昨日(4日)は、池ノ上シネマボカンで下倉功監督作品の上映会。何とか最初の上映作品「夏の疫病神」に間に合った。最新作「いつかなくなる」の何気ないエロティシズムにゾクゾクした。
 上映会後の懇親会(打ち上げ)。終電の関係で帰れなくなった監督につきあって、音楽担当のH氏と監督補佐のI氏の4人で新宿で飲み直し。最後はマクドナルド。朝帰り。
 今日は疲れで1日中ふとんの上だった。

          * * *

 「キャタピラー」(テアトル新宿)

 主演の寺島しのぶがベルリン国際映画祭で最優秀女優賞を受賞したことで一気に知られることになった、若松孝二監督の反戦映画。
 内容がまるで江戸川乱歩「芋虫」のようだ、と思ったら、タイトルの“caterpillar”とは、英語で芋虫のことだという。実は最初、タイトルの意味を無限軌道だと勘違いしていた。昔、チューリップのアルバムで「無限軌道」というタイトルのものがあって、キャタピラのことだと知ったいきさつがある。そんな昔の思い出から、無限に繰り返される人間の愚かな行為=戦争を指すのではないかと思ったのだ。

 冒頭のキャスト・スタッフクレジットがエンディングみたいに下から上にローリングするのが新鮮だった。大いに期待が高まったのだが、続く日本兵が中国人女性(?)をレイプするシーンで萎えてしまった。演出がいかにもなステレオタイプ、また見せ方がしょぼい。手前に炎を合成させた安易な作りなのである。
 以降、映画には違和感ばかり覚えてしまった。そして、残念ながら、最後まで拭い去ることができなかった。

 まず、ヒロイン、シゲ子の性格がよくわからない。戦争から帰ってきた夫(大西信満)の姿(四肢の切断、顔に醜い火傷痕)を見て、驚きのあまりとはいえ、真昼間、外に飛び出して大声で「あんなの夫ではない!」というようなことをわめき叫ぶだろうか? 心情はわかるとしても、あの時代である。義父や義弟の前で本音なんて言えるはずもない。押さえていた感情が堪りに貯まってたまって、あるとき感情を爆発させるのではないか。
 また、夫が〈生ける軍神〉として世間から崇められるが、当時そんなことがあったのだろうか?

 映画で描かれた季節はいつなのか? ラジオから東京大空襲のニュースが流れる。ニュースを聴くシゲ子の服装は半そでの夏服。3月10日はまだまだ寒かっただろうに。
 「都の西北、早稲田の杜に」を歌いながら、何やら活動している学生たちは何者なのだ? いったい何をしているのだ?

 夫は戦場でどのようにして大怪我を負ったのか? 映画を観ながらずっと気になっていたことだが、説明は一切ない。冒頭のレイプシーンに登場する日本兵(の一人)が夫であり、中国人女性に対する極悪非道な行為のみ何度も挿入される。映画の後半になると、夫はその行為がトラウマになって苦しんでいるのだが、まるで四肢の切断はこの行為が原因のような描き方。納得がいかない。

 エンディングに流れる元ちとせの「死んだ女の子」。元は「わたし」とうたっているのに、歌詞テロップは「あたし」。こういうところに激しく反応してしまう。

 反戦の主張があまりに前面に出すぎているのだ。
 またその理由を天皇に結びつけている。僕自身だって、天皇に戦争責任がない、なんて思っていないが、この手の映画でそう主張するのは短絡的ではないか。

 寺島しのぶと大西信満のセックスがかなり濃密に描写されている。また興奮させてもくれる。アダルトビデオ全盛の今、これは珍しい。
 思うに、ふたりのやりまくり映画にすればよかったのだ。たとえば大島渚監督の「愛のコリーダ」。あるいは神代辰巳監督の「赫い髪の女」のように。
 最初は献身的に夫の世話をやくシゲ子。下の世話から、夫のイチモツを手にして擦っているとみるみる勃起していく。そこだけは正常に反応するのだ。最初は手による快楽だけでよかったが、次第に要求がエスカレートしていく。
 食欲と性欲だけが亭主が生きていることの証。だからこそシゲ子は受け入れるわけだが、ただそれだけの日々の積み重ねにやがて夫への不満が募っていく。観客に対して夫の過去のDVが明らかになるにつれ、シゲ子の夫に対する復讐が始まり……。

 あくまでもふたりの性愛だけを描き、その行為の果てに戦争の犠牲者としての姿が思い浮かべられれば、映画の印象はかなり違ってくると思う。
 テーマを声高に叫んだら、作者の思惑とは別に作品が薄っぺらなものになってしまう。




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H さん
もちろん「芋虫」をベースにしてストーリーを構築したのでしょうが、江戸川乱歩の遺族ともめて、原作権がとれなかったらしい、ですよ。
追伸
原作権がとれなかったから、タイトルを「キャタピラー」にしたのでしょうか? 原作権がとれたのなら「芋虫」だったのでしょうか。
原作権がとれようがとれまいが、「芋虫」のストーリーを応用しているのは間違いないですよね。
ってことは、「原作」の意味は何でしょう?

ま、そこらへんのことは、今度呑むときに。
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プロフィール

kei

Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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