昨日(5日)は地元シネコンで「十三人の刺客」を鑑賞。「たそがれ清兵衛」を観たときの感情が蘇った。本格時代劇はもうそれだけで気持ちいい。内容は「必殺仕掛(仕置)人」+「七人の侍」。前半の屋内シーン――陰影を強調した映像、行灯による照明、トーンの暗さ、ゆらゆら感が新鮮だった。レイトショーが終わったのが23時50分。帰宅したら0時30分過ぎ。

 一昨日(4日)はフジテレビ「世にも奇妙な物語」。もう何年も観ていなかったのだが、朝刊TV欄の紹介で興味を持った。人気作家の短編をドラマ化していていて、特に宮部みゆき「燔祭」に注目したのだ。
 時間の関係で後半の3本のみ観る。

 「燔祭」はまず小説を読んでいる。数年後「クロスファイア」が映画化され、映画のあとに小説をあたった。その前に「クロスファイア」が「燔祭」の後日談だと知って「燔祭」を読み直している。あれからもう10年経つのか。
 夕景工房に書いた映画と読書のレビュー、その変遷をまとめてみた。文章は一部訂正しています。

 ちなみに今回のTVドラマで広末涼子と香川照之が演じた主人公の青木淳子と多田一樹、映画では矢田亜希子と伊藤英明だった。
 〈燔祭〉とは聖書に出てくる言葉だとか。

     ◇

 ●「クロスファイア」(日劇プラザ) 2000/07/14

 当初、金子監督で宮部みゆきの傑作ミステリ「火車」を映画化すると発表されたように思うのだが、僕の勘違い、あるいは別プロジェクトで動いているのだろうか。
 どちらにしても念力放火能力〈パイロキネシス〉を持つヒロインが活躍する「クロスファイア」の方が映画化には適していると思う。

 金子監督作品だから期待しないわけはなかったけれど、これほどよくできた作品とは思っていなかった。
 アバンタイトルのヒロインの過去を描くシーンが手際よく簡潔にまとめられ非常に興味深いプロローグとなった。これですぐに映画の世界に引き込まれる。また、後半「謎の焼殺事件はバイロキネシスの犯人によるものだ」と信じて疑わず強引に捜査する刑事とヒロインを結ぶ重要な伏線にもなっている。
 ドラマの展開も早く、ダレることがない。ヒロインおよびその仲間たちに素直に感情移入できる。脚本は原作をうまくまとめていると感じた。
 惜しむらくは後半クローズアップされる超能力集団〈ガーディアン〉が何者で何を企んでいるのか、という部分がウヤムヤになってしまったところ。これとて、〈悪〉に対するヒロインの感情の爆発と迫力ある特撮がシンクロしたクライマックスの怒涛の展開でそれほど気にならなかった。

 ヒロイン(矢田亜希子)が魅力的だ。金子監督はヒロインの描き方がほんと巧い。衣装や小道具にも目を行き届かせヒロインの存在を浮き立たせている。
 ヒロイン以外でも登場人物の配役が的確で印象深かった。刑事役の桃井かおりと原田龍二のコンビが新鮮で、特に桃井かおりがいい味をだしている。ポツリつぶやく一言が絶妙。このコンビでTVの2時間ドラマのシリーズが作れるのではないか。
 自閉症と診断され、特殊学級に入れられているパイロキネシスを持つもう一人の少女がトリイ・ヘイデンの本を読んでいるなんて「わかっているな」って感じ。
 火炎の特撮はかなりの迫力で、遊園地の爆発も遜色ない 。
 それだけではない。リリカルな特撮に心がなごむ。雪の夜、ヒロインと恋人が抱きあうと、炎の膜ができて、ぶつかる雪が音をたてて溶けていくシーン。ラストのろくそくが灯火されるカット。ヒロインの死という哀しい結末を、彼女の肉体はなくなっても精神はいつまでも生きているんだよ、とやさしく語りかけているかのようだ。

 大谷幸の音楽は平成ガメラシリーズでも観るたびに印象深くなって、興奮させてくれるが、本作でもその威力を発揮している。「ガメラ」ゆかりの役者たちが多数ゲスト出演していることもファンにはうれしいところ。
 本邦初の撮影監督、高間賢治氏が撮影で参加していた。

     ◇

 ●「鳩笛草」(宮部みゆき/光文社カッパノベルス) 2000/07/28

 映画「クロスファイア」には原作として「クロスファイア」とともに「鳩笛草」がクレジットされていてちょっと驚いた。
 実は「鳩笛草」を数年前に読んでいて、にもかかわらずストーリーは全く覚えていないのだ。   
 いったいどんな物語だったのだろうと、感想を書いた当時の日記帳をあたってみると〈超能力を持つ女性を主人公にした短編(中編)が3編収録されている、表題作の「鳩笛草」の世界がいい〉とあって内容には触れていない。だから「鳩笛草」と「クロスファイア」がどう関係しているのか、映画化にどう影響しているのかわからなかった。
 仕方なくもう一度図書館から借りてきてチェックすることにした。

 本書は「朽ちていくまで」「燔祭」「鳩笛草」が収録されている。前記のとおりすべて超能力を持つ女性が主人公だ。
 「燔祭」のヒロインが青木淳子。なんと「クロスファイア」はその続編にあたり、映画の前半部分はこの「燔祭」をベースにしてストーリーが組み立てられていることがわかった。
 「燔祭」は妹を不良グループに殺された多田一樹の立場から物語が描写される。青木淳子は多田の前を吹き抜けていった風のような存在で、映画のような恋愛に発展する出逢いはない。
 不良グループを殺そうとする淳子の動機はあくまでも多田への同情であり、〈装丁された一丁の銃〉として多田の武器となることを強く望む。それが自分が生れてきた証のように。
 映画では自分に好意を持ってくれる多田への想いや彼の妹が殺されたことに対する自責の念がないまぜとなって、復讐心に燃える設定となっていた。一番の違いはこの動機だろう。
 ろうそくの点灯もラストで映画とは違うニュアンスで描かれていてこちらもとても印象深い。  

 「燔祭」だけ目をとおせばいいと思っていたものの、面白くて結局全部を1日で読んでしまった。 
 透視力を持つ女刑事が徐々に力を失っていく不安におののきながら、事件を解決していく姿を描く表題作「鳩笛草」は彼女をあたたかく見守る同僚、上司たちのキャラクターがいい。心がなごむ。 
 それにしても一度読んでいるというのに本当にストーリーを忘れていて、まるで新作を読むような感覚でページをめくった。

 「朽ちていくまで」は3編中一番ミステリ色が強い。
 小学生のころ父母を事故で失ったヒロインには事故前の記憶がない。ずっと一緒に暮らしてきた祖母も亡くなり、家を整理していると押入れから多量のビデオを発見する。それは父母が幼い頃からの自分の予知能力を記録したものだった。
 もしかして自分は父母の死をも予知しているのでは? 
 いや予知能力を持つ娘に嫌気がさした父母が無理心中をはかったのではないか? 
 ヒロインは懸命にビデオを再生する。果たして……。
 これもまた結末を忘れているからヒロイン同様、真相が解明されるまでこちらも落ち着かなかった。
 最後に読了したからだろうか、今回は3編の中で「朽ちていくまで」が一番心に残った。

     ◇

 ●「クロスファイア」上下(宮部みゆき/光文社カッパノベルス) 2000/08/10

 「クロスファイア(上)」の〈作者のことば〉で立ち読みでもいいから前作「燔祭」を読んでくれ、と書いた気持ちが(下)を読了した今痛いほどわかる。
 これは前作と対をなす警察小説の形を借りた孤独な超能力者・青木淳子の愛と哀しみの物語だ。

 「燔祭」の淳子は(多田一樹の主観で描かれているといえ)あまり目立たない、他人と交流をもつことを拒む暗い女性として登場する。それが本作では他人の目を引くかなりの美人に変貌している。
 「燔祭」における淳子は〈装填された銃〉として悪を征伐する武器でしかなかった。そう自覚して他人との触れ合いを一切拒否していた。正義のためという大義名分はあるものの、誰のために戦うのかというはっきりとした目的意識をもっていなかった彼女には生きる喜びも見出せなかったことだろう。
 そこに不良グループに妹を惨殺された多田がいた。多田のために多田の同意を得たわけではなかったけれど、犯人を探し出し焼殺することに数年の歳月をかけた。ある意味そこに生きる目的、喜びを見つけた。だから外見も変わったのだと僕は思う。
 同時にそれは彼女を殺戮者として変貌させてもいる。「クロスファイア」の淳子は容赦なく人を殺す。真犯人を追いつめるためには殺すまでにはいたらない共犯者(あるいは仲間)まで手をかける。 
 凶悪な犯人グループに連れ去られた女性を救うためとはいえ、彼らのアジトを知る拳銃密売組織のチンピラや主犯の母親、前作で取り逃がした共犯者の女を躊躇したとはいえ、あっけなく殺す彼女の姿に少々戦慄してしまった。先に映画を観たから当然なのだけれど、そうでなくてもラストの彼女の運命はわかったようなものだ。
 孤独に生きてきた淳子が木戸という超能力を持つ仲間と知り合い、人を愛すること、一番大切な人のために生きていく喜びを知ったとき、それが彼女の最期を意味するという何という皮肉な運命。
 作者が描きたかったのはまさしくここではないか。

 映画ではよくわからなかった悪狩りの組織〈ガーディアン〉も小説を読めば、その設立意図や行動に納得がいく。組織のボス(映画では永島敏行が扮していた)が執拗に淳子の抹殺を狙っていたのは、彼女の個人的な行動で超能力者集団〈ガーディアン〉の活動が表沙汰にならないためという理由による。(しかし映画では木戸まで殺してしまう。それがよくわからない。)
 映画は映画本来の特色である特殊技術を駆使して、スペクタクル要素を前面におしだしたクライマックスだった。原作は心理描写に重きをおいたサスペンスで読者を揺さぶり、あっと言わせるどんでん返しの後、彼女の悲劇を描く。
 絵的にも雪で真っ白に覆われた夜の河口湖畔、狙撃され横たわった淳子の身体から流れ出る真っ赤な血、彼女の最後の力でオレンジの炎に包まれ燃え上がる木戸、と色のコントラストが印象的だ。

 映画「クロスファイア」はよくできていると思うが、最初に原作を読んでいたら〈ガーディアン〉の描き方云々に関係なく、映画のクライマックスからラストにかけて不満をもらしたかもしれない。 
 特に淳子の死んだあとのエピローグが切なく忘れがたく、電車の中で涙があふれてきてその始末に往生した。
 ヒロインが死んだからかわいそう、悲しい、というのではない。
 連続焼死事件の真相を求め、彼女を追い続けていた刑事たち、彼女が対面を望んでいた小さなパイロキネスト倉田かおり、ほんの一時会話しただけの豆腐屋の娘……おのおのがそれぞれの立場で彼女が生きてきたことをしっかり認識し、その死を悼んでいる心根がうれしかった。




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Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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