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2000/08/15

 「クリムゾンの迷宮」(貴志祐介/角川ホラー文庫)

 貴志作品の中で唯一未読だった「クリムゾンの迷宮」をやっと読む。

 貴志祐介が発表する作品のジャンルの多様さには驚くばかりだ。
 最新作「青い炎」をのぞく貴志作品はジャンルとしてはホラーと分類されるがそれぞれが違ったアプローチで作品世界を構築している。

 デビュー作「十三番目の人格」は心理学をベースに多重人格少女の各人格が名前によって性格づけられているという解釈で彼女に巣食う邪悪な人格と対峙する女性カウンセラーの活躍を描くオカルト風ホラー。類似した事件が起きたことでマスコミにも注目されたベストセラー「黒い家」は異常性格者の保険金詐欺に巻き込まれる保険会社社員の恐怖を描いたサイコホラー。続く「天使の囀り」は人間が持つトラウマとアマゾンの風土病を結びつけた奇怪な変身譚ともいうべきSFホラー。ミステリ的味付けもいい。
 最新作「青い炎」は倒叙ミステリで17歳の高校生による殺人の完全犯罪、その綿密な計画と実行そして破綻を描き、斬新な青春小説に仕上げた。
 どの作品もリアルな状況設定、綿密な取材(幅広い知識)、ストーリーテラーとしての抜群の巧さで物語を語り、読者を作品世界に一気に引きずりこんでしまう。

 「黒い家」のあと、文庫書き下ろしとして上梓された「クリムゾンの迷宮」はこれまでの作品とは一線を画す。
 内容はRPGというか十数年前に大ブームになったゲームブックの世界を現実化したらというある種のシミュレーション小説、真のサバイバルゲームそのものを扱った冒険小説だ。
 何者かによってオーストラリアの平原に連れて来られた男女9人が4つのチームに分かれ携帯ゲーム機の指示によってゴールをめざす。しかしそれは単なるゲームではない。ゲームブック「火星の迷宮」のストーリーをなぞるかのような参加者にとって生死をかけたゼロサムゲームだったのだ。主人公は果たして無事ゴールすることができるのか?

 主人公を倒産した証券会社(モデルは山一証券だろう)の元社員という〈今〉を感じさせるキャラクターにしたり、サバイバルに関する知識を散りばめたりと貴志らしさを発揮しているけれども世界そのものはまったくリアリティはない。
 そんなことは百も承知のうえ、与えられた状況設定下でいかに物語を語るか、自身のストーリーテラーの資質を試しているような小説である。

 で、見事にこれがおもしろい。
 TVゲームにほとんど興味がない、だいたい「ドラゴンクエスト」「ファイナルファンタジー」等のRPGの魅力もわからない、当然ゲームブックにもまったく関心を示さなかった僕だけれど、こういう小説になると俄然次の展開が気になってしょうがなく夢中でページをめくった。

 このゲームを主催したのは誰なのか、目的は何なのか、主人公と行動をともにした女性は何者だったのか、物語に提示された謎はラストで主人公の想像という形でほんの少し謎解きをするがあまり多くを語らない。うまい結末だと思う。へたにすべての真相を書いてしまうと、それこそ世界が嘘っぽくなるおそれがあるし、謎を謎のまま残しておく方がこの小説の場合余韻を与える。

 「黒い家」や「十三番目の人格」よりこういう作品の方が映画化に適していると思うのだが……あっ、設定はまったく違うけれど「キューブ」はまさしく同種の映画だった。


2000/10/28

 「家族狩り」(天童荒太/新潮社)

 ベストセラー「永遠の仔」の前に、その残虐描写で話題になったミステリ。
 前々から読もう読もうと思いつつ、図書館に行っても棚にあったためしがなく果たせなかった。リクエストすればいいのだけれど、残虐描写という部分に気が引けていたのだ。
 実際どんなストーリーかも知らなかった。読んでみて驚いた。幼児虐待、児童虐待をテーマに深く重い感動を呼ぶ「永遠の仔」の前に書かれるべくして書かれた内容で、世間を騒がせて久しい思春期の少年少女の引きこもりや家庭内暴力、その結果の子殺し、親殺しの問題に真正面から取り組んだミステリである。
 作者自身がかつて経験したとしか思えない切り口で、いったい天童荒太とは何者かと紹介文を見ると、二年の歳月を費やして精神医学の先端を極めた著者が処女作以来のテーマを全面展開した地獄絵サスペンス、とある。

 引きこもりの息子による家庭内暴力に苦しんでいる夫婦がのこぎりで惨殺され、息子が自室で自殺する事件を発端に、さまざまなトラウマを抱える人間たちが複雑に絡みあう展開に目を見張る。
 現場の発見者である美術教師・浚介、浚介に乱暴されたと嘘をつく女子高生・亜衣。学校でのイジメによって徐々に精神を病んでいく亜衣と亜衣の絵に対する非凡な才能を見つけた浚介との関係。
 惨殺事件は息子による無理心中との署の見解に異を唱える刑事・馬見原と、かつて馬見原に夫の息子への虐待を救ってもらった綾女の不倫関係。馬見原は自慢の息子に死なれてからというもの娘の非行、妻の精神障害と家庭が崩壊、出世コースからはずれてしまった刑事で、結婚した娘とまだ和解できずにいる。
 馬見原の娘が非行に走っていたころに世話になった〈児童相談センター〉の游子。家庭内暴力、引きこもり問題に真剣に取り組んでいる游子と役所的な仕事では家族は救われないと自宅で私設の〈家族の教室〉を主宰する大野夫婦の反目関係。
 それぞれが抱える問題や悩みが浮き彫りにされていく中、両親は焼殺、息子は自殺という第二の事件が起こる。
 前半は事件には真犯人がいるのか、いるのなら誰が犯人かという興味でひっぱり、犯人を読者にわからせた後半はその犯行動機をきっちり描き、第3の殺人へかりたてられる様子、それを阻止する馬見原たちの活躍が描かれる。
 同じ町の住人とはいえ、あまりに重なりあう偶然が気になるが、各人がクライマックスで一つの事件に集約されていくくだりに手に汗をにぎった。現実の問題とミステリの醍醐味が見事に合致している。

 1977年、僕が高校3年だったときに〈開成高校殺人事件〉が起きた。一人息子の家庭内暴力に苦しんだ両親が息子を絞殺、心中をはかろうとしたが果たせず、自首した事件である(後に妻が自殺してしまった)。当時はそれほど関心があったわけではない。90年代半ばに全国で少年たちの暴力、殺人事件が頻発して、人の親にもなっていたし、少年たちの心理はいったいどうなっているのかと読んだのがこの事件ともう一つ79年に起きた祖母を殺してマスコミあてに遺書を残して自殺した高校生の事件を取材した本多勝一のルポルタージュ「子供たちの復讐」だった。
 後頭部を石でなぐられたようなショックと進退窮まって家庭内暴力に走る、あるいは祖母を殺す高校生の心情が痛いほどわかった。

 この手の事件はその後もたびたび起きて世間を騒がせた。確か埼玉だったと思うが、教育者夫婦が息子を殺し、自首するが、夫婦をよく知る人たちが減刑嘆願の署名運動を起こした。
 本作に登場する大野夫婦はこのふたりをモデルに、愛情をそそいで育てた息子を殺さざるを得なかった親の心情をフィクションに仕立て上げた作者の手腕にはただただ唸るしかない。




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プロフィール

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Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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