2011/01/10

 「アンストッパブル」(TOHOシネマズ日劇)

 承前

 実際はオハイオ州で起きた事故を、映画化するにあたってペンシルベニア州に変更したのは、スタントン郊外の急カープ(高架)をクライマックスにもってくるための処置だったのか。
 貨物車に積載されているのは大量の化学物質。暴走しているスピードでこの急カーブを曲がれば脱線する。あたりは燃料工場(?)が立ち並ぶ。引火爆発して大惨事が起こるのは必須。これを回避できるか否かのサスペンスで急カーブのシークエンスまでは異様な緊張感に包まれる。かつての「暴走機関車」と同じく「これは映画だ!」と快哉を叫びたい。

 主演のデンゼル・ワシントンはベテラン機関士役。会社はベテランクラスを次々とリストラしている最中でデンゼルもその対象になっている。
 デンゼルとコンビを組むのは新入りの車掌クリス・パイン。鉄道会社関係者の家族なので、こいつらのために自分たちが犠牲になるのかとデンゼルには面白くない。
 また、二人はそれぞれ家族の問題を抱えている。デンゼルは数年前に妻を亡くし、年頃の娘たちと何となくうまくいっていないようだ。深刻なのはクリスの方だ。原因は自分にあるとはいえ、妻と別居し子どもに合えない。解決は家裁に持ち込まれている状況だ。

 アクション(スリル&サスペンス)に人間ドラマ(対立、葛藤)を持ち込んでいるが、底が浅い。小説や演劇と違ってスリル&サスペンスだけで十分ドラマは成り立つのが映画なのに。
 昔からスリル&サスペンスだけの映画は識者には評価されないから仕方ないか。ヒッチコックは結局一度もアカデミー監督賞を獲れなかった。スピルバーグも賞の対象になるのは「カラーパープル」「シンドラーのリスト」等の社会派ものばかり。初期の作風にスペクタクルを加味した「宇宙戦争」は主人公と家族の関係、家族愛について言及する批評が多かった。違うって。家族の描写は単なるアクセサリーでしかないのだから。キモは主人公と子どもたちが宇宙人の攻撃からいかにして逃れられるか、だ。そのスリル&サスペンスが面白いか否か。
 「アンストッパブル」はタイトルどおり暴走する列車の内と外の人間たちのドラマ、そのスリル&サスペンスだけを追い求めるべきだった。

 男二人に絡むのが操作場長ロザリオ・ドーソン。操作場の指令室(?)からてきぱきと部下に指示を出す聡明な女性だ。「暴走機関車」も暴走機関車内で男女3名のドラマが繰り広げられた。まあ、男2人+女1人は映画の定番だけど。 
 
 暴走する貨物列車を停止させるためには、まず機関車に乗り込んでエンジンを止めることを考える。
 当初列車はゆっくり走行していると思われたが、実際は猛スピードで激走していた。無人で走りだすきっかけ(実にくだらない人的ミスなのだが)に、字幕で〈力行〉という言葉がでてくる。意味はなんとなくわかるがどういうことなのか? ウィキペディアで調べると自動車でアクセルを踏んでいる状態だという。
 まずレスキュー隊(?)のメンバーがヘリコプターから吊られて機関車に乗り込もうとする。が、あっけなく失敗。この作戦はすぐに撤回される。なぜ1回でやめてしまったのか。たぶん一番有効的な作戦だと思うが。
 次なる手は貨物切り離し作戦ではなく脱線作戦。脱線させる前に、なぜ大量の化学物質を積載した貨物を切り離さないのか。「暴走機関車」の二番煎じになるからか?

 同じ線路を反対方向から走ってきたデンゼルとクリスがこの事故(事件)に巻き込まれた。間一髪で衝突を回避したのち、デンゼルの職人気質、プロ根性から暴走貨物列車を停止させようとする。その方法とは、一番最後の貨物の連結部分が運よく開いていたことから、自分たちの機関車を連結させ、逆方向に引っ張ることにより停止させるというもの。
 そんなことできるのか! と思った。とはいえ、その後の描写はいかにもプロの仕事という感じ。興奮するし、いやがうえにも緊張感は高まる。

 だが、その緊張感も急カーブの大惨事を回避したあたりから、徐々にしぼんでいく。
 理由は、それこそ急にデンゼルがヒーロー然の活躍をし始めてしまうからだ。結局後方からの引っ張り作戦では列車を停められないことがわかったデンゼルが機関車のところまで行って中に入ってブレーキをかけるという方法をとることにする。いくつもの貨物車を飛び越えていくわけだが、四角いものはともかく丸型なんて停止状態だって歩くのにも苦労するのではないか。シルベスター・スターロンやブルースウィリス、スティーブン・セガールではないのだから。
 最後の最後の方法も、だったらヘリコプター作戦を何度も敢行すればよかったじゃないかと叫びたくなった。

 満足感は十分味わえる映画である。それは確かだ。




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Author:kei
新井啓介
ライターの・ようなもの
まぐまPB「夕景工房 小説と映画のあいだに」(studio zero/蒼天社)
「僕たちの赤い鳥ものがたり 1978-79」(文芸社)
神保町で働いています。

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