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 昨夜、なんとか体調がもどってきた。
 体調の悪さを自覚するのは歩いているときだ。
 僕は歩くのがけっこう早い。
 にもかかわらず、皆、自分を追い越していくのだ。
 あれっ? ってなもんだ。そんなはずはない、と後を追いかけてもその差はどんどん開いていく。

 体調が悪くても食欲があったことは救いだったかも。

          * * *

2001/02/07

 「ブレンダと呼ばれた少年 ジョンズ・ホプキンス病院で何がおきたか」(ジョン・コラピント/村井智之 訳/無名舎)

 吉永みち子の「性同一性障害 -性転換の朝」(集英社新書)の中で紹介されている事件で詳細を知りたくなったものがあった。
 8ヶ月の双子の兄弟の兄の方が包皮切除手術に失敗してペニスを喪失、動揺した両親は性科学の権威・ジョン・マネーの強い勧めで、この子を性転換させることにした。
 以後女の子として育てられたその子は順調に経過していると発表され、メディアはキンゼーレポート以来の偉大な発見と書き立てた。
 が、実態はまったく逆だった。成長するにつれ、次第に女性としての違和感を持ってきたその子は精神のバランスがとれないくらいに追いつめられ、苦悩し、暴れ、最終的に男性にもどったという。
 この事件を綿密な調査、取材でフォローしたレポートが「ブレンダと呼ばれた少年」だ。ブレンダとは少女時代の名前のこと。

 小説、マンガには男が女になってしまうという物語がある。ある日突然女になってとまどうが、やがて女の喜びを知るというパターンだ。〈性転換もの〉とでもいうのだろうか。
 薄井ゆうじの「樹の上の草魚」(講談社文庫)はこのパターン(プロット)をうまく文学に転化させ新しい恋愛小説を創造した。
 デイヴィッド・トーマスの「彼が彼女になったわけ」(法村里絵訳/角川文庫)は歯の治療で入院した青年が病院側のミスで性転換手術をされてしまう悲喜劇で、彼が女性になるために悪戦苦闘する姿をとおして、女性という生き物の内面的、外面的気苦労がわかる仕組みになっていた。

 驚いたのはこの手の小説をさかんに書き綴るマニアがいることで、作品を収集、発表している専門サイトも存在する。僕自身小学5、6年の頃、この手のマンガを描いたことがあり、興味ある世界だ。
 が、映画「ボーイズ・ドント・クライ」や前述の新書「性同一性障害」の項でも書いているとおり、これらに描かれていることはあくまでも虚構の世界、好事家が思い描くファンタジーでしかない(やおいの世界に通じるものがある)。実際に自分本来の性と違う身体になった場合、精神的苦痛は計り知れないものがあると思う。

 で、ジョン・マネーである。本書を読む限りマッド・サイエンティストとしか思えない彼は「性別の自己認識は環境的要因によって決まる」という理論を実践するため、幼児期にペニスを喪失した子を格好のモルモットにしたに過ぎない。
 面接時には研究のため年端のいかないブレンダに卑猥な言葉をあびせ、ポルノフィルムを見せる、ブレンダがいやがっても容赦しない。ブレンダが両親に訴えても博士を盲信する両親は聞く耳をもたない。ブレンダの真の叫びを聞かず、自分の研究に都合よく学会に発表する。

 女として育てられた〈少年〉はやがて思春期になると局部の整形〈性転換〉をすすめられる。
 間違えやすいのは〈少年〉は事故後にすぐに性転換させられたわけではないこと。ペニスを喪失した後は身体が成長するまで性器の整形はまたねばならず、定期的な女性ホルモン注入と服装、しぐさ等の矯正の育てられていたのである。
 博士に局部整形を勧められると〈少年〉は激しく抵抗する。両親もその他の医師もみな今後のことを考慮し〈少年〉に整形を勧めるのだ。ジョン・マネーに「NO」と言える者は誰もいない。
 八方塞になった〈少年〉は自殺を繰り返し、ようやく心の内を理解してもらうことができ、男性にもどる。人工のペニスを造型、今では結婚して幸せな人生を歩んでいるという。

 この本には幼児期から思春期にかけての〈少年〉の写真が掲載されている。女の子の格好はしているけれど僕には女性には見えなかった。写真でさえそうなのだから、一緒に生活していた親や診察にかかわった医師たちにはその違和感がもっとわかっていたはずだ。〈少年〉の自殺は未遂で終わったからよかったものの、もう少しで若い命を失うところだった。ジョン・マネーおよび彼に与した関係者たちはもしかしたら殺人者になっていたかもしれないのである。

 こんなデタラメな研究をしているジョン・マネーがこの事件以降も処罰の対象にならないばかりか権威が失墜しなかったというのが不思議。だいたいペニス喪失=女性化という論理がわからない。当時(1967年)の技術ではペニスの造型より膣の形成の方が容易だったと説明しているが、本人の承諾もなしに勝手に性を決めてしまう行為が許されてたまるものか。
 性同一性障害、半陰陽といった問題からかけ離れたところで性転換が議論されているから怒りがこみあげてくる。

 もうひとつ。これも大いなる、そして根本的な疑問なのだが、アメリカではなぜ幼児に包皮切除手術をするのだろうか。子どもの頃の包茎なんてあたりまえのことだし、手術しなければこんな問題も起きなかったはずだから。


2001/02/13

 『メッセージ・ソング 「イマジン」から「君が代」まで』(藤田正/解放出版社)  

 10日、京都の伏見区竹田にて「第6回ふしみ人権の集い」が開催された。〈ふしみ人権のつどい実行委員会〉が主催する毎年恒例のイベントに、今回参加したのは第2部がこの地から生れた「竹田の子守唄」について赤い鳥、紙ふうせんとこの伝承歌を歌いつづけている後藤悦治郎氏の講演があり、なおかつその後の紙ふうせんのライブでは地元合唱団による「竹田の子守唄」の元歌披露があることを聞きつけたからだった。

 メインの講演は後藤氏と音楽評論家の藤田正氏との対談に変更になっていて、実は喜んだ。紙ふうせんには伝承歌だけを集めたトーク&ライブをやってもらいたいと常々思っていて、やっぱりそのメインは「竹田の子守唄」になると思っているからだ(その他「いかつり唄」「もうっこ」「糸引き唄」等、いい歌はあるのだけど)。
 単純に歌詞だけではわからない伝承歌の背景、詞の意味を専門家と後藤氏のトークで解説、あるいは若かりし頃の伝承歌採譜の旅の思い出を語り、その後紙ふうせんによるライブで伝承歌を肌で体験してもらう、そんなイベントをライブハウスか小ホールでできないかなあ、なんて考えている。  

 それはさておき。  
 会場で紙ふうせんの最新アルバム「Saintjeum」とともに販売されていたのが、この「メッセージ・ソング」である。  
 古今東西、時代を超越しさまざまなジャンルからメッセージソングをピックアップして紹介している。メッセージソングというとどうプロテストソングとダブって、声高なある種思想ががっている、というか聴衆を先導する過激さみたいなイメージが(僕には)あるのだが、著者はもちろんあくまでもその歌の背景、歌詞の意味から主張を持っている歌たちをメッセージソングとして取り上げているに過ぎない。  

 取り上げられる歌はフォーク、ポップス、ジャズ、歌謡曲等さまざまで、もちろん「竹田の子守唄」も収録されている(昨年同じ出版社から上梓された「放送禁止歌」とリンクする部分も多く、特に新しい発見はなかった)。  
 何しろ冒頭は安室奈美恵の「LOVE 2000」なのだから驚きだ。詞の意味をかみしめると味わいがでてくるから不思議。  
 うれしかったのはボブ・マリーの「ゲット・アップ、スタンド・アップ」だ。映画「太陽を盗んだ男」で原爆を完成させたジュリーがちょうどラジオから流れるこの歌にあわせてビール片手にひとり祝いながら踊り出すシーンは傑作で、僕はこれでレゲエとボブ・マリーを知った。「権利のために立ち上がれ」のサビの部分くらいしか歌詞の内容を理解していなかったが、その背景、意味を知ると歌そのものに対する見方が変わってくる。  
 ビリー・ホリデーの「奇妙な果実」というタイトルの意味も初めて知った。衝撃だった。CDを買おうかなと思っている。   
 「コンドルは飛んでいく」「アメイジング・グレイス」等々、紹介される歌に込められたメッセージの数々はそれこそ「眼から鱗が落ちる」状態。
 人種問題、差別問題、貧困、蔑視さまざまな要素がなにげなく読み飛ばしてしまう歌詞の中に込められており、関西からの帰り、新幹線、JRと乗り継ぎながら読み進むうち、涙が何度かにじんだ個所もある。もうこれ以上電車の中で読めないと、ページをとじてしまった。  

 藤田氏はホールでの対談後、後藤氏、後藤氏の高校時代の同級生でかつて「竹田の子守唄」の本質に迫った本を自費出版した橋本正樹氏、「竹田の子守唄」が全国に知られるきっかけを作った方の息子さんに取材している。  
 後藤さんの好意で取材の模様を拝見させてもらい、終了後、氏に取材の目的をお訊きすると、今秋上梓する「定本・竹田の子守唄」(仮題)に反映させるとのこと。

 期待しています。




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kei

Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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