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2002/05/28


 「苦悩する落語家」(春風亭小朝/カッパブックス)  

 「苦悩する落語家」とは何とも意味深な書名である。副題に「二十一世紀へ向けての戦略」とあって何やら堅苦しい感じがしないでもない。でも書き手は春風亭小朝である。そのまま素直に受け取ることはできない。
 和田誠のイラスト(小朝の似顔絵)と題字によるほんわかした表紙、一センテンス一段落の読みやすい文章から、書名とは裏腹に落語界周辺を題材にした軽めのエッセイ集だと思った。
 
 第一章〈新人の頃〉は著者自身の新人時代の思い出を語っていてほのぼの気分に浸れる。ところが第二章の〈落語界改造計画〉からまさに題名に偽りなしといった感じで、落語家、協会に対する苦言が次々に出てくるのだ。  
 著者自身は先輩36人抜きして真打に抜擢されてから、本業の落語以外にもマルチタレントとして人気沸騰、向うところ敵無しといったところで、自分のことだけ考えていれば安泰に違いない。しかしまわりを見渡してみると業界という大海原で溺れかけている仲間がたくさんいる。先輩たちには現状に不満を持っているいる人もいるにはいるが、自ら動こうともしない。噺家はみな一匹狼だからいたしかたない。団体も一致団結して何かしようなんてことはしない。  
 落語および落語家をとりまく現状に危機感を募らせた落語界の人気者が、このままだと落語は過去のものになってしまうとばかりに、本当に21世紀に向けてのさまざまな提言を述べた書なのである。
 寄席に出ている落語協会所属の落語家と出ていない立川流とどちらが活躍しているか、と胸を張る談四楼講師の声がよみがえった。

 読んでいて辛くなってくる。未来の落語協会会長・古今亭志ん朝はもういない。一緒に独自の寄席をプロデュースした三木助は自ら命を絶ってしまった。年齢から考えれば大往生じゃないかと思えるものの、人間国宝・小さんも今はもうこの世の人ではない。本書が平成12年に書かれていることを思うと、運命とはいえあんまりではないか。  

 落語協会、落語芸術協会の幹部で、あるいはこれからの落語をリードしていかなければならない真打で本書の提言に耳を傾けた人が何人いるだろうか。


2002/06/04

 「日本語観察ノート」(井上ひさし/中央公論新社)  

 井上ひさしの日本語に関する本だとどうしても手がのびてしまう。  
 読売新聞・日曜版に1999年2月から2000年5月まで連載されたエッセイがまとめられている。なぜ発行が読売新聞社でなく中央公論新社なのか、と一瞬疑問がわいたが、中央公論は読売新聞の傘下に入ったんだっけ。  

 著名人の発言、新聞・雑誌等の掲載された文章等、ピックアップされた〈言葉〉について著者が答える一問一答形式。

 「文才がございませんので」  
 これは新聞記者団から、「石原慎太郎東京都知事が小説を書いたが首相ならどんなテーマで書くか」と質問された際の小渕さんの回答。エッセイの内容とは別に、この質問をした新聞記者は何を考えているのだろうと思った。石原慎太郎は小説家から政治家になった人だ。小説を書くのは当然ではないか。その人がたまたま都知事をやっているだけのこと。なのに(東京都のトップの)都知事が小説を書いたから、(日本のトップの)首相なら…という発想はあまりに短絡的すぎる。もしかしてこの記者、石原慎太郎が「太陽の季節」で芥川賞を受賞したことなんて知らないんじゃないのか。
 
 なぜ日本語にはダジャレが多いのか。日本語には言葉の素になる音(音節)が百数個しかない。ということは当然同音異義語が増えるというわけ。ちなみに中国の音節は400数個、英語には8千とも3万ともあるといわれている。  

 「人生いろいろである。」
 これを文の最後にもってくればぴたりとおさまることを発見したのは宮沢章夫という人。著者はなるほどとうなづきながら、「人さまざまである。」も同じ効用があると、いろいろな文章のあとにおいてみる。みごとにこれがはまるのである。ラストの一行で詰まったら、試してみるのも一考かも。  
 西村真悟議員の核装備をめぐる失言(そういえば女性議員に対してレイプ云々というのがありましたねぇ)から、失言には〈だが主義〉が招くと、ものごとを十把一からげにくくって判断する危険性を口すっぱく説く。  

 日本語に関するさまざまな事象や問題に、井上ひさしがどう見て何を考えているのか、よく理解できる。〈日本語〉本は井上印がおすすめ。  
 人さまざまである。




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新井啓介
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まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)

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