2010/06/02

 「リアルワールド」(桐野夏生/集英社)

 この小説も、実際の事件にインスパイアされたとおぼしきもの。〈取材した〉ではない、あくまでも〈インスパイアされた〉小説。桐野夏生にはこの手の作品が多い。

 それにしてもこの小説、登場人物と同じ世代の少年少女向けなのか、ティーンエイジャーの親が読むべきものなのか。
 母親を殺して逃走する男子高校生と、逃亡の手助けをする女子高生4人組。男子高生と女子高生の関係は希薄だ。男子高生と女子高生の一人がお隣さん同士なのだが、これまでまったく接点がなかった。逃走時に駅で盗んだ自転車(&携帯電話)がたまたま当の女子高生のものだったに過ぎない。

 各章がそれぞれ5人の一人称による語りになっている点が興味深い。
 女子高生の生態や思考が、タイトルどおりリアルに表現されているところに、読み始めのころはうんざりしていたのだが、途中で気にならなくなった。感情移入させられたのだ。年齢的には彼らの親の世代なのに。自分が思っている自分、他人が考える自分。その差。あの孤独感、焦燥感は三十数年前も現代も変わらないということなのか。
 ラスト近くで彼女の叫び声が聞こえたような気がする。「グロテスク」がそうだったように。


2010/06/10

 「KUROSAWA 黒澤明と黒澤組、その映画的記憶、映画創造の記録 映画美術編」(塩澤幸登/河出書房新社)

 「平凡パンチの時代」を読みながらどうにも気になって仕方なかった。著者の名前に見覚えがあったのだ。しばらくして気がついた。そうだ、〈黒澤明〉本だ! 確か分厚い黒澤本の著者が同じ名前だったような。調べてみたらやはりそうだった。それも何冊か出ている。今は「黒澤明体系」というもっと分厚い本がシリーズ(今のところ4冊?)で出版されているのでそれほどでもないが、初めてこの「KUROSAWA」シリーズを書店でみたときはかなりインパクトがあった。

 映画スタッフという言葉に人は何を思うのか。たとえば〈「パイレーツ・オブ・カリビアン」のスタッフが再結集!〉なんていうキャッチコピーがあるとする(映画タイトルはあくまでも大ヒットした映画の例だが)。若いころは「パイレーツ・オブ・カリビアン」のスタッフが50人いるとして(実際はもっと大所帯だろう)、50人が再び集まるイメージがあった。実際は、プロデューサー、シナリオライター、監督、キャメラマンの4人が同じくらいの意味あいなのである。
 スタッフといったら、末端の人たちも含めるべきだろうし、映画はそういう人たちがいて製作されるものではないか。

 本書は、そういう意味できちんと美術スタッフに取材(インタビュー)していてとても読み応えがある。「平凡パンチの時代」がそうだったように、スイスイ読める。700ページが苦にならない。テーマが映画美術というのも一因かもしれない。
 通常なら村木与四郎やワダエミ、黒澤和子あたりが取材対象になるだろう。スタッフの対象が広く、かつ黒澤組の現場に対する率直な感想が貴重だ。なかば伝説化している「赤ひげ」養生所のセット、小道具の扱い…実際に画面に映らなくても、薬棚(箱)すべてに薬が用意されていた…が嘘であることがわかった。とはいえ、汚しについてはかなり心血をそそいでいる。読んでいて思った。「スター・ウォーズ」に登場する宇宙船、メカの類がいかにも使い古された感じがして公開時話題になった。これも黒澤映画の影響ではないだろうか。

 東宝撮影所の中でもやはり黒澤組は特別であることがわかった。スタッフに特別な意識があったからこそ、映画史に残る数々の黒澤作品が生まれたのだ。
 だからこそ考えてしまう。「トラ・トラ・トラ!」では、なぜ、東映京都撮影所を選んだのか? 大映京都撮影所、あるいは松竹大船撮影所ならば、過去使用したことがあるのでまだわかる。東映、それも京都なんてこれまでまるで交流がない。当然スタッフも。そんなところに黒澤組の常識が通用するはずがない。にもかかわらず、東宝撮影所における黒澤組同様の撮影方式を貫き、スタッフと軋轢が生じ、結局解任されてしまうのだ。
 世界に進出するためには、慣れ親しんだ東宝から脱却しなければならないと考慮した結果なのか。あるいは〈世界のクロサワ〉ならばどの撮影所でも自分のやり方が通用すると判断したからか。

 掲載されたインタビューは実際録音されたものをそのまま書き起こされたものなのだろうか。というのは、活字化するにあたって、より読みやすく、あるいは読んで理解できるように、書き改めたほうが良いと思われる箇所がいくつかあるからだ。インタビュアーが別の人だと業界ではNGなのかもしれない。


2010/06/11

 「素晴らしい日本野球」(小林信彦/新潮文庫)

 突然「素晴らしい日本野球」に所収されている短編群が読みたくなった。
 単行本「発語訓練」、その文庫本「素晴らしき日本野球」。どちらも持っている。にもかかわらず、本棚を探したらどちらも見当たらない。そうなると余計に読みたくなる。2月、両国を訪れたときにブックオフで見つけた。何冊持っていてもいいやとすぐに購入。以降、ずっと積ん読状態だった(なぜ?)。

 「素晴らしい日本野球」「素晴らしい日本文化」のW・C・フラナガンものは、後年、薄井ゆうじが「本の虫」で挑んでいる。
 そのほか、 もしもソ連に進駐されていたら? でたらめなヒット歌謡曲の羅列に大笑いできる「サモワール・メモワール」、身辺雑記風の私小説が異様なラストを迎える「到達」、いたいけな少女をヒロインに大藪春彦風ハードヴォイルドが展開される「いちご色の鎮魂歌」、ほら吹きで有名だったジョージ川口、彼をモデルにしたジャズドラマーの奇想天外な人生を描く「嵐を呼ぶ昭和史・抄」等々。
 愉快、痛快、奇奇怪怪。




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Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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