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2000/07/31

 「貸本屋のぼくはマンガに夢中だった」(長谷川裕/草思社)

 子どものころ住んでいたのは長屋みたいなおんぼろ借家だった。そんな借家が建ち並ぶ住宅街には駄菓子屋が2軒あって、どちらも焼きそばが買い食いできるのが人気だった。店内でも焼きそばやトコロテンが食べられるコーナーがあり、僕らにとってはそこが社交場で、週刊誌やマンガ本が常置されていた。「少年マガジン」「少年サンデー」などのマンガ週刊誌、「平凡」「明星」などのアイドル雑誌のほかに見慣れない本があった。
 それが前谷惟光「ロボット3等兵」であり、「影」などの貸本専用のマンガ本(雑誌)だった。  
 物心がついたときには、まわりに貸本屋はなかったと思う。が、その匂いは十分あったのだ。  

 マンガの歴史、特にその戦後史は手塚治虫の「新宝島」に端を発し、トキワ荘グループを中心にメジャーな出版社の少年月刊雑誌、週刊誌を経て現代へつながる、いわゆる表舞台について書かれたものはたくさんある。しかし劇画の発祥としてわずかに触れられるほかほとんど黙殺されてしまった貸本用のマンガについて詳細に語られたものはなかった。
 本書は昭和30年代東京で貸本屋をやっていた一家の物語であるとともに戦後マンガの裏面史という貴重な側面を持っている。

 タイトルからその昔貸本屋を営んだ著者がマンガについてうんちくを語った本というイメージがあったが、貸本屋はあくまでも親が始めた商売であり、著者は息子という利点を生かして、幼いころから浴びるように貸本マンガを読んだのだ。玉石混淆のマンガを読みあさっているから、その目は確かだ。

 夏目房乃介が自著で指摘している手塚治虫のペンタッチの頂点(第一期黄金時代)を著者も喝破しており、内容的にも以後の手塚には興味をなくしたと書いている。僕が知る手塚マンガは劇画の影響を受け、タッチを変えたものなのである。僕としては初期のころより、昭和40年代以降が好きなのであくまでも世代の差として受けとめたいのだが。(名作「火の鳥 黎明編」は白土三平の「忍者武芸帳」をたぶんに意識した作品というのもわかる。)

 貸本向けに書かれた水木しげるの「河童の三平」「悪魔くん」も後年週刊誌に発表されたものよりよほどすぐれているという。「コボくん」の前にずっと読売新聞に連載された「轟先生」が貸本向けだったなんてことも本書で知った。
 とまあ、興味深い事柄が次から次にでてきて、なおかつ昭和30年代から40年代にかけての庶民の生活が詳細に描写されているからドキュメントとしても楽しめる。

 著者の名前からとった「ゆたか書房」という貸本屋は今も細々と営業中とのこと。今度訪ねてみようかな。


2000/07/22

 『「分かりやすい表現」の技術』(藤沢晃治/講談社ブルーバックス)

 理数系が苦手な僕にはほとんど縁がなかったブルーバックスシリーズだが本書を見つけたとき、すぐに手にとった。
 活字中毒といっていいほど、本が好きなもののマニュアルの類はいっさい読まない。読んでも意味がわからないからだ。このマニュアルのわかりにくさについては〈文章のプロ〉の方々が何かと話題にしてわが意を得たりの気分だったが、にもかかわらず相変わらず未だにわかりにくいマニュアルが大手をふるっているのはどうしてだろうか。

 本書はマニュアル本も含めて、交通標識、駅構内の路線案内の看板、通達文書等々、世の中にに氾濫する〈分かりにくい表現〉について、何が分かりづらいのか、なぜ分かりづらいのか、分かりやすくするにはどうすればいいのかを正誤表を使って的確に論じたものである。

 仕事で社内に案内、通達のEメールを送付する機会が多く、自分でもかなり神経を使っている。
 一番気をつけていることは、見やすさ、文章を読もうという気にさせるとっつきやすさである。なんでも漢字にするのでなく、ひらがなの間に適度に漢字を挿入する、見やすくするため改行を多くする、できるだけ箇条書きにする、といったことを心がけている。
 そしてこれが一番重要なのだが、この文章でこちらの言いたいことをわかってもらえるだろうかということにたえず気を使っている。
 情報を知っている書き手は内容を十分理解しているから、見過ごしがちだが、受け取る方はその件について全く知らない。だからちょっとした文章のニュアンスで判断しづらくなることが多々ある。(マニュアルがわかりにくいのは書き手が相手が知っているものとして物事を説明しているからだろう。)
 おおげさにいえば、こちらの意図とはまるで正反対に受け取られる可能性だってあるのだ。
 ということで分かりやすい文章とは何かを勉強したくて本書を読んだ次第。

 ビジュアルが豊富で読み物としておもしろいし、ハウツー本としても〈分かりやすい表現〉にするための16のルールがためになる。




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プロフィール

kei

Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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