感にあふれ、感情移入に一役買うのである。

 本作でもまた稲葉明雄が名翻訳家であることを認識できる。




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Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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