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2000/10/20

 「売れない役者 あなたの知らない芸能界サバイバル」(森川正太/はまの出版)

 本書を書店で見つけたときは驚いた。
 無名の役者ならいざしらず、森川正太といったら、僕らの世代では「飛び出せ!青春」「俺たちの旅」等の、70年代人気を博した一連の青春ドラマのレギュラーとしてお馴染みの人ではないか。
 確かに現在、あまりTVで見かけなくなったけれど、パッと出のタレントではあるまいし、舞台などで活躍しているものだとばかり思っていた。
 ところが実際に役者だけの稼業では食えないらしく、今では副業として結婚式の司会をやっているという。その数、何と350組以上!

 子役で役者デビューした著者が、芸能生活38周年を記念して、日記形式で1年間を振り返りつつ、芸能界の思い出話、副業の模様、役者への思い入れ、信念などを語った本である。
 タレント本はほとんど関心がわかないものの、プライドをかなぐり捨てたタイトルからしてちょっと興味をそそられた。といって購入する気もない。しばらくして図書館に行ったら芸能コーナーにあったのでさっそく借りてきた。

 なぜ売れないのか? 著者は本書の中で、今、活躍できないのはTVがバラエティー全盛になっているのも要因の一つとしている。役者としてそういうものには出演したくない、不器用な著者にはできないと。
 そういえばその手の番組に盛んに出て人気者になっている役者が多い。でも、映画やTVドラマの脇役だけに徹している人もいるのだから、一概にバラエティー全盛だからともいえないだろう。
 思うに森川正太は役が限定されてしまう役者なのではないか。観る方とすると彼に対してある一つのイメージを持ってしまう。気弱でおかしくていい人という雰囲気で、これ以外の役だとどうにも受けつけない。

 内容は芸能界特有の裏情報やかつての役者仲間あるいは現在のTVへの痛烈な批判、趣味である読書の感想など、常識人の、まあ的を射たものとなっている。
 しかし、他のタレント本と違って本書に意味あるとすれば、それは司会者として垣間見た披露宴における数々の人間模様を活写したところである。
 披露宴という名の台本のない人間ドラマ、会場で起こるさまざまな出来事がむちゃくちゃ面白い。

 たとえば……
 披露宴に昔の彼氏を招待する新婦が増えてきているという。その中で悲惨な例としてあげられた披露宴が単なるお食事会になってしまった事件。
 昔の彼がスピーチをして、新婦との赤裸々な関係を自慢そうに暴露しだすと、新郎は無言で席を立ち、会場をあとにした。新郎側の縁者も全員その後に続く。成田離婚ならぬ披露宴離婚。
 招待客がたった10名弱しか来ない披露宴というのもあった。うなだれる新郎新婦。著者はホテルの責任者に頭を下げ、スタッフをテーブルについてもらって何とか式を進行させた。
 300万円のドレスを着て披露宴に出る新婦がどうしても司会の方から値段を言って欲しいと言う。そんな必要はないと答えると、「じゃあ司会を変える」。頭に来た著者は当日ちゃんと値段を伝えたあと、アドリブでこう付け加えた。 「しかし、なんて似合わないでしょうね」
 会場は爆笑の渦だったという。
 感動的な披露宴とは最後で新婦が両親に宛てて読む感謝の手紙の場面で会場の涙を誘うことと信じる著者には賛同できないものの、結婚式は家柄、格式にこだわらず心から祝ってくれる人だけ集めてどこかのレストランを借りて、手作りの式をやるのが一番、と書くところは納得。

 一世を風靡した「俺たちの旅」がスペシャルとして周期的に制作されることに対して、著者みたいな売れていない役者にとってはギャラが入るから、ある意味ありがたいと思いながら、安易に作るべきではないと書く。
 このように著者は時流に乗らない(乗れない?)いい意味でプライドの高い、頑固さを持ち合わせる役者気質の人なのだ。(だからこそ「売れない役者」などというタイトルがつけられるのだろう。)それが業界内で反発を招いているとも考えられる。そんな彼に忠告を与えてくれる数少ない芸能界の友人蛍雪治朗、石倉三郎の存在がうらやましい。ふたりとも好きな役者だからなおさらだ。


2000/10/23

 「江戸一口ばなし」(今野信雄/新紀元社)

 子どものころ、TVの時代劇(必殺シリーズだったか)を見るたびに思うことがあった。一両は今のお金に換算するといったいいくらなのだろうか、と。狡賢い商人が、強欲な悪の代官らに何十両もの小判を渡すシーンになると、それがどのくらいの価値をもっているのかわからずはがゆかった。
 その後一両はだいたい10万円くらいだと誰かに教わり、具体的にイメージがわくようになった。
 江戸時代に関心を持ちはじめて、関係書、時代小説も読むようになるとお金以外にもわからないことが多い。たとえば時刻、季節、石高、家禄など。
 本書はそんな疑問にやさしく答えてくれる肩のこらない読み物となっていて、先の一両は7、8万円だと説明している。
 藤枝梅安はTVでは一回の仕掛けに20両くらいもらっているから160万の報酬ということになる。小説は50両、なかには100両なんてものがあるから400万、800万の世界。ゴルゴ13の報酬と比べてみるのも面白いだろう。

 江戸時代で誰でも面くらうのはそのカネと季節感だと著者は〈はじめに〉で述べている。
 「四十七人の刺客」を読んで、のっけから閏八月がでてきたときは確かに面くらった。同じ月が2回あるとはいったいなんぞや?
 当時は陰暦を採用していたから現在とは季節感が違う。忠臣蔵で12月の討入り前日に雪が降っていて、昔(の東京)はホワイトクリスマスも当たり前だったんだなあと、何も知らないころは思っていた。別に温暖化の影響ではなく、旧暦では1月だったからなのだ。
 江戸とは何か、と訊かれたらどう答えるか。今の東京だろうではダメ。江戸城を中心としてその四方、品川大木戸、四谷大木戸、板橋、千住、本所、深川以内を指すという。
 大名と旗本の違いは石高にある。大名は一万~二万石(二千五百坪)、旗本は十万石~十五万石(七千坪)の土地を拝領していた。ちなみに一石とは米150キロのこと。
 当時は敵討ちが認められていて、有名な話も残っているが、敵討ちの成功率は1%だったとか。
 江戸が世界一清潔な町だったとはちょっと意外だった。




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プロフィール

kei

Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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