FC2ブログ
2001/01/22

 「どうせ曲がった人生さ」(立川談四楼/毎日新聞社)

 立川談四楼のエッセイ集をやっと読む。
 「シャレのち曇り」に始まる談四楼の一連の落語小説は新作がでるごとに巧くなって、すっかりハマってしまった。
 語り口がまるで高座を聴いているようで、すっかり魅了された僕は一昨年、下北沢は北沢八幡神社で定期的に開催されている談四楼独演会に足を運んだ。当日の演目は「目黒のさんま」「柳田格之進」。声に迫力と艶があって語り口も巧妙。落語に造詣が深いわけではないが「巧いなあ。小説の行間からにじみ出る落語に対する自信は嘘じゃなかったんだなあ」と思った。終わってからさんまが食べたくてしかたなくて……。
 てなわけで、小説家としてだけでなく落語家・談四楼のファンにもなってしまった(本は全部図書館から借りていて、落語もまだ一度しか聴いたことないのでファンといえるかどうか心もとないが)。

 立川談四楼はわが母校(群馬県立太田高校)の先輩である。落語協会が導入した真打試験の第三回の受験者。この試験に落ちたことで「三平の弟子より俺の弟子の方が劣るというのか!」と師匠・立川談志が怒り狂って協会を脱退、立川流を旗揚げしたことはご存知のとおり。今では立川流の真打だ。
 このエッセイを読むと真打試験に落ちた屈辱と怒りで「シャレのち曇り」を書いたとあるから、もしそのまま真打になっていたら小説家・立川談四楼は誕生しなかったことになる。
 その「シャレのち曇り」の感想で一般的にはそれほど知られていない著者は後輩(志の輔)の活躍をどう思っているのだろうと書いたが、その答えもちゃんと書かれている。素直に喜んでいる。
 タレントとして名が売れることより本格派でじっくり落語をやる場所を確保したいのだ。
 だから出前寄席で全国を飛び歩く。出前寄席とは正式名称を〈全国すみずみ出前寄席〉という前座、二つ目、真打、奇術など4人でワンパックにして99,800円の料金でお呼びがかかった場所に出向く寄席のことだ。

 あるパーティーの席上で、野坂昭如が談四楼を「ネタミ・ソネミ・ヒガミの大家」と紹介したごとく、彼の世の中の非常識に対する怒りは激しい、というか一本筋が通っているのだ、本当は。
 たとえば本書「七つの怒り」に書くエピソードの一つ。
 談四楼が虎ノ門のある場所を探していたときのこと。どうしても道がわからず、某レストランのちょうどランチタイムが過ぎてホッとひと息ついていた若いコックに道を尋ねた。出前をしていないからわからないという。それでも住所を示して場所を確認しようとすると「ッせえなァ。出前やってねェつってンだろ!」。談四楼、ムッとして「サービス業に携わる一員か」と応酬すると「通りすがりの奴なんぞ客じゃねぇ、カネをもらわなきゃ客じゃネェ」。この一言に談四楼はプッツン。大ゲンカになって警察が呼ばれる始末になったそうな。

 小説の師匠は色川武大だということもわかった。
 この色川先生の死に触れた文章が収録された章「死について」の中には小学一年生の夏休み前に破傷風で亡くなった弟のことが書かれている。一学期の「つうしんぼ」ももらえなかった弟の死を悼み、三人の息子たちが小学生になって夏休みをむかえるたびに感慨、感動があったというくだりは胸を打った。我が子の一年生の一学期をひとつの目標、目安にしていたと書いていて涙が流れてしかったなかった。

 「シャレのち曇り」上梓後、1990年~94年の間に書かれたエッセイはどれも真摯に対象と向き合っていて、決して手を抜かず、どれも味わい深い。勢いに任せて書かれたものでないことは確か。今まで発表された短編の素材になったエピソードが見え隠れするところも愉快だ。
 落語家にして小説家にして大学講師の立川談四楼。また落語が聴きたくなってきた。次の独演会はいつあるのだろう。


2001/01/24

 「愛人の掟1」(梅田みか/角川文庫)

 友人からお勧め本を何冊か借り、ツン読状態だったものからとりあえず1冊手に取った。
 驚きましたね。タイトルから愛人問題を揶揄するギャグ本と思っていたら、これがかなりマジに愛人であるための心得を説く本なのだ。
 著者の梅田みかについてまったく知識がない。フリーライターから作家になった人らしく、自身の経験を通して恋愛に精通している作家みたいだ。
 この本は第1章「愛人の掟」36条、第2章「毎日が恋愛日和」SCENE30の2部構成になっている。
 第1章は男として照れくさい部分があるが、第2章は恋愛経験者なら誰でも共感できるのではないだろうか。

 本の感想からは離れるけれど、男の浮気というか愛人問題についてちょっと考えていたことを。
 僕が始めてNHKの大河ドラマを自分の意志で観たのが「勝海舟」だった。脚本を倉本聰が担当したのがチャンネルをあわせた理由。ショーケンが人斬り以蔵を、藤岡弘が坂本竜馬を演じることも要因か。

 第1回ラストの海舟のセリフにとても感銘を受け、1年間の放映を楽しもうと思っていたら、早々に勝海舟役の渡哲也が病気で降板、まったくイメージの違う松方弘樹に代ってしまった。それだけでも残念なのに、肝心の倉本聰がNHKと喧嘩して降りてしまったのは哀しかった。それでも一年間つきあった。

 この間、松方弘樹と番組に出演していた仁科明子ができてしまったことがマスコミのかっこうの話題になった。(仁科の父親はさぞ渡哲也の降板を恨んだろうな、ということはこの際別にして)当時既婚、二児の父だった松方はゴタゴタの末、離婚して奥さんと子どもの元から去ったのだった。 晴れて松方弘樹と結婚できる仁科明子のインタビューに答える笑顔が印象的だった。もともとは自分が浮気相手だったこと、相手の男性が浮気から本気になって家庭を捨てて自分と一緒になったこと。男の妻、あるいはその子どもたちに対して仁科明子はどう感じていたのだろうか。

 さて、その松方弘樹が女優の卵に手をだした。松方は浮気を認め、しかしあくまでも浮気であると、「男は二人の女性を同時に愛することができる」とか何とか記者会見で述べて世間のひんしゅくを買ったのは記憶に新しい。
 このとき、マスコミのほとんどが松方弘樹を非難したが、僕は彼の気持ちがよくわかった。それよりも仁科明子があくまでも本妻面して松方弘樹をまったく受け入れなかったことの方が不思議だった。
 だって、二十数年前あなたは同じことを当時の松方の奥さんにしたのですよ。あなたが原因で奥さんと子どもたちは捨てられちまったんだよ。
 それが同じ火の粉が自分に飛んできたら、それもとりあえず自分の非を認め、妻がいいと言っているのにまったく聞く耳もたずという態度なら、そんなあなたをかわいそうだなんて僕には思えない。亭主の女好き、浮気癖なんてハナから承知の上の結婚ではなかったか。

 夫婦の離婚なんて単純なことでないことくらいわかってはいる。わかってはいるけれど、離婚が報道されたときに、僕が感じた疑問点について仁科明子に問うリポーターも疑問を発するするキャスターもいなかった。
 正妻の座についた愛人は皆こんなもんなのだろうか?


2001/01/30

 「いやでもわかる株式」(日本経済新聞社編/新潮文庫)  

 今から十数年前のこと。かみさんが中国ファンドをやっていた。結婚するちょっと前のことなのだが、勤め先に証券会社の営業ウーマンがやってきて「絶対損はしないから」と勧められ、定期預金の感覚で始めたという。
 結婚して(こちらの働きが悪いせいもあって)生活資金用に積立金をおろす段階になったら預金額より少ない。担当者に理由を訊こうと何度も電話をかけると、居留守を使われているのかまったくでてこない。やっとつかまえるとそこで初めて株式のリスクというものを知らされ、最後にこう付け加えた。「リスクについてお話していなかったでしたっけ?」  
 かみさんの怒ること怒ること。最初に説明を受けていれば中国ファンドなんてやらなかったと声をからさんばかりに僕に訴えるのだった。   
 株式運用のハイリスク、ハイリターンという原則を知らなかったのはこちらの落ち度だが、株について何も知らない素人にいい話しかしないで顧客にし、分が悪くなると逃げ回るなんて最低の営業マンだ。  
 また、僕が当時勤めていた会社に証券会社から転職してきた人がいて、ノルマをこなすために営業マンがどれだけ苦労し、破滅していったかという内幕話も聞かされていたので、わが家では証券会社、株式に対していい印象は持っていなかったし、ぜったい手をださない暗黙の了解ができあがっていた。  

 そんな僕が昨年株主対応という業務をおうせつかってしまったのだ。ほとんど株式知識ゼロ。見よう見真似で何とかやってはきている。でも、本当に理解しているとは言いがたい。もちろん何冊か本は読んでいるけれど関心にない事柄はどうしても頭に入らない。
 昨年末に株についてよくわかっていた、頼みの綱の上司が異動してしまって、もう後がない僕としては再度勉強しなおそうとしていたところに目に入ったのがこの「いやでもわかる株式」だ。  

 小説風にそれぞれの立場の主人公を設けて株式上場、株の購入をやさしく説いていく。日頃恥ずかしくてその意味を聞けない単語など思わずマーカーでチェックしたりして……。  

 それにしても株主たちのなんとゲンキンなことよ。株価が上げっている時は何の問い合わせもしてこないのに、ちょっとでも下がると「どこまで下がるのか」「財産が減った。どうしてくれる!」とやいのやいの言ってくる。  
 中には「おたく倒産しないんでしょうね」「つぶれるという噂を聞いたが本当か?」なんていう質問もある。アノネ、私、これでも社員です。たとえ本当につぶれる状態だとしても「はい」なんて口が裂けても言えるもんではないではないか。こういう質問を直接会社にしてくる人の気持ちがわからない。証券会社の営業マンもけっこうデマを飛ばしているし。  

 ということで、好き勝手に生きてきた僕は自分の娘の生き方にあれこれ意見できる立場にあるわけではないけれど、株に手を出す男、証券会社に勤める男とだけはつきあうな、これは我が家の家訓だ!と言い聞かせてある。娘はまだ12歳だけど。




関連記事
スポンサーサイト
NEXT Entry
「わが落語鑑賞」 ~ある日の夕景工房から
NEW Topics
告知ページ 「まぐまPB9 アニメの声と音と音楽と」
ショーケン、復活す!
「影の告白」「背いて故郷」 ~ある日の夕景工房から
「あやしい本棚」「大正テレビ寄席の芸人たち」  ~ある日の夕景工房から
2018年8月 映画観てある記
無念なり、シネカラ欠席
「不連続殺人事件」「バトルロワイヤル」 ~ある日の夕景工房から
「チーズはどこへ消えた?」「ティファニーで朝食を」 ~ある日の夕景工房から
校正力ゼロの男
お見舞い申し上げます
Comment
Trackback
Comment form
 管理者にだけ表示を許可する
プロフィール

kei

Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

検索フォーム
ブロとも申請フォーム
QRコード
QRコード

Page Top