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 昨日、特撮仲間のSさんからLINEで西條秀樹の急死を知らされた。
 病気のことは知っていたから、その事実を受け入れられることができた。驚いたし、63歳は若すぎると思うけれど。
 夕方、買い物から帰ってTVをつけるとニュースで西條秀樹の死を取り上げていた。
 アイドルとして絶頂期のころの映像が流れると、もうたまらない。涙がとまらなくなった。
 別にファンではなかったが、70年代の歌謡曲、アイドル全盛時代は、好きとか嫌いにかかわらず、歌謡曲、歌謡番組が生活の一部になっていたことを改めて思いしらされた。
 同時代を生きてきたんだ。

          * * *
 
2001/03/14

 「光源」(桐野夏生/文藝春秋)  

 桐野夏生も高村薫と同様にミステリから離れてしまうのだろうか。  
 前作直木賞受賞作「柔らかな頬」はミステリでありながらミステリに必要不可欠の事件解決を放棄してしまった作品であった。事件の真相より巻き込まれた当事者たちの心理描写、その移り変わりにこそ主題があったというべきか。桐野夏生が「柔らかな頬」を経て本作「光源」でそちら方向に進むことは充分予想できたっことではある。  

 「光源」は謎の解明がないにもかかわらずかなりスリリングな展開で最後まで読む者を引っぱっていく。
 低予算の独立映画の製作をとおして、そこに集まった男女の人間模様を描いている。  
 プロデューサーのキャリアを磨くべく全財産を投げ打って新人のシナリオを映画化するヒロイン優子。かつて不倫関係から結婚した年齢の離れた映画監督の夫は脳溢血で倒れ今では寝たきりの状態。夫婦の愛は冷め、夫は元妻のもとに帰りたがっている。孤独感に苛まれている優子は無名時代から目をかけ今では人気、実力とも日本を代表する俳優になった高見貴史を主役にむかえ、夫名義のマンションを担保に制作資金を集めた映画「ポートレイト24」の成功に懸けている。失敗は許されない。  
 優子に映画の撮影監督を依頼された有村は撮影助手時代に優子の恋人だった男。優子に振られ自暴自棄になった有村はアメリカで撮影を勉強し、その技術には定評がある。今回、優子から自身のシナリオでデビューする若い薮内のフォロー役を頼まれている。  
 新人監督薮内三蔵は妻に先立たれた叔父の最後の北海道旅行で自殺にいたるまでの模様を自分の想像を交えてシナリオ化し優子に認められた。叔父が旅行の際に携帯したカメラに残された24枚の写真。叔父は写真の人たちとどのような関係を持ち、何を考え死んでいったのか。若干29歳の大学の映画研究会出身の三蔵は芸術志向の強い、他人とほどよい関係が築けそうにない性格。  
 三蔵がチーフ助監督に使命したのは映研時代の先輩・駒沢。30代になってまだ自分の監督作品を撮れない駒沢に三蔵は批判的。駒沢も青臭い映画論をぶつ三蔵を嫌悪していて、助監督を引き受けるにあたって「面白くなければお前を殺す」と宣言する。  
 映画の中で主役の高見と深い関係になる女性役にかつてアイドル歌手で一世を風靡した井上佐和。その後ぱっとせず、それでも芸能界を何となく生きている存在。最近ヘアヌード写真集を発売した。  

 この5人がそれぞれの理想や思惑、打算で結びつき、映画制作をとおしてやがて自己のプライドやエゴが剥き出しになっていく様が切実さをもって迫ってくる。  
 無事に映画を完成させたいプロデューサー、イメージどおりの絵をフィルムに定着させたくて有名俳優やその道のプロであるカメラマンにNGを出す監督、あくまでも自分が主役という意識が強い人気俳優。この映画で女優としての認められたい元アイドル等々。  
 各人が最初に感じた小さな軋みが徐々に大きくなり、決定的亀裂を生じて現場が大混乱に陥るくだり、映画が中断され、映画を完成させるために誰が誰を利用し、誰を裏切るか。その駆け引きがスリリングなのだ。果たして勝者は誰か。作者はそれを後日談として淡々と語る。  

 主要人物の誰に感情移入できるかで読後感が変わってくるのではないか。一番感情移入しやすいと思った三蔵に少しも共感できなかった。映画は監督のものといっても、映画が総合芸術であること、それより何より自分の立場を理解できない三蔵に後半は嫌悪すらした。助監督駒沢も後半まったく登場しなくなり残念。
 冒頭、再会した優子と有本がロケハン先のホテルで簡単に寝てしまう展開に、ああ、またかと舌打ちした。別れたカップルがそこに到達するまで立場、恥ずかしさ等いろいろな葛藤があって、意識はするにしても会ったその日に昔の関係にもどれるはずない思うだが。ま、今回はこの行為がふたりのわだかまりとなってあとあと尾を引く展開になっていて納得できた。  

 もうひとつ、細かいことなのだが、薮内三蔵の呼び方について。  
 地文で三蔵と書くのはいい。が、会話の中で「三蔵さん」と名前で呼ばれるのがどうもしっくりこない。親しくもない新人監督をスタッフも俳優も苗字でなく名前にさんやくんをつけて呼ぶだろうか。これは「カントク」とか「薮内さん」てとこが妥当ではないか。  

 「光源」を映画化するのであれば、「ポートレイト24」改題「眼差し」を高見や佐和の役柄にふさわしいキャスティングで映像化してみたらどうだろうか。映画の、原作小説に対するアプローチとして面白い試みだと思うのだが。


2001/03/17

 「脳男」(首藤瓜於/講談社)  

 タイトルが強烈である。「脳男」とはいったい何者なのか?  
 昭和30年代の夜も更けた東京某所、人通りの少ない道を一人の女性が歩いている。灯りのついた電柱に人影が見えた。大きめのソフト帽を深めにかぶった男。女性は怪訝そうに前を通り過ぎる。と、男がソフト帽をとった。女性が蒼白になった。男の、当然顔があるべきところには何と二つの眼球がはりついたグロテスクな脳そのものが乗っているのだ!女性の叫び声が街をこだまする……なんてシーンを想像してしまう。まさに江戸川乱歩の世界。怪人二十面相や少年探偵団が活躍すればもっと雰囲気がでますな。  
 第46回江戸川乱歩賞受賞作らしいタイトルだ。  

 愛宕(おたぎ)市を騒がす連続爆破犯のアジトをつきとめた主人公のひとり、体重120kgの巨漢刑事が廃ビルに潜入、犯人と格闘を繰り広げるがすんでのところで逃げられてしまう。冒頭から派手なアクションが展開され、タイトルの不気味さとのミスマッチを感じつつ爆破犯と脳男とがどう結びつくのか、夢中で読み進むと、警察が来る前からアジトで犯人と対峙していて、共犯者で逮捕されたもう一人の男が該当者だった。彼は逃亡した犯人の耳を引きちぎるほどの怪力を持ち、痛さも感じないらしい。  

 この男の精神鑑定を担当するのが美貌の女性精神科医。本編のヒロインだ。いかにもな役柄、設定だがやはりこの手のドラマには不可欠な存在だろう(僕が男だからか?)。  
 男の名は鈴木一郎、29歳。小さな新聞社を経営していたということ以外過去は一切不明。戸籍を改竄した形跡があり偽者であることが判明したのだ。鑑定途中で男が生まれつき感情が欠如しているミュンヒハウゼン症候群であることがわかり、俄然男への興味がわく。  
 こうしてヒロインの男が何者なのか、まるで〈大海の中で一匹の小魚をつかまえる〉困難な追跡調査が始まるのだった。
 男は幼児期に自閉症での通院歴が必ずあると信じるヒロインはそのカルテを探し出すことに奔走する……。  

 プロットはごくごく平凡なものである。よく考えると実際にはありえない展開も続く。それでも最後まで一気に読めたのは脳男(ミュンヒハウゼン症候群に苦しんだ過去を持つ男)を創造したこと、精神医学の世界を背景に、関連するキーワードをちりばめたことによる。
 脳男と女精神科医の物語が今後も生まれる可能性があることを予感させるラストに余韻があった。  

 複雑な精神をもつ男の仮の名を鈴木一郎にしたのは笑える。主人公を含めほかの主要人物が茶屋、鷲谷、曲輪、苫米地、入陶、伊能、空身なんていう名前なのだから。ふりがながなくていったいいくつ読めるか?




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プロフィール

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Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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